続・医薬生産経営論 (現場のLow-Cost Operation)【第3回】

企業はいかなる事業環境下にあっても成長を目指す。
成長を目指さない経営はあり得ない。なぜなら、それが経営というものの本来的目的であるからである。例え、翌年度売上計画がマイナス成長であっても、翌々年度には回復する売上計画を立てる。売上高を描くグラフ曲線が「ホッケースティック」のようだと揶揄されても、企業は生き残りを賭けて、新たな成長戦略を策定し、グラフ上に新たな成長曲線を描く。
それが、営利を追求する企業の宿命なのである。
 
低コスト構造の新興国とのコスト競争に勝利するためには、日本はLow-Cost Operationを徹底させなければならないと、或いは、Low-Cost Operationを実現するためには新興国に生産拠点を移すべきだと、マスコミやIR(機関投資家)から、また、外国人経営幹部から有難い指摘を受ける。
 
低コスト構造の新興国に生産拠点を移さなければLow-Cost Operationは実現できないとなると、日本国内の工場を閉鎖してしまうか、工場従業員の賃金を新興国並みに大幅に下げるしか手立てはなくなる。そうすれば、国内工場で苦労に苦労を重ねて、必死にコストダウンを進める必要はなくなる。また、技術研究や設備に投資をして生産システムの革新を図ることも必要がなくなる。グローバル市場の中で、コスト競争に勝利するためには、国内生産を廃止して新興国に生産拠点を移す、どうやら、それが究極のLow-Cost Operationということらしい。
専門家或いは素人に係わらず、日本の製造業のコスト競争力に注目する多くのコメンテーターがそう言っているように私の耳には聞こえる。しかし、それは本当だろうか。海外生産すれば良いのであれば、そんな簡単な結論で良いのかと思うし、日本オリジンの企業として、日本という国家の国益と国民の幸福(雇用)はどうでも良いのかと思う。また、新興国の賃金が日本の水準にまで上昇した場合は、新興国の更なる「奥地」「新地」に工場を移転させるのか、とも思う。
それよりも何よりも、真の課題は、日本国内の工場生産において、新興国とのコスト競争に勝つためにはどうあるべきか、何をすべきかを考え実行すべきではないのかと思う。
 
日本の製造現場としてのLow-Cost Operationのあり方を追求すべきではないのか。
なぜ、日本の国内工場ではLow-Cost Operationが出来ないと単純かつ性急に結論づけるのだろうか。なぜ、日本の製造現場は、低コストを真剣に追求しているのに、こんな素人のコメントに翻弄されなければならないのだろうか。
Low-Cost Operationとはいったい何ですか...。
 
いつも、Low-Cost Operationとは具体的に何かという議論になると曖昧模糊となる。
これまで、国内外の多くの生産関係者と議論をしたが、こんなに明快な定義もなく、言葉だけが独り歩きしているものはない。低コストで生産するのは当たり前のことであり、そうでなければ近代工業生産とは言えない。この単なる当たり前のことが、横文字になると、「トヨタ生産方式」や「セル生産方式」のような、何だか特別な生産システムが存在しているかのような錯覚を与える。横文字と外国人タレントに弱いコンプレックスは、明治時代以来、すっかり日本人のDNAの中に組み込まれてしまっている。「不思議の国ニッポン」は、今も変わっていない。
私は、日本の製造業におけるLow-Cost Operationの定義を、その構成要素を以って具体的に説明すべきだと思う。しかし、その確たる定義を誰も言葉で語ろうとはしない。残念ながら、私自身も、これまで寡聞ではあるが聞いたことがない。
 
私は、以下の構成要素の具現化を追求していくことが、私たちが進むべきLow-Cost Operationなのだと考える。日本の製造業が低コスト構造の新興国に勝つために、進むべき唯一最善の道なのだと信じている。
 
 ①設備の稼動可能時間を(1日24時間×365日に向けて)最大化する
 ②収率・歩留りを極限まで最大化する
 ③少人化を(無人化に向けて)進める
 ④スピードアップ(高速化)により能力を最大化する
 ⑤安価調達を徹底する
 
企業経営が常に成長を目指すように、生産部門が目指すべき真の成長とは、Low-Cost Operation の先進化であり、これら①~⑤の構成要素ごとに、下記に簡潔に述べる改善改革(課題解決)が具現化されることによって先進化する。
日本の医薬品製造業は、このLow-Cost Operationの追求を徹底しない限り、国内を含めたグローバル市場での、新興国などとのコスト競争には勝てない。

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