医薬品開発における非臨床試験から一言【第35回】

病態モデル動物の利用

これまで、創薬研究に用いる病態モデル動物について、「肝不全」、「胆汁排泄」、「腎不全」及び「糖尿病」について示してきました。これらは、外科侵襲、薬物投与及び遺伝子欠損までを含み、肝臓等の標的に対する侵襲度と、実験の再現性について検証されてきました。今回は、視点を変えて、病態モデルを分類して整理してみます。

病態モデルに用いる実験動物には、大きく2つの分類があります。げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモット)と非げっ歯類(イヌ、サル、ミニブタ、ウサギ、ネコ)になります。これらの中では、創薬研究に汎用され、供給と扱いの簡便なマウス及びラットを用いた病態モデルの報告が多いようです。

遺伝的に突然変異を伴った病態モデルと、それを使用した創薬研究が報告されています。一方、遺伝子背景がほぼ同じで、実験的な再現性を保証した系統も供給されており、これらは、既に紹介した外科侵襲の実験に使用します。ラットの場合、昔はWister系を使用していました。しかし、供給元の違いにより、遺伝子背景が若干異なり、実験結果(薬理・毒性等)に違いを生じる場合がありました。そこで、世界標準のラットの系統作りが行われ、各地域から選抜したSD系ラットを交配し、さらに兄妹交配を繰り返して遺伝子背景を整えて、現在のSD系ラットの供給に至っています。

次に、突然変異による病態モデルについて示します。非常に有名な自然突然変異にヌードマウス(nude mouse)があります。1962年、グラスゴーにあるルーチル病院のブラウンリーウイルス学研究室においてN. R. Gristによって発見されました。ヌードマウスは、胸腺の劣化あるいは欠損を引き起こす突然変異を持つ血統で、T細胞の著しい減少により、結果として免疫系が阻害されています。外観として体毛の欠如があり、そのためヌードマウスと名づけられました。

ヌードマウスは免疫系が阻害され、異なる型の組織や腫瘍の移植に対して拒絶反応を示さないため研究に有用です。一般的には腫瘍の新しい画像化や治療法の研究に利用されてきました。しかし、ヌードマウスは、leaky(漏出)があり、週齢を重ねると、わずかにT細胞を持つようになります。ヌードマウスの体毛・胸腺の欠如は Foxn1(winged/helic/forkead transcription factor)遺伝子異常によります。またヒト腫瘍細胞株の生着が可能なことが示されました。ヌードマウスでは、体毛がないため皮下に移植した腫瘍細胞の同定が容易であり、in vivoイメージングも簡単です。

自然発症の突然変異体のSCID(Severe Combined Immunodeficient)マウスは、1983年にFox Chase Cancer CenterのBosmaらにより、成熟したT 細胞とB 細胞が欠損したマウスとして発見されました。SCID マウスでは遺伝子欠損によりDNAの修復異常があり、T細胞とB細胞の遺伝子再構成ができず、成熟したT細胞とB細胞が欠損したため、獲得免疫が欠如しています。しかし、SCIDマウスは正常なNK細胞、マクロファージ、顆粒球があります。

SCIDマウスではT細胞とB細胞のリンパ球の連合機能が欠けています。胸腺、脾臓、リンパ節の重さは正常の30%に満たない程度です。このマウスは腫瘍学、免疫学、微生物学、生殖医学などの分野で広く応用されていて、PDXモデルの良い宿主になります。しかし、一部のSCIDマウスは、leaky現象により若年期にある程度の免疫機能回復が見られます。この現象は遺伝しませんが、マウスの年齢、品系、飼育環境と関連しています。このマウスは感染しやすいですが、清浄なSPF環境では1年以上生存できます。

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