いまさら人には聞けない!微生物のお話【第30回】

3)EO滅菌工程の確立
正しく滅菌装置が設置され、期待通りに作動することが確認されたら、いよいよ滅菌工程の確立に入ります。がその前に、以下を決めなければなりません。
① 滅菌対象物
製品の定義。対象製品の仕様、一次包装、二次包装、包材を明確にすること。
② 載荷形態の決定
滅菌物をどのような状態で、どのようなパターンでパレットや積載用カートに積載し、滅菌装置に投入するかを決定すること。また満載の状態(Full Load)、満載でない状態(Partial Load)を決め、通常の滅菌工程でどの範囲の積載が許容されるかを明らかにしておくことが必要です。
EO滅菌では、滅菌装置の仕様により異なりますが、多くの場合はパレットあるいは専用のカートに製品を積載し滅菌を行います。その際、一次包装品で処理するか、二次包装品、個箱詰め製品、打箱入り製品での処理か、あるいは出荷用の箱入りかなどの載荷形態を検討、決定します。製造業者にとっては、一度により多くの製品を処理した方が製造コスト上有利です。しかし滅菌器内に製品を隙間なく詰め込むと、EOガスや蒸気の浸透が阻害され、結果的に製品の温度分布に大きなムラが出たり、結露によって製品が汚損されたりして、滅菌するうえでの様々なトラブルにつながることがあります。そのためパレットに箱を積載して滅菌を行う場合は、箱間に数cm の隙間を開けるといった工夫が必要です。また滅菌を行う製品のボリュームの目安として、使用する滅菌装置の有効容積の75%以内ともいわれていますが、その限度については滅菌工程確立時に十分評価しておくことが必要です。
③ 滅菌工程中の品温(目標値)
製品や包材の特性から、滅菌時の温度条件(目標値)を決めます。温度によるダメージや劣化が予想される製品では、許容される工程中の最高温度を明確にすることが必要です。
一例として工程全体にわたって50℃超えない範囲で滅菌工程を設定することとしましょう。より低い温度が望ましい場合は、微生物の殺滅速度が遅くなるため、滅菌時間は長くなります。いずれも滅菌中の製品温度のバラツキはできる限り小さい方が望ましいため、ここでは「バラツキは3℃を超えないこと」を目標とします。つまり滅菌中の温度範囲は47~50℃とします。
製品の特性により、滅菌器内でのコンディショニング(調湿工程)だけでは製品温度にバラツキが生じるような場合、あるいは四季により条件が変動することが予想される場合は、滅菌器への搬入に先立ち、製品を一定の温度・湿度に保ったプレコンディショニングルームや専用のチャンバーで一定時間放置し、温度、湿度を一定の状態にした上で滅菌器に搬入します。この場合、プレコンディショニングルームの温湿度管理、製品積載要領、放置時間(最短および最長時間)、プレコンディショニングルームからの搬出から滅菌器への搬入までの時間等について規定しておくことが必要です。実際に製品に温度/湿度センサーを設置し、どの程度の時間で製品の温湿度が一定になるかを把握することが重要です。プレコンディショニング専用のエリア(プレコンディショニングルーム/チャンバー)は、滅菌器と同様にバリデーションを実施します。
④ 滅菌中の湿度(目標値)
滅菌時の湿度は、特に問題がない場合は、50%RH前後を目標値とします。湿度が低いと滅菌により長い時間が必要となります。また製品温度のコントロールも難しくなります。逆に湿度が高すぎると、滅菌中に製品の水濡れや包材の変形などを起こす場合があります。特に問題がない限り、湿度は40~60%あたりに設定します。
なお製品特性上、極力湿度をかけたくない場合は、EO濃度を高く設定する、時間を長くするなどの対応が必要になります。
⑤ 滅菌中のEO濃度(目標値)
先に述べた通り、通常滅菌中のEO濃度は、500~800mg/L程度を目安に設定します。
今回は600mg/L を目標値とします。
以上の条件を前提として、作業を進めることとします。 滅菌工程は、およそ次のような段階を経て最終的に確定されます。
(1) 滅菌工程中の圧力
今回の例では使用するガスは20%EO/80%CO2 であるため、滅菌時のEO濃度は、ガス投入前の減圧度や缶体内の温度にもより変動しますが、滅菌圧力が絶対圧で150kPa ではおよそ450mg/L、200kPaでは600 mg/L、250kPaでは800 mg/Lになります。
今回は滅菌中のEO濃度の目標値が600mg/L ですので、滅菌圧力を200kPa (ゲージ圧では約100kPa)とします。
(2) 調湿工程
滅菌中の器内の湿度の目標値は50%、調湿用の蒸気は専用のクリーンスチーム発生装置より供給されるものとします。
50℃における飽和水蒸気圧は約12.3kPa(絶対圧)ですので、滅菌器を12.3kPa(ゲージ圧だと約 -89kPa)以下まで減圧した状態で水蒸気を投入することで、50℃の温度管理が可能になります。 最終的に50℃で50%RHの湿度を得るために、水蒸気分圧が6.15kPaになるように蒸気を投入することにします。
なおこの調湿工程で製品の温度が決まるため、最終的に6.15kPaになるように、数度に分けて蒸気を投入し、温度の均一性を確認します。
製品や一次包装の性状や積載状態にもよりますが、通常は4~5回蒸気の投入 / 減圧を繰り返すことで、一定の温度分布を得ることができます。 最適な条件は、何回かのトライ&エラーを繰り返して見つけ出す必要があります。
この調湿・調温工程(コンディショニング)は有効な滅菌に非常に大きく影響します。この工程は装置の仕様によりコントロール方法が変わりますので、滅菌装置メーカーの技術者と協議しながら進めることをお勧めします。
(3) リークチェック
EOは毒性の高いガスです。そのためEO投入に先立ち、リークをチェックするための工程を入れることを推奨します。一般的にはコンディショニング後の減圧状態で一時的に真空ポンプや蒸気供給などをすべて停止し、滅菌器内の圧力に変動、すなわち外気の滅菌器内への侵入が無いことを確認します。たとえば10分間で1kPa以上器内圧が上昇した場合にはリークがあると判断し、工程をキャンセルするなどの対応を取ります。
(4) EOガスの投入
調湿およびリークチェック後、EOをたとえば55℃に保ったガス気化器を通して滅菌器内に投入します。その際、気化器の温度条件、EOの供給速度についてもテストを行い、その条件を決定します。
滅菌圧力は絶対圧で200kPaですので、EOガスは12.3kPaから200kPaまで供給するものとします。 その時の滅菌器内の温度が50℃である時、EO濃度(理論値)は、以下の通りとなります。
EO濃度(mg/L) = KP/RT = 8800×1.85245÷(0.082×323)≒615 mg/L
EO、CO2はともに分子量はおよそ44であるため、20%EO / 80%CO2 の標準状態の混合気体1モル中のEO含量は、44g の20%、すなわち8.8g = 8800mg となる。
ここでは 200 - 12.3 = 187.7kPa = 1.85245atm
(5) 滅菌時間
上記1)~4)で決めた条件で、10-6 の無菌性保証レベルを達成することができる滅菌時間を設定します。
通常のEO滅菌工程で大きなダメージを受けることのない製品については、オーバーキル法により時間を決定するのが実用的です。これは湿熱滅菌でのアプローチと同様で、工程の温度、湿度、EO濃度を再現性良く達成できる条件を予め決め、その上で滅菌器の中の最も滅菌され難い場所を含む複数箇所に挿入したすべてのPCD/バイオロジカルインジケータが、再現性良く安定して陰性となる最少時間を 100 に到達した点と考え、この2倍を通常の滅菌時間(EO暴露時間)とします。
「再現性良く安定して陰性となる最少時間」を見つけ出すため、全体の状況を適切に把握できるだけのセンサー類、およびBIを滅菌物に挿入し、それらを上記で決めた加湿、ガス圧条件で0.5時間、1時間、1.5時間・・・ と滅菌時間を変えながら、処理を行います。(バリデーションで必要なセンサーの本数については、ISO11135で紹介されています。後述。)この際のアプローチ方法は湿熱滅菌と同様ですが、一般にEO滅菌の方が湿熱滅菌より指標菌の死滅に時間がかかります。そのため30分~1時間間隔で時間を振り、PCDの死滅を確認します。なおプレコンディショニングを使用する場合は、BIはプレコンディショニングルームに搬入する前に挿入しておきます。
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