医薬品開発における非臨床試験から一言【第47回】

薬物相互作用の評価とは


薬物相互作用に関して、ICHでは2019年にICH M12(薬物相互作用試験)としてトピックに取り上げられ、日米欧の規制を束ねるハーモナイズに着手した。このガイドラインは2022年8月5日にステップ3に到達しました。そして、ICHの各地域・国の規制当局(日本では厚生労働省)からガイドライン案が公表され、日本でもパブリック・コメントが開始され、2022年10月4日まで意見聴取されました。寄せられた意見に基づいて専門家作業部会で協議が行なわれ、ガイドライン案の修正に役立てられます。

薬物相互作用の評価について、ICH M12案を基に概要をまとめます。
このガイドラインの目的は、創薬における代謝酵素又はトランスポーターを介したin vitro及び臨床薬物相互作用試験において、一貫したアプローチを促進するための推奨事項を示すことです。一貫性のあるアプローチは、国際的な規制当局の要求を満たすための不確実性を低減し、効率的なリソースの活用につながります。

臨床現場では、患者が複数の医薬品を処方されることが多く、これが要因となって薬物相互作用が発生することがあります。特に脆弱な高齢患者や、深刻な又は複数の健康上の問題を抱えている患者は、多くの異なる医薬品を処方される可能性があります。薬物相互作用の発現は、臨床の現場で共通の問題になり、有害事象のリスクを高め、時には入院に至ることもあります。また、一部の薬物相互作用は治療効果を低下させる可能性もあります。そのためにも、被験薬が他の薬物と相互作用を起こす可能性を予め避ける対策が重要となります。

世界における薬物相互作用のガイドラインは以前から存在しており、科学的進歩に応じて更新されてきました。これらを見渡すと、被験薬の相互作用の可能性を検討するためのアプローチは地域間で類似しており、ハーモナイズを図るための取組みが実施されているものの、いくつかの差異が残っています。そこで、ICH M12では、in vitro及び臨床における薬物相互作用評価の推奨事項をハーモナイズさせることを目的としています。

ICH M12は、被験薬の薬物相互作用の可能性を評価するための一般的な推奨事項を示しています。そのため、特定の薬物や、対象となる患者集団では、治療の状況に応じて対応する必要があります。また、適用される規制要件を十分に満たしておれば、別のアプローチも可能です。またICH M12は、新薬の開発過程に焦点を当てていますが、承認後に薬物相互作用の可能性に関する新たな科学的知見(臨床結果等)が得られた場合は、追加の評価を検討すべきです。

ICH M12の適用範囲は、代謝酵素やトランスポーターを介した相互作用に焦点を当てた薬物動態学的相互作用に限定されています。そして、これらは低分子化合物の開発に適用されます。しかし、生物薬品の薬物相互作用評価についても、モノクローナル抗体と抗体薬物複合体(ADC)に焦点を当てて、簡潔に取り上げられました。

また、ICH M12では、酵素やトランスポーターの阻害又は誘導を介した相互作用をin vitro及び臨床でどのように検討するか、適切な治療法の提案に結果をどのように結びつけるかについての指針が示されています。そして、代謝物を介した相互作用に対処する推奨事項も含まれています。さらに、モデル解析に基づいたデータ評価と薬物相互作用の予測についても取り上げています。

その他の薬物動態学的相互作用について、例えば、吸収への影響(胃内pHの変化、胃運動の変化、キレートや複合体の形成等)、食物の影響、タンパク結合の置換に関するものは、ガイドラインの適用範囲外とされています。同様に、薬力学的相互作用による薬物相互作用も本ガイドラインの適用範囲外とされています。

薬物相互作用の一般原則を考えてみますと、被験薬が薬物相互作用を引き起こす可能性は、医薬品開発の過程で段階的に検討すべきです。被験薬の可能性としては、①被相互作用薬として(他の薬物が被験薬に及ぼす影響)、及び、②相互作用薬として(被験薬が併用薬に及ぼす影響)の両方の側面で評価すべきです。

被相互作用薬としての被験薬の代謝酵素又はトランスポーターを介した薬物相互作用を評価するためには、その薬物の主要な消失経路を特定する必要があります。未変化体として尿中に排泄されない薬物や、非特異的な異化作用によって消失する生物薬品でない薬物の場合、主要な消失経路を特定するためには、臨床マスバランス試験が適切に実施されることが重要です。

投与量の大部分が糞便中から未変化体として検出された場合は、そのメカニズムの解明にバイオアベイラビリティ試験が有用です。マスバランス試験のデータから、投与量に対する特定の経路で一次代謝物及び二次代謝物として排泄される量(投与量に対する排泄率)を求めて、異なる消失経路の定量的な寄与が推定されるべきです。定量的に重要な消失経路については、in vitro及び臨床試験により、これらの経路に関与する主要な酵素又はトランスポーターを特定すべきです。被験薬に影響を及ぼす相互作用の予測には、これらの酵素又はトランスポーターの特定が重要です。
 

 

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