ドマさんの徒然なるままに【第62話】有意義なセミナー受講の仕方

第62話:有意義なセミナー受講の仕方

本話、筆者の師匠にあたる古田土真一先生が講師を務める、本年3月14日開催の「シン・オールアバウト治験薬のGMP ~品質の観点からの医薬品開発~」に当たって、先生ご自身が執筆した原稿を、以下にそのまま紹介します。

---------------------以下、古田土先生の執筆です---------------------

古田土です。この3月14日に、このCM Plus社のセミナー講師を務めさせていただきますが、せっかくお金を払って勉強するのであれば、受講後に役に立つように有意義に聴講したいものです。個別企業のインハウスセミナーでもなく、まして個別コンサルテーションでもなく、あくまで集合形式によるオープンセミナーにおいては、製薬専業企業とは限らず、受講者それぞれの知識量や認識レベルもマチマチで、講師としてはどこにフォーカスして良いのか悩むのも事実です*1。その意味では、受講者(and/or 貴社)の要望に必ずしもマッチしているとは限らないことになります。

そのような中で有意義な受講とするには、受講者自身に求められることも少なからずあるのです。そういうことで、セミナー講師の立場から、「こういう風に聴講したら良いですよ」という提案込みで、思うところを率直にお伝えしたいと思います。あくまで、私自身の受講経験も踏まえ、講師として私個人が思うままを本音で記しただけであり、CM Plus社にも他の先生方にも関係ありませんことをご理解ください。

この3月のセミナーは治験薬関係ですが、本話内容は市販医薬品も含めた一般論です。治験薬特有の事項については、その都度コメントしています。

【予習段階】
その1:事前に少しはベースとなる法規制について勉強しておきましょう。
何でもそうであるように、その分野の知識ゼロの者に、唐突に医薬品やGMPの話をしたところで理解できるわけがないと思います。例えば、野球を観戦したことさえない者が「あなたも大谷翔平になれる!」というセミナーを受講したら大谷翔平のようなメジャーリーガーになれると思いますか? ましてや、自分で勉強しようという意欲でセミナー受講するのであれば、GMP省令や治験薬GMP基準といった最低限の予備知識は付けておきたいものです。別に理解に届かなくとも良いのです。存在することも知らない者が受講することはないと思いますが、せめて一度は読んでおいてほしいと願います。「何を言っているのか、良く分からんなー!?」というので構いません。それは読んだ感想であって、医薬品やGMPに対して関心がないわけではないことを意味しているからです。

その2:自身(自社)としての課題や知りたい点をピックアップしておきましょう。
そもそもセミナー受講するということは、何か疑問や課題があってのことと思います。そうだとすれば、疑問や課題を整理しておいて、知りたい点を絞ったほうが良いです。闇雲に受講しても、その内容に追い付かずにギブアップしてしまったり、逆に嫌いになる可能性だってあります。仮にセミナー開催案内に「サルでもわかるGMP(おサルさんに対する差別用語か?)」とあったとしても、一朝一夕に誰でも理解できるようであれば、受講者が居なくなってしまい商売になりません。本邦だけでなく各国でコンサルタントが活躍し、セミナーがビジネスとして成立していることを考えれば、そんなことは分かるはずです。

その3:セミナー開催案内のコンテンツから聴講したい点を整理しておきましょう。
受講しようかと思うセミナーがあった場合、開催案内に記されているコンテンツを眺め、自分が知りたい点がどの程度あるか、自分の知りたい点がどの程度埋められるか、を考慮して決定することをお勧めします。それがコスパの評価に繋がることになります。

その4:事前に資料が配布されるのであれば、ザーっとでも良いので目を通しておきましょう。
もし当該セミナーに事前資料の配布(事前のダウンロードを含む)があるのであれば、ザーっとで良いので、必ず目を通しておくことです。理解する必要はありません。一つは、開催案内で受講を決定した際の評価と実際の内容との整合性(悪く言えば乖離)の確認のためです。二つとしては、半日 or 終日の受講に対する集中力のペース配分のためです。誰でも集中力がそんなに続くはずはありません。内容だって、全てが大事で全てが自分に必要なんてことはないはずです。そうだとすれば、はじめから力の配分を決めて、知りたい部分に力を注ぐほうが賢明です。

その5:事前質問が可能な場合、簡潔明瞭に整理し、早めに送信しておきましょう。
もし事前質問が可能であるならば、質問内容を簡潔明瞭に整理し、事務局を通じて講師に伝えて貰うことです。ここで大事なことは、あくまで当該セミナーに関連しての質問であることです。ときに、相談事項、悪く言えば、個別コンサルテーションと勘違いしたような内容を送ってくる者がいます。事前質問は、あくまで新型コロナウイルス感染症によりオンライン形式が普及したことによるセミナー効率化(時間節約)のための手法と考えています*2。そのため、質問は全てオープンが前提で、セミナー当日の質疑応答コーナーで読み上げてから回答することになります。特に、治験薬関係セミナーの場合、医薬品開発という企業秘密に相当する事項に関する質問の可能性が高いので、講師としては質問の是非と回答に悩むことが多くなります。

私の場合、個別相談に近い事項は、「オフラインの対面受講者限定で休憩時間や終了後に受け付ける」としています。その点を理解していただきたいと思っています。率直に申し上げますが、最近は、セミナーに即した質問と言うよりも確実に個別相談と思われる事項を“オンラインの事前質問”と称して伝えてくる者が多くなってきており、質(たち)が悪くなったという印象があります*3。講師の立場から言えば、答えられないのではなく、(他受講者への誤解回避&貴社の面目を尊重して)意図的に一般論として回答するか or 貴社のためにその場での回答を差し控え*4、メルアドを教えてもらえれば*5、後日にメールで回答するとしています。

【受講段階】
その6:当日配布の資料の場合、ザーっとでも良いので必ず開始前に目を通しておきましょう。
先述の“その4”に通じるものですが、資料が当日配布のハンドアウトの場合があります(以前は全てがそうであった)。そういった場合、少し早めに会場入りし、配布資料をザーっとで良いので、一通り目を通しておきましょう。理由は、次項“その7”に記します。

その7:資料から自身で特に聴講したい点とそうでもない点との強弱をつけましょう。
資料から、自分の特に聴講したい部分とそうでない部分との強弱(濃淡)をつけておくことが大事です。強弱をつけることで、集中力をどこに持っていくかを決めておくということです。ひとりの講師による終日セミナーなどでは、コンテンツから強弱をつけるという手があります。複数演者による研修会などでは、極端な場合、要/不要といったこともあるかと思います。

その8:受講中は余計な事を考えずに真剣に聴講しましょう。
言うまでもありませんが、受講中は余計なことは考えず、真剣に耳を傾けましょう。講師の立場で言うと、以前のような対面形式(オフラインのみ)のほうが、立って動きながらスライドにポインターを当てて説明できることから、話に強弱が付けられ、受講者への理解促進を促しやすかったのです。オンライン形式では、単調な説明のほうが、音声としては聞き取りやすいということ、また説明資料のアニメーションも少なくし、カーソルもあまり動かさないようにするため、どうしても強調したい点が不明瞭になるというマイナスな側面があります。

また私の場合、事前送付の資料(スライド)を読み上げることは少なく、口頭で当該スライドに付随した関連情報を伝えることが多いです。資料自体は後述の“その12”に記したように、後日の受講者本人による社内報告の使用を前提としており、口頭説明でスライド間の話の流れやスライド内に示されていない特殊状況下での解釈や取り扱い等を補足的に伝えるというのが、その理由です。そのようなことから、目でスライドを追うよりも、説明に耳を傾けることに注力しましょう。

その9:聴講して出てきた疑問点や理解不十分な点を質問し、確認しましょう。
普通、受講中に何らかの疑問点や理解が追い付かなかった点が出てくるものと思います。極端な場合、聞き漏らした場合もあるはずです。「聞き漏らしました。」と正直に言うかどうかは別として、不明な点については、恥ずかしからずに質問や確認をしましょう。講師として一番困るのは、勝手な解釈による誤解や誤認識です。せっかくお金を払って受講したのであれば、元が取れる程度には理解を深めたいものです。質問することで理解は深まります。私の経験から、単に聴講しただけの場合よりも、質問した場合のほうが確実に理解は深まりました。

その10:質疑応答は全てオープンであり、有益な情報交換の場です。
先述の“その5”に事前質問が可能な場合について触れましたが、セミナー当日の質疑応答は、オフライン/オンラインを問わず、全受講者を対象としたオープンです。私は、セミナーでの質疑応答は、受講者間の情報交換の場でもあると考えています。過去の受講経験からも、他受講者と意見交換をしたことが少なからずあり、それが講師による一方的な説明よりも有益であったことも多かったです。

さらに言えば、受講者の各企業共通の疑問や課題も少なくなく、あなたの勇気をもっての質問が「うちもだ!?」ということで理解を促すことも多々あります。また、ある受講者の質問(問題提起)が受講者間の議論を促し、ちょっとしたワークショップ状態になることもあります。ウェビナーやオンライン受講者が増えたことで、この手の受講者間の議論が減ってしまったことは、セミナー講師による一方的説明に終始しがちで、そのため受講者にとってもその場での自分の解釈が正しい理解だという思い込みに陥りやすい状態となってしまいました。正直、講師としては極めて残念でなりません。

逆に言えば、受講者(+受講企業)特有とも思える個別の質問については、その状況を踏まえて、内容が社外秘に抵触しないか、コンサルテーションの領域に入っていないか、一度考えた上でお願いします。

私が講師依頼を受けることの多い治験薬関係のセミナーにおいては、受講者側に共通する問題が多いです。それは、治験薬のGMPは医薬品GMPほどの要件は求められないはず。GMP省令の簡略版で良いはず。といった先入観と言うか、(期待を込めた)思い込みが強いことです。そのため、質問として多いのは、自社の“手抜きとも言える運用”について同意を求める(意図が読み取れる)質問です。例えば、「●●まで行う必要はありますか?」といった類のものです。そもそも、その運用に客観的妥当性があり、胸を張れるものであれば、そのような質問はしないと思います。

仮に「そこまでの必要はありません。」という同意を貰ったとした場合、それでどうしようとお考えなのでしょうか。その手の発想を質問以外の他の事項や事情にも当てはめて運用しようとするのではないですか? そのような考え方自体に問題があるとしか言いようがないのです。もし貴社が承認を受けた医薬品の製造・販売も行っているのであれば、GMPそのものに対する認識と理解、さらには組織に疑問を感じざるを得ません。

【復習段階】
その11:帰宅の電車内あるいは帰宅後に、ザーッとで良いので反芻しましょう。
受講後の疲れた時間帯とはなりますが、帰宅途上の電車内あるいは帰宅後の就寝前に、ちょっとでも良いので、自分にとって必要かつ大事な部分を反芻しておきましょう。このちょっとした手間(まさに復習です)が、理解促進に重要で、深く記憶に留めることに繋がります。資料を見直すだけでも違います。これだけで、受講の価値が上がること、請け合いです。

その12:受講後、できるだけ早く社内報告(できれば自身が講師としての社内セミナー)を開催しましょう。
理解を適切かつ深めるために一番大事なことですが、受講後、(記憶が鮮明な)できるだけ早い時点で、自分が講師となって社内セミナー(ある意味、報告会)を開きましょう。頭の整理だけでなく、周辺の事項については調査が必要になることで、セミナー+αの知識が得られます。また、自分が講師となることで、自分の認識の甘さと同時に他者への情報伝達の難しさを学ぶことにも繋がります。このような報告会が定着すれば、受け身の(一方向の)教育訓練でなく、組織全体のレベルアップに繋がります。本来、セミナー受講とは、ここに至って実をなすことになると言えます。

【その他】
その13:問題点が根深い or 組織的な要因であるのであれば、インハウスセミナー and/or コンサルテーションを受けたほうが効果的です。
先述の“その2”でも述べましたが、貴社の課題が明確な場合は、的を絞ったセミナー受講として必要情報を取得可能なのですが、問題が根深いような場合、特に組織的な問題を含んでいる場合においては、オープンセミナーよりも、インハウスセミナーやコンサルテーション*6のほうが効果的だと思います。オープンセミナー受講をどの先生にお願いするかのチョイスに役立てるというのも一つの方法かと思います。

特に治験薬関係では、基本が社外秘扱いになると思われますので、個別質問や相談がしやすいインハウスセミナーやコンサルテーションのほうが社内の複数部署として情報共有可能なので、コスパも高くなると考えます。


いかがでしたでしょうか。別に、本話に記した通りに実行する必要はありませんが、決して無駄にはならないことを保証します。少なくとも、私自身がQAになりたての頃はこれを実践してやっていました。その成果として、どれだけ成長したかの評価は皆様にお任せしますが、自覚としては手ごたえを感じていました。

特に、“その12”に記した、「自身が講師となっての社内セミナー」については、当時は印刷資料(ハンドアウト)をセミナー当日に貰って、それを基に自身で1時間程度の社内セミナー用に仕上げざるを得ないことから、ポイント説明のために頭の整理と資料作成が必要となるため、否応なしに反芻せざるを得ず。それが理解を深めるのには効果的であったと思います。また社内ということから、質問も容赦なく、逆にそれが勘違いや理解の不十分さを露呈することになり、(ちょっと悔しい思いもしましたが)より一層勉強する羽目になることで、理解が促進されるという一面もありました。是非とも一度お試しください。


では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
辰年
今年、2024年は辰年である。そもそも“干支(えと)”とは、十干と十二支を組み合わせた60を周期とする数詞で、古代中国にはじまる暦法上の用語とされ、草木の成長や状態を示していると言われている。一周60年になるわけであり、「還暦」とは良くいったものであると感心する。
さて、今年2024年、正確には「甲辰」となるが、芽が成長し、空高く成長する年のことで、その象徴としての動物が“辰(いわゆる龍)”だとも言われている。そんな中、元旦には能登半島地震が発生し、翌2日には羽田空港でJAL機と海上保安庁機との接触炎上事故が発生してしまった。年明けで、おめでたいはずの正月とは裏腹に、なんとも悲惨な状態となってしまった。今年は、米国大統領選挙を筆頭に、世界情勢が大きく動くような選挙などがある。この日本でも例外ではない。
いみじくも、十二支の中で実在しない架空の動物は“辰(いわゆる龍)”だけである。架空なのであれば、本来の天にも上るという意味合いで、良い方向に想像を超えてくれたら良いなと思う。できれば、能登半島地震の復興も含めて、この辰年1年に留まらず、未来への成長の起点となってくれたらと願う。
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*1:当たり前ですが、インハウスセミナーのような特定の企業による要望内容が明確でフォーカスを絞れる場合は、セミナー所要時間を短くすることも可能です。

*2:質疑応答コーナーでの質問受け付け、オンラインでの音声は講師としても他の受講者としても聞き取りにくく、チャットの場合は入力に時間を要するため非効率と言えます。また、オンラインですと講師としては、一度回答した後での質問者への確認はできないと言っても良いです。質問者本人や他の受講者にとっても、付随しての追加質問等に至っては、かなり難しいと言えます。

*3:本来、研修会やセミナー等の質問に対しては、質問者は所属と氏名を述べてから質問に入るのが礼儀です。セミナー屋さん開催の場合、従来のオフラインであっても、所属と氏名を要求しなくなった(少なくとも私は要求しない)こともあり、さらにオンラインという状況に至って、ほとんど所属・氏名が不明のままに質疑応答が進行する羽目になってしまいました。そのため、他の受講者は質問者がどういう者か全く不明の状態で、質問者自身も周囲の顔色を窺うこともなくなったことで、質(たち)が悪くなったと思っています。その場に他社の受講者がいれば、「こんなことを質問して良いかどうか?」を意識しますよね。

*4: 講師として正直に言います。質問者本人は一般質問と思い込んでいるかと思いますが、あなたの複数の個別相談事項から、お宅の実態やレベルを窺い知ることができます。それもできないようであれば。プロのコンサルタントとは言えません。回答は可能なのですが、当該セミナーの他の受講者に「へー、こんな会社があるんだ!?」と勘繰られる貴社の立場を考慮して、その場での回答を控えているのです。
特に、治験薬関係セミナーにおいては、それが開発のどの段階の話なのかでも回答は変わります。原薬なのか、どのような製剤なのかでも変わります(包装は治験プロトコールの影響を受けます)。国内限定なのか、海外込みなのかでも変わります。より具体的な回答を期待するのであれば、ある程度の社外秘に相当する情報を講師に伝えることが必要になります。講師としても、的確な回答をするためには、確認のためにある程度の事情聴取が必要となります。漠然とした中での、あなたへの親切心での中途半端な回答は他者(他社)への誤解を生じる可能性すらあります。だからこそ、個別相談に近い内容については、オフライン受講による休憩時間か終了後の非公式が前提なのです。ご理解いただきたいと存じます。

*5:講師には、事務局から受講者全員の氏名・会社と部署名ならびにオフライン/オンラインの区別が伝えられますが、個人情報保護のため受講者のメルアドは教えられておりません。

*6:インハウスセミナーについては、どのような形で、どの程度の内容を求めるかにも依存(要はセミナー所要時間)しますが、ある程度のコンサルテーションは可能です。

 

 

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