医薬品設備建設における「オーナーのプロジェクトマネジメント2nd改訂版」【第14回】

2022/05/27 施設・設備・エンジニアリング

星野 隆

今回も引き続き、製作・施工ステージについて解説する。

(3)    施工
 施工の方法、要領、技術などについてはここでの記述を省略する。

①    施工図
 施工は施工図や施工要領書などを基に施工されるが、通常は施工図を製薬会社に提出されていない場合が多い。製薬会社へ詳細図は提出され承認を受けているが、施工図レベルの図面が提出されていないことが多い。詳細図と施工図とで齟齬がなければ問題はない。詳細図であろうと施工図あろうと、製薬会社としてはユーザー要求事項について、設計の結果を確認したものでなければならない。例えば1/100の勾配を必要とする配管であれば、図面上でその勾配を確認しておかなければならない。これらのことは、詳細設計ステージにおけるデザインレビューやDQにて実施されているはずである。

②    施工管理
 施工段階は、建設プロジェクトの中で最も複雑であり、コストや工期がかかり、リスクや変更が最多のステージである。そして、プロジェクトマネジメントの総集編ともいえる。この時期は、一日一日で施工現場が変化していく時期でもある。したがって、施工時に何か問題が発生した場合は、いかにスピーディに対処するかが重要である。施工現場における施工状況をコントラクターにお任せするのではなく、製薬会社側としても、施工現場がユーザーの意図したとおりのものに施工されつつあるのかを、管理していく必要がある。施工が完了した時点で、「あれが悪い、これが悪い」というのではなく、施工途中で気が付いた問題点を素早く対応していく壁である。施工というのは待ったなしである。いかにスピーディに問題解決をするかが、製薬会社の施工管理の最重要ポイントといってもよいだろう。
 施工に関してコントラクターはプロだから、製薬企業側しては何も管理しなくてよいと考えるのは間違いである。コントラクターのプロレベルも千差万別である。施工管理をどの企業が行っているかというより、誰が携わっているかという観点で見て、どこまで任せられるかということになる。例えば過去の実績などから、A氏がプロジェクトマネジャーなら殆ど任せてもよい。或いはB氏なら非常にリスクが高いので任せられないといったことである。建設プロジェクトに限ったことではないが、昨今の国内企業の不祥事から判断すると、製薬企業側としても抜き打ちの施工チェックなどを検討する必要がある。例えば、不適正な杭打ち工事、免震ゴムの検査データの改ざん、規定された方法によらない自動車燃費テストデータなどがあった。同種のことが建設プロジェクトにもあり得ると考えられるからである。海外建設プロジェクトの私の経験では、ある工事検査が実施していないのに、実施したかのように架空のデータを記載したドキュメントを受理したことがある。日付から判断すると、施工現場でそのような検査が行われていないことが明白であったため、虚偽のデータであったことが判明した。これは海外の例であるが、国内でも同様のことが行われる可能性はある。
 施工後には検査できない項目について、適宜、製薬企業としても施工中の検査を行うのが望ましい。例えば、配筋検査(鉄筋のサイズ、鉄筋のピッチ、鉄筋の油分撤去など)はコンクリートを流す前でなければできない。あるいは壁材の内部といったようなものは、施工後では検査できない。製薬企業は、コントラクターに施工中の検査項目を事前に伝えておき、検査のタイミングをコントラクターから入手しておくこと。

③    安全防災管理
 施工現場の安全防災に関しても、製薬会社が統括安全衛生責任者を選任しなければならないような場合もある。コントラクターの安全について発注側にも責任があり、全てコントラクターにお任せというわけにはいかない。製薬企業とコントラクターから成るチームにて、安全衛生協議会設立し、施工中の安全パトロールも定期的に行うこと。
 また、安全防災に対する緊急時の対応を明確にしておくことも重要な事項である。

④    清浄度管理区域の施工
 清浄度管理区域の建築材料は、微生物の増殖を避けるためにも通常のビル建設とは異なっており、また施工についても異なるところがある。したがって設計段階で決められたとおりに施工されていることを管理する必要がある。また防虫防鼠の対策も必要であり、国内では木材を使用することは避けている。清浄度を保つために、壁の貫通仕舞いは特に要注意である。特に電線管の貫通などは内部の電線に沿って空気の出入りの無いように遮断することを忘れないこと。
 また、工事の終了近くのどの時点で清掃済みの区域として管理するかということも、重要な要素であり、清掃済み後の入退出の管理も変更となる。いずれにしても医薬品を製造する設備であるので、コントラクターは施工中からもできる限り汚さないで施工をしていただきたい。

⑤    施工時のチェンジマネジメント
 Quality Change Control (QCC)は、通常、試運転ステージが終了し製造部門などへの引渡し後より実施される。それまでの間はECM during Projectにより、変更について管理される。施工ステージは特に変更が多く発生する。すなわち、設計どおりに施工できないために変更することがある。この変更を施工側にて独断で変更を実施すると、設計者の意図やユーザーの要求事項、規制当局の要求事項に合致しないことがある。このような変更に対して、以下のようなECM during Projectを実施する。ECMは施工ステージだけではなくも設計~試運転のステージで実施される。設計といっても基本設計が確定した時点から実施するのが、実践的である。

  • ECM during Projectの運用方法(変更の起案、レビュー、承認)を決定しておく
  • 変更対象を明確にする
  • 変更による影響を評価する(ユーザー要求を満足しているか、規制当局の要求事項に合致しているかなど)
  • 承認に関しては、医薬品品質に影響する可能性のある事項の変更や、以前にQUが事前承認した事項の変更はQUの承認が必要であり、その他はエンジニアリング等のSMEの承認となる
  • 文書化する

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執筆者について

星野 隆

経歴 1971年3月大阪大学工学部機械学科卒業後、同年4月武田薬品工業(株)に入社。2014年3月の同社退社までの間、同社および同社の関連会社における建設工事において、プロジェクト業務に携わった。プロジェクトの種類としては、医薬品、ビタミンバルク、調味料バルク、化学品、農薬等の生産施設をはじめ、研究所の建設にも携わった。また、国内外のプロジェクトや、他社との共同プロジェクトにも参画した。また、メンテナンスやユーティリティ部門のマネジャーの経験もあり、総合的なエンジニアである。
社外の活動としては、ISPE(国際製薬技術協会 : International Society for Pharmaceutical Engineering)の日本本部理事、常任理事を歴任。日本プロジェクトマネジメント協会理事。
現在は、個人コンサルタントStar Enterprise(プロジェクトマネジメント、エンジニアリング、イベント企画)。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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