EUのMDRと米国のQSRの比較とデジタル化の役割

記事投稿:マスターコントロール株式会社

ライフサイエンスに関わる企業の皆様がご存じの通り、米国(FDA)と欧州(EMA)では、医療機器に対する規制とその対応方法が微妙に異なっているため、この違いを理解しておくことが重要です。
この記事では、これらの違いを検証し、デジタル化によって両地域の規制要件への準拠がどのように促進されるかを紹介します。


米国の品質システム規制 (QSR:Quality System Regulation)
2022年2月23日、FDAはQSRのcGMP要件について、世界の規制当局が使用している医療機器の品質管理システム(QMS)の国際合意規格、特にISO 13485:2016と整合させる改正案を発表しました。この整合化により、現在機器メーカーに課せられている医療機器規制への対応並びに記録の重複に伴う作業負担を軽減することができます。
更新されたQSRは、基礎となる医療機器品質マネジメントシステム要件としてISO 13485:2016の要件を取り入れ、連邦食品・医薬品・化粧品法における既存の要件と整合させるための追加要件を含むことが予定されています。ここには、規制の一貫性を促進し、患者のために安全で効果的な高品質の機器をよりタイムリーに導入するという意図があると考えられます。
さらに、21 CFR Part 4の編集により、組み合わせ製品に関する機器のcGMP要件が明確にされる予定です。現行の品質システム検査技術(QSIT)は、最終化された規則の要求事項を取り入れるために見直され、該当する場合は改訂される予定です。

ISO 13485 に準拠するための適合要件は、現行のPart 820 と実質的に同じですが、最も顕著な違いは、リスクマネジメントに関する要求事項です。21 CFR 820 において、リスクマネジメント特有の要求事項は、設計バリデーションのリスク分析に関連するものとして、820.30(g)に記載されています。
また、ISO13485 では、QMS に必要なプロセス管理にリスクベースドアプローチを適用するためのリスク要求事項が詳述されており、ここには、ソフトウェアバリデーション、製品化、設計管理、購買、プロセスバリデーション、設備、及びフィードバックが含まれています。

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EU医療機器規制(MDR:Medical Device Regulation)
MDRでは、QMS対応の移行期間を2022年5月21日と定めていました。
MDRは、それ以前の医療機器指令(MDD:Medical Device Directive)および能動埋込型医療機器指令(AIMDD:Active Implantable Medical Device Directive)に代わるものです。
この移行に伴い、CEマーク有効期限が2024年5月25日までとなるMDDの下でCEマークを取得した製品を除き、CEマークの申請は新しいMDRの範囲内で行われます。
これらの機器に対する製造業者のQMSは、MDR第120条に記載されている諸要件に準拠している必要があります。

医療機器の市販後サーベランスとビジランスに関する重要な変更がMDRに盛り込まれました。

MDRの下でCEマーク申請を成功させるには、臨床評価および性能評価に関する要件に準拠した、説得力のある報告書を作成する必要があります。


EU MDRと米国QSRの比較
米国FDAは、医療機器の市販に伴うレギュレーションとして、510(k)(Premarket Notification)、De Novo、Exempt、PMA(Premarket Approval)、PDP(Product Development Protocol)、HDE(Humanitarian Device Exemption)、BLA(Biologics License Application)などを規定しています。

510(k)申請の最初のステップは、FDAの医療機器データベースを使用して、その機器に適したクラスを特定することです。

• クラスIの機器。低リスクで、一般的な規制管理が必要 - 510(k)。
• クラスII機器。中程度のリスクで、一般的な規制と特別な規制が必要 - 510(k)。
• クラスIIIの機器。クラス III の機器:疾病または傷害の潜在的リスクが高い
 (例:埋込型機器、人間の生命を維持または支援する機器、人間の健康障害を防止する上で実質的に重要な機器) - PMA。

MDRにおける機器の分類は、非侵襲性医療機器、侵襲性医療機器、能動性医療機器、特殊カテゴリの4つのカテゴリーに基づいています。分類はリスクに基づき、必要なデータと評価の規模が決定されます。

• クラスI。クラスI:非滅菌または測定機能なし(低リスク)。
• クラスI:非滅菌または測定機能なし(低リスク)クラスI:滅菌または測定機能あり
 (低/中リスク);MDRでは再使用可能な外科用器具をこのグループに追加しています。
• クラスIIa。中リスク。
• クラスIIb。中リスク/高リスク。
• クラスIII:高リスク。

MDRの各章や附属書で説明されているように、各機器クラスには個別の試験要件があります。また、ソフトウェアには追加の要求事項が含まれる場合があります。


MDR臨床試験プロセスの違い
510(k)申請準備のために完了すべき評価には、以下の要件があります。

• 安全性予備試験
• リスクの推定
• ハザードの特定
• ハザードマネジメントの計画
• リスク軽減戦略の立案
• リスクコントロール分析
• リスクコントロールの有効性検証
• 全体的な残留リスク分析
• リスク便益分析
• リスクマネジメントレビュー

クラスIの機器は、附属書IV及びVに従って評価され、CEマーキングのためのノーティファイドボディ(NB)による適合性評価が免除されます。
中リスクのクラスI機器とクラスIIa機器の一部は、附属書XI(パートA)に基づく適合性評価を求められる場合があります。
クラスIIbおよびクラスIIIの機器は、NBによる適合性評価において、附属書II、X、XI(Part AおよびB)に基づき、機器型式試験、適合性検証、製品検証、並びに広範なリスク評価に関して十分な技術文書が必要とされます。


医療機器製造におけるデジタル化
医療機器に関する現行の規制を遵守するうえで、デジタル化はそのために必要な負担を軽減します。
デジタル化がもたらすメリットとして、データへのアクセスの容易さやステークホルダーにとっての時間効率と効果の向上に加えて、資産ライフサイクル、顧客サービス、セキュリティ、製品品質の改善などが挙げられます。
また、ステークホルダーのスキルアップにより、生産性と競争力を高めることも可能です。
一方、トップマネジメントはデジタル化にあたり、保護すべき重要な情報を特定し、リスクアセスメントを実施して、データの損失や侵害に対するリスクレベルを評価する必要があります。

製造工程管理におけるデジタル化では、インフラ環境、セキュリティ要件、データの流れ、システム間のデータ共有、工程管理などを定義する必要があります。また、プライバシー情報については、アプリケーション、インターネット、カメラ、セキュリティシステム(コンピュータベースとモバイルの両方)からのデータ受信を含む、IDが記録される各データ収集プロセスに対し、一貫した評価を実施しなくてはなりません。
サイバーセキュリティ(企業およびモバイル)および Web サイトの管理も、プロセス管理 の評価に含める必要があります。 評価すべき分野は以下の通りです。

• 物理的セキュリティ
• 運用上のセキュリティ
• 人的セキュリティ
• 不測の事態と災害復旧計画

専門性が求められるシステム(例:AI、自動化、無線インフラなど)に関する導入、トレーニング、および運用にあたっては、外部エキスパートを活用することで実行力を高めることが可能です。また、技術や互換性の要件が、最先端ではなくとも、効率的かつ効果的に維持されるように、「計画的陳腐化」をプロセスコントロールに含める必要があります。
システムのアップグレードにおいては、稼働中のシステムと並行して、段階的に、またはパイロット導入によってテストを実施する事が可能です。標準的なAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)を使用することで、将来的な技術革新に伴い、予想される実装への影響度を軽減することが可能になります。


関連コラム(ダウンロード可)
FDA医療機器査察官の査察に関する見識
FDAの規制問題事務局(Office of Regulatory Affairs:ORA)医療機器スペシャリストに行ったインタビューを掲載しています。
(資料ダウンロード >カテゴリを選択 >Q&A)


‘EU MDR: How to Prepare for the Upcoming Changes in Regulation’
医療機器メーカーが新規制に備えるために理解しておくべき重要なスケジュール、用語、新規要件について解説しています。



 

著者のご紹介
Jason Jegge

Jason Jeggeは MWAコンサルティングの主任コンサルタントです。医療機器業界で30年以上、以下の職務に就いてきました。

• 研究開発、プロセス開発、品質における製品開発エンジニア。
• 製品開発プロジェクト、事業拡大、改善プロジェクトにおけるプロジェクトマネージャー、プロジェクト
  リーダー。
• 品質工学、サプライヤー品質、苦情処理、校正、品質システム改善における品質管理リーダーシップ。
• 製品申請(カナダ、EU、日本、米国)、製品商業化、製品サーベイランスにおける臨床および規制管理
  リーダーシップ。
• 品質システムおよび薬事に関するさまざまなテーマで、ブログ、トレーニング、ウェビナーを開催。

ジェイソンの医療機器業界での経験は、クラス I、II、IIa、IIb、クラス III、510k、DeNovo、BLA、IND、NDA、PMA、埋め込み型、診断、使い捨て機器に及んでいます。

製品開発の経験には、初期プロジェクト戦略、コンセプトから臨床試験を含む商品化段階までのプロジェクト計画・実行が含まれます。


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マスターコントロールのソフトウェアは、日本企業を含む世界1,500社以上のお客様にご利用頂いており、米国FDA(米国食品医薬局)の全世界のORA部門にも導入頂いています。 
 

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