経年品の品質評価について”経年”というパンドラの箱
-ニトロソアミン類と溶出試験の4液性の経年評価について-

経年品の品質評価について”経年”というパンドラの箱
-ニトロソアミン類と溶出試験の4液性の経年評価について-

 日本もPIC/Sに加入したことにより、PIC/S GMPガイダンスに従うこととなり、日本のGMPとの大きなギャップ6つについては通知で実施することになりました。2021年8月施行された改正GMP省令にも盛り込まれ、それまで通知だったのが省令に格上げされています。その一つが安定性モニタリングで、基本25℃×60%で行うことが求められています。
 一方、N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)の発がん性が問題になり、欧米ではそれが含まれていた製品の回収が行われ、日本でも回収が起きました。N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)はニトロソアミン類全体に広がり、欧米での基準が出され日本でも下記の通知により、調査が求められています。

「医薬品におけるニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検について」
薬生薬審発1008第1号/薬生安発1008第1号/薬生監麻発1008第1号令和3年10月8日

  1. 対象となる医薬品について (略)
  2. 自主点検の基本的な考え方について (略)
  3. 確認事項、実施期限等について
    (1)自社が製造販売する品目について、ニトロソアミン類の既知の混入原因を参考に、ニトロソアミン類の混入リスクを令和5年4月 30 日までに評価すること。
    (2)上記(1)の結果、ニトロソアミン類の混入リスクのある品目について、当該医薬品に含まれるニトロソアミン類の量を適切なロット数にて測定すること。なお、限度値を超えるニトロソアミン類の混入が確認された品目については、速やかに監視指導・麻薬対策課に報告すること。
    (3)上記(2)の結果、限度値を超えるニトロソアミン類の混入が確認された品目については、規格値の設定、ニトロソアミン類の量を低減するための製造方法の変更等のリスク低減措置を講じること。上記(2)のニトロソアミン類の量の測定及び本項に示す措置は、令和6年 10月 31 日までに行うこと。なお、措置に伴い一部変更承認申請又は軽微変更届出が必要な場合は当該申請又は届出を令和6年 10 月 31 日までに行うこと。
  4. 承認申請中又は承認申請前の品目について (略)
  5. 製造販売業者以外の業者の対応について (略)
  6. その他 (略)


 この通知はニトロソアミン類が含まれているか調査するようにとの通知です。経年まで調査して有効期間中はニトロソアミン類が基準以下かどうかを確認するようにまでは明確に規定されていません。実際これまでは、検出されると回収だったのが、その後基準を超えたら回収と考え方が変わりました。そしてリスクが考えられる製品については期限を決めて調査を求めました。
 今回、下記の製品回収がありました。それまでのニトロソアミン類が検出されたから、その後基準以上だったことでの回収でした。ところが今回の回収は経年での増加で基準を超えたための回収でした。

販売名  : ニザチジン錠150mg「YD」
対象ロット、出荷時期
PTP100錠 2ロット  2021/3/30~2021/4/26
PTP1000錠 5ロット 2020/7/27~2021/7/16
バラ1000錠 1ロット 2020/8/17~2021/3/18

回収理由
ニザチジン錠150mg「YD」について、安定性モニタリング18ヵ月の結果において、管理基準(0.32ppm以下)を超えるN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)が検出されました。実態を把握するため、参考品を用いて拡大調査を行ったところ、一部のロットから管理基準を超えるNDMAが検出されました(最大値0.40ppm)。
当該製品の出荷時には管理基準内であることを確認しておりましたが、管理基準を超えた上記ロットは回収することといたしました。

 そうすると、経年でのニトロソアミン類の増加がないことを確認する必要があります。理論的に説明しても、実際のデータがないとGMPでは根拠になりません。実際のデータは有効期間が切れる製品にニトロソアミン類が基準以下とのデータ取得が必要になってきます。
 問題は、当局がどこまで求めているかです。この経年での回収があったことは、推測ですが、基準ギリギリであり、経年で増加する懸念があったので、製販に経年でのデータ取得を求めたのかもしれません。もちろん、製販が自主的にやっていることかもしれません。
 
 現在、調査として経年まで確認している製販はどの程度あるでしょうか? またこの回収事例をどう解釈されるでしょうか?
 当局に尋ねれば「経年まで確認しなくてよい」とは返ってきません。なぜなら、有効期間中に規格に適合、かつ今回はニトロソアミン類の基準に適合させることがあたりまえの基本的な考えがあるからです。出荷時はOK、しかし経年で基準を超えるなら、安定性モニタリングの意味がありません。違いは規格は当然ですが、基準についてどう考えるかです。
 

 

2ページ中 1ページ目

執筆者について

脇坂 盛雄

経歴 1979年エーザイ株式会社入社、9年間、品質管理と21年間、品質保証を担う。
専門領域はGQP品質保証、注射剤及び固形剤の異物対応、品質リスクの発見と低減対応 ・医薬品/食品の表示校閲、製品回収リスク回避対策 ・逸脱/苦情対応、変更管理(一変/軽微変更)対応。品質保証責任者(品責)、統括部長および理事を歴任し、2013年9月末に退職。
現在は企業のコンサル・顧問を行う傍ら講演会講師、書籍執筆などを精力的に行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

セミナー

2025年7月2日(水)10:30-16:30~7月3日(木)10:30-16:30

門外漢のためのコンピュータ化システムバリデーション

2025年8月21日(木)10:30-16:30

GMP教育訓練担当者(トレーナー)の育成

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます