医薬原薬の製造【第2回】

原薬のコスト計算
 
 原材料を購入し、製造設備と製造人員で製品を製造し、販売するのが製造業です。原材料は、製品の製造量に比例して増減するので、変動費もしくは比例費と呼ばれます。また、製造設備の費用と、製造人員の費用は、製造量に異存せずに一定なので固定費と呼ばれます。ここでは、標準的なプラントで標準的な人員で原薬を製造した場合に、どの程度の製造固定費と変動費がかかるのかについて考察していきます。実際の例を上げることは、Confidentialityの問題があるので大雑把な議論を展開します。しかし、大雑把とは言え、自分の生産している原薬がどの程度のコストで製造されているのかを計算する手掛かりになりますので、コストについて考えたこともないという方には参考になると信じます。
 
 定費および変動費に分けて原薬のコストを考えてみます。
 
固定費
 
 固定費の内訳には、以下のようなものがあります。以下、順次解説していきますが、最後の本社費用については、解説いたしません。 本社費には、工場には属さない販売費用、研究費用などが入ります。この費用は、会社によって随分異なるからです。
 減価償却費
 租税・保険
 修繕費
 金利
 人件費
 本社費用(研究費を含む)
 
固定費1:減価償却の考え方について
 
 固定費の考え方を理解するには、設備償却の考え方について理解せねばなりません。設備投資をして新しい設備を造った場合、会計上の考え方は、現金が資産に変わっただけで、企業損益には全く関係ないと解釈しますただし、設備は、耐用年数があって1年毎に資産価値が下がってきます。この資産価値の目減り分を設備償却と言い、この分、企業は損をしたとして経費に計上することができます。現金は動かないわけですが、経費として計上するのです。以下設備の償却の考え方について詳述します。そんなことは常識という方は読み飛ばしてください。
 仮に、資産価値の目減りがなければどういうことになるのか、考えてみましょう。2013年に100万円の設備投資を行ったと考えましょう。企業の損益計算上、100万円の設備は、廃棄した時に一気に資産価値がゼロになります。廃棄年には、一気に企業業績が100万円分マイナスになるということです。またこの設備の資産価値は一定という前提を置きましたので、毎年1.4%の固定資産税がかかり、設備を廃棄するまで、毎年1.4万円の固定資産税を設備廃棄するまで、継続的に国庫に納めなければいけません。これでは、誰も設備投資をしなくなります。具体的に考えてみましょう。表2 設備償却をご覧ください。
 
表2 設備償却
 
 医薬の製造設備の場合、耐用年数は7年と定められています。7年間で資産価値(期末簿価)を1円まで減らしていきます。7年償却の場合の、償却率は1/7*2.00=0.286と法律で定められています。(平成24年改正法規)つまり、100万円の設備の価値は、毎年28.6%減ると考えるわけです。
 そうすると、初年度末では、28.6万円資産価値が減り100*(1-0.286)=71.4万円が資産価値になります。2年度期末では、この金額の28.6%=20.4万の資産価値がさらに減り、資産価値は51.0万となります
 3年度末では、14.6万円目減りして36.4万、4年度は、10.4万円目減りして26.0万円となります。さらに、5年度末では、26.0万の28.6%の7.43万減るのが計算ですが、保証率8.680%という数字が定まっていて、取得価額の8.680%以下の資産額の目減り(償却)となった場合は、8.68%を償却するという定めがありますので、取得額の8.68%の8.68万分資産が目減りして、17.3万円、6年目は、さらに8.68万円減って8.63万円の資産価値、7年度は、期末の残存簿価が1円になるように資産価値が減ります。
 固定資産税は、期首の簿価に対して課税されますので、7年間トータルでみると、7年間合計すると取得価額の4.35%税金を払ったことになります。8年目以降は、固定資産税はかからないということになります。設備償却の制度がなかったと仮定すると、7年で取得価額の7*1.4=9.8%の固定資産税がかかることになります。設備償却がないと倍以上の固定資産税を払うということになってしまいます。
 また、設備を7年以上運転したとしますと、償却がない場合、毎年固定資産税(取得価額の1.4%)を設備廃棄するまで、永遠に払い続けなければいけません。減価償却をした場合では、7年を経た後は、資産価値は1円で、固定資産税はかからないということになるのです。設備償却という考え方が企業の設備投資を促すには必須であることがご理解いただけたことと思います。
 このように、企業会計では、資産としての設備は、毎年資産価値が目減りしていくと考えて、その分を償却費として損益から引くのです。
 

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