医薬品開発における非臨床試験から一言【第34回】

ラット糖尿病モデルの作成

糖尿病は発症の原因に加えて、病態まで考えると、広がりの大きな病気であり、また文明病とも言えます。運動療法と食事療法で、ある程度の維持が可能ですが治癒は難しく、忍耐と努力は大変です。創薬研究から考えますと、糖の消化吸収を抑制するような栄養補助療法から、発症の原因にターゲットを当て、分子標的薬のような最新の研究まで大きな幅があります。Ⅰ型とⅡ型の糖尿病では、治療の取り組み方が異なり、さらにⅠ型とⅡ型の混合型が多いことも治療方針を難しくしています。肥満・加齢も糖尿病の悪化に関係してきます。そして糖尿病を悪化させると、網膜の損傷による失明、腎不全による透析、下肢の血流悪化による切断、神経への影響など、多くの不幸を招きます。この糖尿病に対しての創薬をテーマに、実験に用いる糖尿病モデル動物を解説し、非臨床での研究をまとめます。

古典的には、ストレプトゾトシン(STZ)投与により膵臓のβ細胞を破壊するⅠ型糖尿病モデルが有名です。ただし、インスリン投与による感受性が低いため、Ⅱ型との解釈もあります。そこで、使用する動物の選択によりインスリン感受性を高める研究も進められています。
STZ糖尿病モデルの作成は、7週齢のラットを用いて、STZ 45 mg/5 ml/kg B.W.(pH4~4.5 クエン酸緩衝液)の用量で尾静脈投与します。この時、投与液を素早く調整して直ちに投与するのがポイントになり、STZの溶液を調整して投与するまでの時間を、正確に一致させると糖尿病の症状がそろってきます。つまり、1匹分ずつを用事調整する方法です。これは、溶液中でSTZが不安定なためと考えられています。STZの投与後、通常飼育により、ラットは徐々にⅠ型糖尿病の高血糖症状を示します。

Ⅱ型糖尿病は、遺伝的な背景に加えて、食事などの環境も原因になり複雑なため、糖尿病を発症する原因とリンクしたモデルが報告されています。自然発症型の病態モデルとして、Zucker fattyラットは突然変異の肥満モデルですが、交配によりZucker diabetic fatty(ZDF)ラットがⅡ型糖尿病ラットとして報告されました。

Ⅱ型糖尿病モデルとしてSDT(Spontaneously Diabetic Torii)ラットが供給されています。高週齢で糖尿病を自然発症し、白内障、増殖網膜症、血管新生緑内障などの糖尿病眼合併症を発症するため、治療薬の開発に有用と報告されています。さらに、SDTラットの発症は高週齢のため、改良型のSDT fattyラットが確立されました。この改良型は、Zucker diabetic fattyラットのfa対立遺伝子をSDTラットに導入して作成され、SDTラットよりも速く糖尿病を発症します。このモデルを用いた糖尿病治療薬ピオグリタゾンの研究では、血糖値を低下させて、糖尿病性足病変における末梢神経障害の発症の遅延を確認できました。

加齢に伴って肥満からⅡ型糖尿病を発症するOLETF(Otsuka Long−Evans Tokushima Fatty)ラットが報告されています。OLETFラットは、10週齢から肥満となり、25週齢になると糖尿病を発症します。この糖尿病を発症した後に食事療法を行うと、糖尿病に改善がみられる点は従来のモデル動物よりも発症メカニズムがヒトに類似していることを示唆しているのかもしれません。しかし糖尿病を発症し神経障害が形成されるまでに、他のモデル動物と比較して、長期間を要するのは利点でもあり難点でもあります。つまり、病態は臨床に近くなりますが、実験としては時間がかかって迅速な創薬にはなりません。

マウスでは、加齢によるⅠ型糖尿病を自然発症するNOD(non-obese diabetic)マウスが報告されています。しかし、創薬研究において、幾度かの採血を行って長期の病態観察を行うためには、ラットのほうが有用かもしれません。

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