医薬原薬の製造【第11回】

2015/05/18 原薬

抽出溶媒の選択

抽出には必ず溶媒が用いられますが、この溶媒がどのようにして選択されるのかについて考察します。溶媒の性質をまとめた表を最後のページに提示致します。一番右側の欄にはLogPが表示されています。この数値は、オクタノール/水系で、それぞれの溶媒の分配係数Pの10を底とする対数を表します。大きいほど脂溶性が高く、ゼロ以下の溶媒は水と混ざりあいます。

抽出溶媒としては、水と分離するものであることが必要です。また分離した有機層にできるだけ水分が少ないものが望ましいです。抽出溶媒として用いられているものは、LogPが1以上のものがほとんどです。酢酸エチルが0.73と1を切っていますがこれは例外と言えます。

ヘキサン、トルエンのような炭化水素系溶媒は、LogPが2.5以上で、比較的極性の低い化合物の抽出に用いられます。水と共沸しますので、水分を除くことは容易です。

塩素系の溶媒は、有機層に含まれる水分が少なく、比較的極性の高い化合物も良く溶解するので抽出溶媒としては非常に優れています。しかしながら、前回述べましたように環境面から種々の規制があることで、最近ではほとんど使われなくなってきています。よほどのことがない限り抽出溶媒として選択されることはありません。

エステル系溶媒では、酢酸エチルが最も良く用いられています。工業的に大量に使われているために価格が安いというのがその理由と考えられます。しかしながら、酢酸エチルは、酸処理、アルカリ処理(特にアルカリ)によって、部分的に加水分解を受け、エタノール、酢酸を生じ、微量ではありますがこれらが抽出物に混入します。これが製造現場ではやっかいな問題を引き起こすことがあります。酢酸は、沸点が高いため、溶媒を除去して生成物を得るときに、生成物に混入してきます。またエタノールは、酢酸エチルと沸点が近いので、回収時に分離することができないので、回収を続けて行くとエタノール含有量が徐々に増えてきます。このような理由から、酢酸エチルは好んで使いたい溶媒ではありません。これを避けるために、最近では酢酸イソプロピルが抽出溶媒として用いられることが増えているようです。ただし、この溶媒は酢酸エチルに比べて、流通量が少ないのでコストが高くなります。
 

10ページ中 1ページ目

執筆者について

森川 安理

経歴 アンリ・コンサルティング 代表。
大学修士課程で有機化学を専攻後、1977年旭化成工業(株)入社。スクリーニング化合物の合成、プロセス化学研究に一貫して従事。この間薬学博士号取得。その後、医薬原薬の工場長を10年経験。工場長として、米国、イタリア、豪州、韓国の当局の査察および、制癌剤を中心にする治験薬の受託生産を経験。旭化成ファインケム(株)を2013年2月末退職。2013年3月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

31件中 1-3件目

コメント

この記事へのコメントはありません。

セミナー

2025年7月2日(水)10:30-16:30~7月3日(木)10:30-16:30

門外漢のためのコンピュータ化システムバリデーション

2025年8月21日(木)10:30-16:30

GMP教育訓練担当者(トレーナー)の育成

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます