医薬品開発における非臨床試験から一言【第39回】

バイオマーカーの考え方

創薬の現場では、培養細胞系でのin vitroと実験動物を用いたin vivoのスクリーニング試験を出発点として、効率的な非臨床試験を経て臨床試験へ移行し、承認申請のゴールを目指します。創薬においては、スクリーニング試験から探索試験、そして信頼性基準での試験とGLP試験、一方でGMP試験まで含めて、全ての試験の信頼性を保つことが基本になります。

この中で、バイオマーカーの動きを判断基準に置いたスクリーニング試験では、評価結果の再現性が重要であり、非臨床から臨床適用を想定した判断基準は、十分にバリデートして、課題が残らないように心がけます。どのようなバイオマーカーを用いるかの取捨選択は重要ですが、さらに試験の質の考え方を理解し、情報を効率的に利用して創薬を目指していただきたいと考えます。

毒性評価でのバイオマーカーとして、臨床領域で用いられてきたマーカーを、実験動物に応用する場合もあります。しかし、バイオマーカーによる毒性評価は、病理組織学的な変化を反映しない場合や、感度や精度の面で満足できない場合も多く、ヒトと動物のブリッジングは大変です。原因として、動物とヒトとの感受性の種差があります。また、毒性試験での用量は臨床用量より大きいため反応が異なることもあります。毒性バイオマーカーの適用には限界があり、体系的な報告事例は少なく、実験的な検証も難しいことが多いようです。

非臨床では臨床領域で有用性が確認されているバイオマーカーの評価を行い、一方、非臨床での新規バイオマーカーの臨床応用も精力的に行われています。創薬の基本である新規性の追求により、トキシコゲノミクス、トキシコプロテオミクス、メタボノミクス等が革新的に進歩し、これらのアプローチによる新規バイオマーカーにより、特定の毒性を評価することが可能と期待されています。バイオマーカーは常に進化する科学領域のため、一定基準で包括的に評価し、普遍的に利用可能かどうかの判断はなかなか難しいようです。

心臓、肝臓および腎臓を対象臓器として汎用されている毒性バイオマーカーの展望を示し、課題点をまとめます。さらに、心臓のトロポニンTについて述べ、腎臓のKidney Injury Molecule-1 (KIM-1)等の有用性を考え、臨床応用についても示します。

心臓あるいは心筋に起因する病気の繁用マーカーについて考えてみます。血液中のCK-MB(クレアチンキナーゼMB型)は急性心筋梗塞の特異的マーカーとなります。しかし、骨格筋や他の臓器(小腸、子宮、前立腺など)にも少量存在しています。また、CK-MB上昇は筋注あるいは過激な運動、薬物投与(ベンゾジアゼピン、三環系抗うつ薬)で認められるので、注意が必要です。このような背景を考えると、CK-isozymesに加えてLDH、ミオグロビンなども「理想的」バイオマーカーまでには至っておらず、心筋障害に対する特異性をやや欠いています。

肝臓の繁用マーカーの問題点について考えてみます。血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)は、化学的に誘発された肝毒性の末梢指標として、非臨床試験と臨床試験の両方で使用される肝臓特異的酵素になります。ただし、ヒト以外の霊長類のALTは、イヌやラットほど肝細胞障害に特異的ではありません。また、絶食または毒性試験動物種におけるグルココルチコイドの投与により、ALTの血清レベルに影響を及ぼす可能性があると報告されています。

腎臓の繁用マーカーの問題点について考えてみます。BUNは、腎機能(GFR)や残存ネフロン数が50%程度に低下するまでは僅かな上昇しかみられませんが、腎機能が25%以下になるとBUNは急激に上昇するようです。血清クレアチニンは、腎障害が発現しても尿細管からの排泄が持続し、糸球体濾過量がかなり減少しないと上昇はありません。軽度の腎障害では測定値の変化は正常範囲内に留まり、障害が高度に進行して、始めて血清クレアチニンの上昇がみられます。つまり、腎障害の程度に対して血清クレアチニンはパラレルに反応しないようです。

このように、繁用されている毒性マーカーでも不十分な点があります。一方において、新規毒性バイオマーカーの設定・適用も課題があります。①創薬時からヒトへの有害作用を考慮しているか、②ガイドライン追従型の試験実施ではないのか、③申請の為だけの安全性試験ではないのか、④臨床開発試験との連携はできているか、などに注意が必要です。
 

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