医薬品開発における非臨床試験から一言【第45回】

代謝物の非臨床安全性評価

薬物動態試験での代謝物の安全性評価の原則は、まず、ヒト肝試料等を用いたin vitro試験から代謝物の生成速度を求めて代謝安定性の確認から始めます。そして動物試験で代謝プロファイルを検討し、さらに臨床に入ってヒトでの代謝物を測定し、個々の代謝物の曝露量についてヒトと実験動物を比較して安全性を評価します。

代謝物の曝露量が多く、標品を用いた毒性試験が必要となる考え方を挙げます。動物で認められない代謝物がヒトで生じている場合や、ヒトと動物の代謝物の生成割合が異なりヒトで多く生成する代謝物がある場合などは、動物試験からヒトでの安全性を十分に担保できなくなります。これらに加えて、薬理作用や毒性が極めて強い代謝物が生じている場合でも、代謝物標品を用いた毒性試験の実施が必要です。

一方、代謝物標品を用いた安全性の確認が不要な場合として、当該代謝物が既知の物質で安全性プロファイルが明らかな場合、当該代謝物に薬理活性がないと試験データから判断される場合、そしてヒトの体内における生成量や曝露量が極めて低いと証明できる場合などになります。

創薬現場での取り組みについて、新薬の承認審査資料では新有効成分含有医薬品のうち39%で代謝物の安全性に関する試験を実施しています。安全性試験の内訳をみると、単回投与試験:92%、反復投与試験:15%、遺伝毒性試験:31%が行われていました(重複有)。試験の実施理由は、「主代謝物である」が最も多く、他に「ヒト特異的な代謝物である」、「ラットで代謝物がほとんど生成されなかったため」、「代謝物の遺伝毒性が疑われたため」、などになります。

新薬の承認審査資料からの調査では、代謝物の安全性評価を行った結果、親薬物を大きく上回る強い毒性が認められた品目はなかったとの結論や、ヒト特異的な代謝物や親薬物に比べて著しく強い毒性を示す代謝物が生成される品目は極めて少ないとの評価でした。ただし、承認済みの医薬品情報であり、一方、創薬・開発過程でドロップアウトした品目には毒性が疑われる代謝物が存在していたのかもしれません。つまり、安全だった申請品目のみが承認されたと言えます。

代謝物の安全性評価について、ヒト代謝物の評価と規制面の重要性をまとめます。ヒトのみに認められる代謝物は、基本的に何らかの方法で安全性を証明することが必要です。代謝物の曝露量の閾値は、ICH M3(R2)に示された総曝露量からの基準で考え、10%以上の曝露を示した代謝物の毒性を評価します。FDAガイドライン(R2)でも、この考え方と一致し、さらに閾値以下の曝露量であっても毒性発現に注意します。定量的な曝露評価、活性評価の原則に従って、反応性評価、代謝の種差、代謝酵素、標品での評価等の各論的な評価を加えておきます。

改めて、薬物の代謝について紹介します。第1相代謝物は、酸化・還元・加水分解反応により生成し、第2相代謝物は抱合反応により生成し、N-アセチル化を除けば、代謝は極性化反応と考えられます。第2相反応の抱合代謝物のうち、グルクロン酸抱合体は一般的に親薬物より活性が低下します。抱合代謝は、アグリコンに大きな分子修飾と極性の増加が起こり、立体障害による受容体や酵素への親和性の低下、膜透過性(組織移行性)の低下が起こり、さらに体外への排泄が容易(曝露低下)になります。

抱合代謝物を用いた代謝物毒性試験は一般的に不要ですが、例外として、アシルグルクロン酸抱合やグルタチオン抱合では反応性代謝物の生成が懸念されるので注意を要します。また、胆汁排泄後に消化管内の腸内細菌により脱抱合され下痢を引き起こす場合もあることから、抱合代謝物の副作用については臨床試験で十分に確認します。

活性代謝物とは、なんらかの薬理活性を有する代謝物と定義されます。薬理学的プロファイルを確認し、親薬物と同質の薬理作用(On-Target効果)を持ち、それぞれの代謝物について薬理活性が親薬物のそれと比べ同等又は低い場合には、親薬物の毒性試験で安全性の情報が得られていると考えられます。しかし、活性代謝物の持つ薬理活性が親薬物より強い場合、あるいは親薬物と異なる薬理作用(Off-Target効果)を有する場合は、注意が必要です。該当する薬理作用から想定される毒性は何か、ヒトで十分な曝露があるか、活性代謝物の血中濃度推移にヒトと動物で差があるか、等の課題に取り組みます。

臨床的に、親薬物から予測できない副作用が認められ、代謝物との関連が強く懸念された場合は、代謝物の毒性プロファイルを見直します。各種受容体結合試験、酵素阻害試験等により有益な情報が得られます。そこで、臨床で代謝物毒性試験を追加し、ヒトでどのようなリスクが起きるかを予測するなど、科学的で適切な手法を用いて検討します。

ICH M3(R2)ガイダンスでは、ヒトでみられた代謝物について非臨床試験で特徴づける必要がある場合を解説しています。当該代謝物の臨床曝露量が投与薬物に関連する総ての物質の曝露量に対して10%を超え、ヒトでの曝露量が非臨床安全性試験での最大曝露量よりも明らかに高い代謝物になります。非臨床試験で特徴づけるべき代謝物は、第Ⅲ相試験の前に代謝物の安全性評価を行う非臨床試験を実施します。臨床での1日投与量が10 mg未満では、投与薬物に関連する総ての物質の曝露量に対する代謝物の割合を10%よりも高く設定することが適切とされます。

ICH M3(R2)ガイダンスで、「10%の判断基準に対する情報」にはヒトで放射性標識体(RI)を用いた試験が該当します。しかし日本には、RI臨床試験の実施基準はないものの、申請品目の多くにRIを用いたヒトマスバランス試験データが提出されています。これは、日本でも実施可能なRIのマイクロドーズ臨床試験とは異なり、アメリカ等で実施されたと考えられます。非標識体での臨床試験で代謝物の一斉分析からも、ICH M3(R2)ガイダンスに示された「投与薬物に関連する総ての物質の曝露量」を求められ、個々の代謝物の割合は算定できます。

 

 

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