医薬品のモノづくりの歩み【第20回】

2023/07/28 品質システム

菱田 純

前回に続き、「適正在庫」について述べる。

「モノづくりカルチャー」と安定供給(8)

 前回に続き、「安定供給」における「適正在庫」について話を進めます。
今回は、在庫を適正に管理するポイントについて紹介します。
在庫とは、先にも触れましたように、生産と製品の供給の時間差を埋めるもので、製造の前後工程の生産能力の差を吸収する調整役にもなります。更に、会社の利益を決める指標で原価の一つです。従って、在庫管理では、在庫を過剰に抱えることはコスト増の要因になるため、できるだけ在庫を少なく抑えることが目標になりますが、在庫が不足すると安定供給に支障をきたす可能性にもなりますので、在庫を持つことに伴うコストと安定供給の水準をうまくバランスさせる必要があります。
適正に在庫を管理する目的は、まず第一に市場での欠品を防ぐことにあります。
欠品は会社にとって、安定供給に対する社会的信用を無くすばかりでなく、競合品に市場を奪われ販売機会を損失してシェアの減少に繋がります。
次に、余剰在庫の発生防止です、
過剰な在庫は、使用期限切れによる不良在庫の発生や保管にかかる倉庫管理費の増大に繋がります。また、GMPにおける変更管理が発生した際に、変更前に製造した在庫が使用できず残っている場合、不良在庫となるリスクがあります。更に、在庫保管期間が長くなるため、市場での有効期間が短くなります。
その結果、在庫を持ちすぎると、資金繰り(キャッシュフロー)が悪くなり、経営を圧迫しかねません。
つまり、適正在庫量に管理することは、市場で欠品を生じない下限の在庫量と、過剰在庫とならない上限の在庫量の範囲内で、一定水準の需要を見込んだ適正な在庫量に維持することで、安定供給の維持と会社の経営状態の安定化のバランスを取ることになります。
この他、在庫の適正管理の目的には、乱雑な在庫保管が是正され5S(整理、整頓、清潔、清掃、躾の5つのS)が進むことや管理費の削減ができること、更に、市場の動きに敏感になり、需要予測に基づいた発注や計画的な生産を促すなどが挙げられます。また、在庫を管理する基準や手順ができ、GMP管理の向上にも繋がります。

 

 

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執筆者について

菱田 純

経歴 1980年第一製薬株式会社(現第一三共株式会社)入社。固形製剤の製剤研究に従事したのち、生産部門に移動。工場建設、本社生産物流企画、工場分社化、2007年旧三共株式会社との事業統合に伴う生産会社(第一三共プロファーマ株式会社)設立などを担当し、生産に関わるプロジェクトや生産戦略企画実行を数多く経験した。2007年同社取締役経営管理部長、平塚工場長。2014年北里第一三共ワクチン株式会社取締役副社長生産本部長歴任後、現在に至る。 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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