スタートアップバイオベンチャー経営(栄一の独り言)【第9回】

2022/09/23 その他

mRNA医薬CDMOのKey Playerの解説をする。

<執筆者山口様のセミナーも開催>
核酸医薬の事業戦略構築とライセンスの実務ポイント

これまでご紹介したのは、核酸医薬CDMO(医薬品製造開発受託機関)のKey Playerですが、今回(第9回)と次回(第10回)はmRNA医薬CDMOのKey Playerのお話をします。念のため、この両者の違いを申し上げますと、mRNA医薬は、mRNAを体外から体内の細胞に直接投与して目的のタンパク質を新しく作らせます。所謂、新型コロナウイルスのmRNAワクチンが代表的なmRNA医薬です。
一方、核酸医薬は、20数塩基程度のオリゴ核酸(siRNA、アンチセンスなど)を細胞内に入れて、RNAに作用させ、遺伝子発現を抑制することにより、病気の原因となるたんぱく質をなくしたり、或いは機能的なたんぱく質を作らせたりして当該疾患を治癒します。
また、核酸医薬の塩基の長さが20数塩基なのに対し、mRNA医薬の塩基の長さは千塩基以上に及ぶのも大きな違いです。


それでは、mRNA医薬CDMOのKey Playerをご紹介致します。
 

1.  サーモフィッシャーサイエンティフィック社 (パセオン社):

サーモフィッシャーサイエンティフィック社 は、CDMO市場のリーディングカンパニーであるオランダのパセオン社を72億ドル(約8千億円超)で(2017年5月)に買収しました。この買収により、完全なるワンストップサービス、即ち、「開発」、「製造」、「包装」、「ラベリング」、「配送」、「保管」まで一気通貫で対応できるようになりました。また、「初期開発」から「治験薬」、「商用」まで幅広く対応できます。
30年以上のGMP製造の歴史で米国FDAからWarning Letter(警告書)を一度も受けず、直近(2011-2020年)の10年間の新薬承認件数(117件)が業界2位と比べて2倍という圧倒的な実績に裏打ちされた高品質なサービスを提供し続けています。同社は、現在、取引企業数は1000社を超えています。1日当たり100万人に治験薬を含めた医薬品を患者に届けており、5年後にはこの数を2倍の200万人にすることを目指しています。
最近では、mRNA医薬のCDMO事業も積極的に展開されることをアピールされています。私は、核酸医薬の市場がより顕在化されてくると、mRNA医薬のみならず、核酸医薬のCDMO事業へも展開を拡大させると予測します。そうなると、この巨大CDMO企業の参入により、既存の核酸医薬CDMO市場の勢力図が一気に塗り替えられるかもしれません。


 

2. リコー(RICOH):

リコーが米国の先端医療スタートアップ企業、エリクサジェン・サイエンティフィック社を2022年7月に買収し、「mRNA医薬品のCDMO事業」に参入することを発表しました。主力のコピー機で培った生産管理技術などを生かし、新型コロナウイルス禍で注目を集めたmRNA医薬品を収益の柱に育てる意向です。買収額は数十億円規模とみられています。エリクサジェン社は21年9月に湘南ヘルスイノベーションパークで国内初となるmRNA医薬品の開発製造受託を始めていましたが、現在の生産能力は週当たり100ミリグラムにとどまっています。今後、リコーは十数億円を投じて同拠点の生産能力を順次増強する予定です。25年までに足元の600倍となる週あたり60グラムまで生産能力を高める計画です。新型コロナワクチン換算で、年間約1億回分に相当します。同時に手掛ける創薬支援ビジネスと合わせ、2025年に200億円の売上高を目指します。
この買収の特徴は、エリクサジェン社は、iPS細胞やES細胞をさまざまな細胞へ高速分化誘導可能な独自の「Quick-Tissue™」技術を有しており、iPS細胞を用いた創薬研究や疾患研究の効率化に貢献している所です。また、本技術における分化の過程でmRNAを用いることから、mRNAの設計や製造においても、エリクサジェン社は強みを有しています。リコーはこれまで培ってきたデジタル化技術やAI(人工知能)技術によりエリクサジェン社の技術の活用領域を拡大し、個別化医療や創薬研究の加速に貢献します。また、エリクサジェン社が保有する豊富な細胞実験データを活用することにより、AI技術を用いた薬剤応答や疾患メカニズムの予測ビジネスの開始を目指します。
更に、日本のmRNA医薬品の創薬市場の活性化に向けて、「リコー バイオメディカル スタートアップ ファンド」を2022年9月に設立し、創薬事業を行う日本国内のスタートアップ企業の研究開発を支援します。このファンド設立は、現時点では創薬ステージの早い段階のスタートアップ企業への資金供給が十分ではないという課題を背景としています。また、日本国内におけるmRNAを用いた創薬拠点が少なく、経済安全保障の観点からも日本国内における創薬基盤の構築が急務となっている事情があります。 当ファンドの設立により、これまで自社およびエリクサジェン社で培ってきた強みだけでなく、スタートアップの持つ技術やノウハウを組み合わせることで、日本国内におけるmRNAを用いた創薬基盤の整備・構築を加速し、人々の健康と安心への貢献を目指しています。
リコーは、コピー機メーカーから、mRNA医薬のCDMO並びに先端医療を手掛ける創薬支援企業へトランスフォーメーションしようとしているのが分かります。

 

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執筆者について

山口 栄一

経歴

A1 Partners 代表。
九州大学大学院にて薬学博士取得。塩野義製薬およびバイオベンチャー企業で20年超に及ぶ事業開発経験を有する。同社事業開発部/経営企画部 部長を歴任。海外事業経験も豊富で、シオノギシンガポール初代社長、Shionogi Qualicaps, Inc. (米国ノースカロライナ州) Vice President、及び、Shionogi New York Ltd. で臨床開発に従事した。 バイオベンチャー企業で、取締役兼社長執行役員を勤め、バイオベンチャースタートアップ企業の経営経験を有する。日本ファルマアライアンス協会 初代会長として製薬業界へアライアンスマネジメントの普及に貢献した。感染症関連官民連携会議(座長:尾身 茂先生)で、「民」側の代表として、副座長を務めた。日本製薬工業協会 国際委員会 幹事としてグローバルヘルスにも従事した。Blockbuster Tokyo 2021のメンターに選出された。更に、厚生労働省委託 医療系ベンチャー・トータルサポート事業、MEDISO (Medical Innovation Support Office)のサポーターに採択された。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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