ドマさんの徒然なるままに【第58話】過ぎたるは猶及ばざるが如し・Part 2

第58話:過ぎたるは猶及ばざるが如し・Part 2

製造販売業者として国内外の受託業者の監査を数多く実施させていただいた。また、受託製造業者に在籍していたことや海外製薬企業との導入導出といったことから、相手様から監査を受ける機会も多かった。そんな中、別に指摘とか推奨とかいうレベルのものではないのだが、「コレッて何なんだ!?」と思ことも少なからずあった。何でもそうであるが、「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し」の諺がピッタシと思える状況である。

前Part 1では、“監査の一般的流れ”のうち前半に相当する、「イントロダクション(概要) ⇒ 現場ツアー ⇒ ランチ休憩」までを紹介した。本Part 2では、後半の「書面調査 ⇒ ラップアップ」を紹介する。

いみじくも、この9月1日付で「GMP監査マニュアル」が発出された*1。本話については、監査を“実施する立場”&“受ける立場”を問わず、オマケ(蛇足?)の注意点として頭の片隅に置いていただければ嬉しい次第である。

なお、本話Part 1と次話Part 2において、漠然と“GMP”と記している場合は、GMP省令を筆頭に、GQP・GCTP・GDPも含めた総称として記しており、GMP省令そのものを指すような場合は、具体的に表記しているので、その点をご了承ください。


【書面調査の場で】
● 美しすぎるSOP(原本ばかり見せたがる製造所)。
SOP、SOPとバカのひとつ覚えのようにGMPでは登場する言葉であるが、そのSOP、現実には、大きく2種類あると思っている。所謂「(保存用)原本」と「作業用」である。後者の「作業用SOP」は、通常、作業現場で直ぐに見ることのでる場所に設置されている。この「作業用SOP」、適切な文書管理がなされていれば、QAが承認した「原本」をQAがコピーし配布していることになる。これを一般的には“Authorized Copies”と言う。日常的に使用することで、汚れや破れが生じることの懸念、場合によっては(各部署配布のために)複数部数が必要になることからの、QA承認済みの正式な「作業用SOP」の意味である。文書管理の下に最新版管理がなされ、「原本」が改訂されれば差し替えとなる。監査時、この「作業用SOP」の日付は、最新版管理の実態として、(抜き打ち的に)「原本」との整合がチェックされるので、注意してくださいね。

さて、問題はここからである。その「作業用SOP」だが、あまりにも“美しい”のである。読んだ跡どころか、めくった跡も折り目もなく綺麗で、開いた形跡すら感じない。うーん、インスタ映えしそうな美しさである。お飾りとしては(未使用の)最高品質である。この話、以前にどこかで紹介したような記憶があるが、そういうお飾り目的じゃないですからね。そこんとこ、よろしく!

● 当該製造所に不似合いなほど立派なSOP
この話も以前にどこかで紹介した記憶があるが、当該製造所に不似合いなくらい立派なSOPを制定している製造所がある。ハッキリ申し上げます。それって、高い金を払ってコンサルタントに作成して貰ったか、あるいは、県の薬務課 or 製薬団体かどこかのウェブサイトに掲載している見本をパクッていません? 内容的に問題はないですけど、制定した以上、そのSOPに基づいてキチンとやってくださいね。

● 「問題なし」の多すぎる記録
色々な記録がある。記入箇所に空白があれば、さすがに気づく。監査があるからといって、事前に漏れや抜けはチェックしたんだろうか。さすがに空白は埋められている。紙ベースでの運用となると、オンタイムでの記入かどうかまでは信用するしかない(たまーに、この順番は変だな?と思われるものもありますけど・・・)。

ただ一方で、抜け・漏れは無いものの、あまりに「問題なし」が多すぎる製造所がある。実際の数値記入による記録では無理があるが、状態観察の記録のような場合には、「問題なし」で済む場合も多い。「問題なし」は良いことであるが、あまりに多いと「本当か?」という疑念が生じてしまう。「特記事項が必要な場合も無かったんか?」と、性格の悪い筆者はそう考えてしまうのである。

● あたかも「記録残し」を目的としたような記録
ものすごくキチンとされてはいるものの、項目があまりに細分化されている製造所がある。必要なチェック項目は抜けないが、様式自体はある程度簡素化したほうが運用は簡便である。記録は、「行ったことの物的証拠」ではあるが、度を越えて、「第三者に見せることが目的」のようになってしまっては、本末転倒のように思う。

ただ、漏れ・抜けが多くなってしまったら、元も子もないですからね。作業者に対する教育訓練を十分に行うことは言うまでもないが、それ以前に、まずは現行の記録様式が適切かどうか見直してはどうかと思うのであるが、いかがでしょうか。

● 何でもかんでもダブルチェックと称して第二者確認欄のある製造記録
この話も以前に紹介した記憶がある。ダブルチェックと称した第二者確認が求められるのは、あくまで重要工程(作業)ですからね。全作業について求められている訳じゃですよ。「分かっていますけど、うちは、確認することでリスクを減らすという考えでダブルチェックしています。」なんて格好良いことを実践しているのであれば、文句などありませんが、見た目や形式重視での対応だったら、勘違いもいいとこですよ。あくまで、やっていることが品質に結び付かなきゃ意味ないですからね。

過去、GMPの査察・監査に不慣れな査察官やオーディターからの指摘回避を目的に第二者確認欄をすべての作業に記入させた製造指図・記録書の製造所がありました・・・。うーん、目的の逸脱だわ、それ。

● 何でもかんでもSOPに書いてあるという説明・回答
これは極めて多いと言わざるを得ない。該当するSOPを開いて、記述部分について説明はするものの、質問の意図は、必ずしも「そのSOPはありますか?」じゃないんだよ! 「この手順は具体的にどのようになさっていますか?」といった、現実の対応(普段の対応)の状況のチェックなんだよ! ちゃんとやってるならば、スラスラ言えるとしか思ってないんだよ。その確認なんだよ。まずは口頭説明し、「それはこのSOPのこの部分に、このように記述しています。」っていう回答が聞きたいんだよ。SOPの有無や記述箇所を読み上げること(これは説明とは言いません)を期待している訳じゃないんだよ。

ただ、オーディターにも問題があることは認める。よく耳にするのは、「●●のSOPはありますか?」って質問するんだよね。そうじゃないでしょ。「●●はどのような手順で処理していますか?」じゃないんですかね。

● 文章だけで図表などのビジュアルな資料がまったく無いSOP
前項の続きである。SOPの記述内容の説明じゃなく、手順そのものの説明が求められ訳ですから、パッと見で理解しやすいように、できれば、その手順フロー図をプロジェクター投影しておいてスラスラ説明するなんて恰好良いことをしなさいよ。要領の良い(査察・監査慣れした)製造所は、SOPに図表がアタッチされていることが多いですよ。アタッチしてはいなくとも、説明用のフロー図、アウトラインや一覧の表は別途に用意されていますよ。

ただ、SOP改訂にあたっては気を付けてくださいね。SOPの改訂された記述内容とフロー図や表とがマッチしてないことがありますので、文書管理上の最新版管理に合わせて、フロー図も更新してくださいね。
《注》優秀(?)な製造所になると、図表にも元のSOPと連動した管理番号が振られ、最新版管理がなされている。
 

● SOPの記述手順に沿った記録になっていない製造所
監査時では、SOPとその記録とを一緒に提示、説明することが基本じゃないんでしょうか。バラバラでは意味がなく、あくまでSOPの手順通りに記録しているか否かの確認が監査である。SOPもある。記録もある。でも、手順と記録とがマッチしていない。こういうことを、形式だけの“Blind Compliance”って言うんですよ。自己点検を行うに当たっては、こういう点を意識してみては、いかがですか。

● 説明者がコロコロと変わる製造所
説明者がコロコロと変わる製造所がある。勿論その内容に依るのではあるが、製造部門長やQC長として把握しておくべきレベルの内容であれば、自身で説明して欲しい。「お前、そんなことも知らないのか?」と思われるレベルであれば、それ自体が疑問でしかなく、「お前、管理責任者として失格だぞ!」と解釈せざるを得ない。

よほどの専門的 or 技術的なことであれば別だが、そんな特殊作業(爆発性・発火性物質の取扱い、無菌操作など)が頻発することは稀であろう。そうでなければ、現場担当の代表者で十分なのでは? 仮に、その内容がQAにも関わるということであれば、QAは必ず同席している訳であり、咄嗟にサポートに入れば良いだけだと思うが、いかがでしょうか。

ただ一方で、QAが、自身で説明 or 回答しうるようなものもある。そんな時でさえ、「それについては担当の者が説明します。」として自分で答えないのも問題である。その内容や状況に依っては、「このQA、こんなことも把握しておらず、答えられないんじゃないか?」との疑問を抱くのである。

● QA任せにしたがる管理責任者
前項とは微妙に異なる管理責任者がいる。部下の実務担当者にコロコロ変わることはないのだが、変にQAに話を振る奴である。自身のGMP理解度に自信がない奴に多いと言える。言っておくが、QAは監査のホストであり、書面調査時の進行役ではあるが、その質問事項・確認事項に依っては必ずしも説明者ではない。あくまで、監査はGMP組織の運営状態を確認しているのであって、各部門については、それぞれの部門の者が自部門の説明をしなければいけない。仮に頼りになるQAであったとしても、QAが製造やQCの話をし出せば、オーディターとしては疑問を抱かざるを得ない。

● 仕切りたがるQA(出しゃばりなQA)・2
一方で、製造記録や試験検査記録といった各部門の書面調査の際に、各担当者を差し置いて、ホストのQAが口を挟むことが多い製造所がある。書面調査で知りたいことは概要じゃないし、理屈じゃないんだよ。場合に依っては、GMPに直接関係するとも限らないんだよ。実際の作業の中身なんだよ。実際の担当者の行為を記録と共に検証したいんだよ。だから、お前が口を挟むんじゃねーよ。これが現場ツアー時だったら、お前退場だぞ!

● 実施する側/受ける側を問わず、内部相談が多すぎる監査
実施する側/受ける側を問わず、質疑応答に際して、それぞれ内部相談(internal discussion)と称した内輪話が多すぎる監査がある。実施する側については、監査チームでの事前打合せや分担の未熟さを感じさせる。受ける側については、実態を正直に伝えることのできない不自然さを感じさせる。いずれにせよ、良い印象は与えないので、注意されたい。

【ラップアップの場で】
● 多すぎる出席者・2
筆者が監査を実施したのも、また受けて応対したのも、「医薬品製造販売業者及び医薬品製造業者に対する調査への責任役員の同席について」*2が発出される以前のことではあるが、それでもラップアップ時の出席者、ほとんどが傍聴ではあるが多すぎる。よほどの受託業者でもない限り、監査を受けること自体がさほど多くないということもあるだろうが、勉強会の如くに集まるのは、申し訳ないが勘弁願いたい。

オーディターとしての立場で言うと、当該製造所のお偉いさん(通常は部長以上の方々が多いと思います)の前で指摘事項を告げるという行為は、ある意味では、部下を含む一般職の方々の前で、上司の不備を告げることにもなり、あまり気分の良いものではない。一般職の実務担当者としたら、「俺たちは一生懸命やってるのに、委託者だからと偉そうに言うな!」と解釈する者だっていないとは限らない。委受託としての両社の信頼関係にヒビを入れることにも繋がりかねない。“勉強”と言うのであれば、後日に「監査報告会」でもしたら済むことなんじゃないのか? むしろ、そのほうがGMPの教育訓練としたら、出席者の頭の整理と今後の対応のためには良いことなんじゃないかと思ったりする。

● あまりにも素直すぎる製造所(ほとんどイエスマン)・2
イントロダクションとしての概要説明や現場ツアー時での質疑応答であれば、それはそれで良いとは思うが、これがラップアップ時での指摘事項の説明ともなれば、どうか。良く言えば素直に指摘を受けて反省していると言えなくもないが、悪く言えばあまりに受け身過ぎて自製造所として何も考えていないとも受け取れる。ハッキリ言って、オーディターの勘違いの場合もある(実際に、受ける立場として指摘の訂正や削除をさせたことは何度かある)。

オーディターの立場からすれば、一歩間違えば、「こいつら、真摯に受け止めているんか? ホントに改善する気あるんか?」とも取れる。異論・反論をしろとは言わないが、少なくとも、指摘理由の確認や改善に向けた方向性の確認などは必要なんじゃないか? 分かっていたが、手間がかかるし、金がかかるからやっていなかったという確信犯でないならば、「えっ、なんで?」と思うのが普通なんじゃないか? だとしたら、指摘理由に納得し、改善に向けた方向性を合わせておかなければ、次回監査ではもっと重い指摘にされますよ。マトモなオーディターであれば、「確認しておきたいことはありますか?」と念押しするとは思いますが・・・。

● 最初の挨拶だけで、以降は無言を貫く出席者
前Part 1の「最初の挨拶だけで、以降は無言を貫く製造管理者」の項でも一部述べたが、製造管理者に限らず、同席しているかもしれない責任役員、ある意味では“お偉いさん”の方々、個々の指摘事項や推奨事項の中身はともかくとして、当該監査全体としてのコメントは何かあるんじゃないですか? 「ノーコメント=すべてに対して同意」という意味で解釈されますよ。少なくとも海外からの監査であれば、間違いなくそう解釈され、文書として報告書に記されますよ。

コメントは、異論・反論だけじゃないですよ。自分(たち)の解釈が正しいかどうかの確認だってありますからね。以降の改善対応につなげるためのステップですからね。ここでズレたら大変な事態になってしまいますよ。方向性合わせの最終チェックがこの段階ですからね。“文句”はともかく、“確認”も無いとしたら、自分たちでは意識していなかったことの“気づかせ”として感謝の意を伝えることも大事ですよ。そんなことの積み重ねが信頼関係の構築・維持に繋がるんじゃないですかね。

● 指摘に対しても愛想が良い製造所
前項の「イエスマン製造所」の究極とも言えるが、指摘事項を述べているのに、変に愛想の良い製造所があったりする。その指摘の重さ云々とは別に、指摘されれば誰だって気分が悪いんじゃないのかな? と思うのである。一言一言に「ムッとした態度」をされるのも嫌なものであるが、だからと言って、変にニコニコされても困る。「こいつら、言われていること分かってるんか? 改善する気あるんか?」と思ってしまう。何事にも“度合い”というものがあると思ったほうが良い。
 

いかがでしたでしょうか。実施する側/受ける側を問わず、もし思い当たる節があるのであれば、注意なさってください。本来、監査って指摘をするためにある訳じゃありません。(自社製造所は勿論のこと)委託先・供給先等での品質に対する意識と実務が自社製品の品質にどの程度影響するかを確認するためにあります。そのため、必ずしも(少なくとも筆者は)GMP要件云々だけをチェックする訳ではありません。原材料、原薬、製剤、包装、保管配送、等々、委託先・供給先によっても変わりますが、多方面の視点で、直接的には製品に関係しない場所(建物間の道路、ドラム置き場、ゴミ捨て場といった場所など)、さらに状況に応じては間接的な管理部門の職員までチェックします(たまたま休憩時に廊下にいた掃除人(業者の方)をチェックされたことがある)。職員については、海外への導出品や輸出品といった場合には、導出先・輸出先企業による監査、当該規制当局などの査察も考慮し、監査対応者の物言いや性格(感情的になりやすいといったこと)まで考慮に入れます。理由は明確です。監査の準備が至らないような箇所にこそ、その会社さんの実態が現れるからです。

前Part 1と本Part 2、言い訳っぽいが、誤解回避のために筆者の真意を述べておきます。別に「上手な監査をしなさい。」なんてことではありません。実施する側/受ける側を問わず、お互いに貴重なリソースをかけて行う、その真の目的を忘れてはいけないということを言いたかったのです。その目的は、品質確保であり安定供給のためです。テクニックとしての“上手さ”よりも、目的に合致する“度合い”の影響が大きいことを理解して対応して欲しいと願ってお伝えしました。
 

では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
ホットケーキ
比較的若い読者であれば、「ホットケーキって何?」なんじゃないでしょうか。今風に言えば、「パンケーキ」のことである。昭和生まれで昭和真っ只中育ちの筆者にとっては、むしろ「パンケーキ?」といった感じで、いまひとつピンと来ない。その「ホットケーキ」にまつわる話である。
あれは小学3年生か4年生くらいであったと思う。当時は、「ホットケーキミックス」なる、水に溶いて焼くだけのプレミックス品が販売されていた。作り方は、母のやっているのを見て覚えていた。ある日、「今日は自分で作ろう」と思い立った。
どうせ焼くのであれば、水よりもお湯で溶いたほうが早いに違いない。そう思ってお湯で溶こうとした。なんと、溶くどころか、ダマになってしまったじゃないか。困った筆者、母に相談した。母は「小麦粉は冷水で溶かなきゃダメなのよ。お湯では、粉が熱―い! って悲鳴をあげちゃうの。これは捨てなきゃだめね。覚えておきなさい。」と教えてくれた。
致命的な失敗ではあったが、一生忘れない科学実験となった。そんな奴が、それから20年余り経過してから、有機化学で学位を取得する。人生、何がどうなるかなどまったく分からない。でも、失敗経験から生きる上で必要な自然科学を学んだ。学ぶべきことは学校だけじゃない。日常の中にもある。あの時、母は私を叱るのではなく、現象のひとつとして諭してくれた。最高の科学の先生であった。
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*1:令和5年9月1付け 厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課 事務連絡「GMP、QMS及びGCTPのガイドラインの国際整合化に関する研究成果の配布について

*2:令和4年4月28日付け薬生監麻発0428第9号、薬生安発0428第3号「医薬品製造販売業者及び医薬品製造業者に対する調査への責任役員の同席について
また、背景を含んでの関連通知等については、併せて「ドマさんの徒然なるままに 第48話:poor GMP・前編および第49話:poor GMP・後編」もご参照ください。
 

 

 

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