ゼロベースからの化粧品の品質管理【第57回】

製造所における標準書遵守とヒューマンエラー対策について
―製造所における標準書遵守とヒューマンエラー対策について―
化粧品の製造現場では、「標準書が守られていない」「ヒューマンエラーによるトラブルが多い」といった話をよく耳にします。
しかし、標準書は製造工程の一貫性を保ち、品質を保証するための基盤であり、GMP(適正製造規範)を守るうえでも欠かせない存在です。
そもそも標準書は、「誰が作業しても同じ品質が確保できる」ことを目的に作成されるものです。手順が明確に定められていなければ、作業者ごとの判断に委ねられてしまい、品質のばらつきや異物混入、手順の抜け漏れといったリスクが高まります。さらに、標準書は監査や行政の査察の際にも重要な根拠資料となり、会社の信頼性を担保する意味でも極めて重要です。
そのため、「標準書やルールを守る文化づくり」は、GMP体制を強化するという意味だけでなく、企業経営の土台作りそのものともいえるのです。
また、「標準書が守られなかった」「ヒューマンエラーが発生した」ことへの対策として、「ダブルチェック体制を導入した」「標準書の教育を行った」といった報告を目にすることも少なくありません。ですが、こうした対策だけで本当にトラブルはなくなるのでしょうか?
「人に注意させる」「教育する」という対応が中心になると、「これまでと何が変わったのか?」「仕組みや体制そのものは見直されているのか?」「そもそも現場の作業者の声は聞いているのか?」と、疑問を感じずにはいられません。
そこで今回は、標準書の基本的な考え方や、実際の作成方法、そして現場で定着させるための進め方についてお話しします。
なお、ヒューマンエラー対策については、交通事故や労働災害、HSAS18001:2007などの専門家による知見がありますので、ここでは「現場で守られる標準書づくり」という視点に絞ってご説明いたします。
事例1)
ある製造所で、バルク製造において溶解手順(予備混合、混合時の温度)を守らなかったことで、有効成分が均一に分散されず、市場出荷後に回収対象となりました。
調査の結果、標準書の記載が曖昧であったことと(“プロピレングリコールの一部と混合した後に添加する”との記載のみ)、更に、作業者は、“最終的に添加して攪拌すれば手順を省略しても問題ない”と判断したことが原因でした。
標準書は現場の実情を反映し、誰が読んでも理解できるレベルに整備すること。作業者のフィードバックを取り入れて定期的な見直しを行うことが必要です。この場合には、作業者に対して次の情報を伝えておくことが重要でした。
目安として全体がペースト状にしておくこと、そのためには約4倍の量、バラツキを考え5倍量が必要である。
<再発防止策に関する留意点>
標準書が守られない背景には、記述内容の不明瞭さ、現場との乖離、教育不足が関係しています。一方、全ての事項をあまりにも細かく規制してしまうと現場の実態と乖離していたり、更に、あまりにも複雑すぎる内容だったりすると作業者が独自の判断で逸脱する傾向があります。
また、「読む時間がない」「理解できない」などの理由で、標準書は形式的に署名がされているだけで実質的に理解されていないケースも多く目にします。“簡潔に表現する”、“やってはいけないことや注意する項目を明確にするだけに止めること”が重要です。
事例2)
秤量作業で同じ容器を複数回使用していたため、計量ミス、識別ミスが発生していました。(容器本体に手書きで原料名、計量値を書いていた)
<問題点>
人間は誰でも注意力や記憶に限界があります。特に繰り返し作業や単調な作業では集中力が低下しやすく、「うっかりミス」が発生します。仕組みとしてミスを誘発しにくい設計が必要です。注意不足ではなく「仕組みの不備」や「認知的限界」が原因として取り組むことが必要です。
<再発防止策に関する留意点>
容器に表示するラベルは“システムから指図書と共に自動で出力する”、“指図書の原料名に加えて、添加順序に従って原料はナンバーリングする”、“ナンバーリング毎に色分けし、秤量した容器についてもこれに対応する内容を記載したラベリングを用いる”等、ポカヨケ機構(色分け、物理的制限)を導入することが考えられます。
更に、“秤量指図された量と秤量値が一致しないと次のステップに進まないシステム”を導入することや、“秤量後の理論残と実際残の一致を確認すること”で秤量値に対してもダブルチェック機能を持たせることも検討の余地があります。
「うっかりミス」が発生した場合の対策としては、「人間はミスをするもの」という前提で、“どのようなミスが考えられるのか?”“ミスを防ぐ仕組み・設計(エラープルーフ)を考えることが有効です。
多くの現場では、エラーが発生すると「注意を徹底しよう」「再教育しよう」といった対応が取られますが、これは一時的な効果しかなく、同様のミスが再発しやすい傾向にあります。本質的には、ミスの根本原因を仕組みで排除することが必要です。表面的な原因(例:不注意)だけでは改善は限定的になりますので、背景要因(環境要因、設計の不備、など)を掘り下げることが、再発防止には不可欠です。
事例3)
化粧水の生産で、同じブランドで使用する乳液用の中栓を一部誤って使用して生産してしまった。この事例では、初動調査で「資材の端数の出庫をした際の資材担当者の確認漏れ」「現場作業者の作業時の確認漏れ」とされていました。
<問題点>
詳しく調査すると、資材置き場がブランド別に資材が保管されており、化粧水用と乳液用が隣接した場所に置かれていました。更に、段ボールの表示は資材名(PE中栓3φ)と口径の表示のみで、識別表示(PE中栓6φとの差別化)が十分でなかったことが判明しました。
<再発防止策に関する留意点>
“異品が隣接していたことを避けること”、“一目で分かるようにすること”が必要です。発生原因を「人のせい」にせず、環境・手順・設計を含めた包括的な視点で原因分析を行うことが重要です。
更に、仮に間違って使用された場合、例えば、“栓の浮き状態が変わる”、“閉めトルク値が低くなる”のどのような異常が起きるのかを考えること、更には、画像センサーで常品を排除する仕組みを導入すること等、発生防止を図ると共に、異常品が次のステップに進まない仕組みの二つの視点からの対策を導入することが必要です。
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