医薬品製造設備の基本、計画、設計、建設プロジェクトを学ぶ【第8回・最終回】

8) 官庁検査(工程表ID 154~159)
8.1 安全点検
工事が一通り終了すると、運転に向けた準備が始まります。これからは、工事が終了して、組み立てが終了した設備に対して、安全や品質面で検証してゆくステージになりますから、不具合があった場合、工事のやり直しとなってしまいます。最初は、顧客による「安全点検」が実施されることがあります。主に、顧客の運転に携わる方々の目で見て、安全に運転できるかどうかが検証されます。1日から数日かけて、多くの方の視点で検査が実施されますので、あらかじめ必要な日数を工程に盛り込んでおく必要があります。また、指摘されて、手直しが必要となった場合、直ぐに対応できるような体制を組んでおくことも必要でしょう。また、こうした手直し工事の発生を極力防止することと、その費用の所掌を明らかにできるよう、あらかじめ設計検証や、工事検査の段階で顧客と確認しながら進めていくことが必要でしょう。

8.2 建築完了検査、8.3消防設備完成検査、8.4 消防完成検査 
これらの官庁検査を受けて、合格することにより、設備を使用できるようになります。
顧客が受検の主体です。コントラクタは支援する立場であり、顧客の要請に応じて検査に立ち会うこともあります。

8.3 工事完成引き渡し
官庁検査に合格し、それまでに現場試験や検査(*1)が終了して、検査記録が提出されることにより工事完成となり、設備一式を顧客に引き渡します(メカコン)(*2)。以降は、設備の管理が顧客に委ねられ、その後の作業は、顧客の管理下で継続されることになります。これより以前、建築工事が早期に終了し、完了検査が終了して建物が使用可能となった場合は、顧客要求により、部分的に顧客に引き渡しが行われることもあります。
(*1)ラインチェック、機器内面確認及び清掃、配管耐圧テスト、気密テスト、配管清掃、計器ループチェック、計器調整、電気絶縁テスト、回転機回転チェックなど(*2)工事完成引き渡し(メカコン)から、瑕疵担保責任の期間が始まります。ここで、コントラクタが顧客に対して負う責任は機械的性能保証です。保証の具体的内容については、個別のプロジェクト毎に決定されますが、一般的な内容については、「ENNA国内プラント建設契約モデルフォーム」を参照ください。ちなみに、筆者が経験した保証の内容は、「引き渡し後12カ月以内に、コントラクタの責任となる詳細設計及び工事上の欠陥に対して、補修又は取り換えを行う、また、コントラクタが調達した機材について完成引き渡し後12カ月、機材納入後18カ月を経過しない範囲において、品質、加工及び材質等の欠陥が発見された場合、欠陥の補修、又は取り換えを行う」というものでした。
 
9) 試運転準備(工程表ID 161~164) コミッショニング
顧客に設備を引き渡した後、試運転準備に入ります。ここでは、試運転準備の項目として、9.1フラッシング、9.2単機作動試験、用役設備の性能検査、9.3水運転、を挙げました。何を引き渡しの前に終了しておくかについては、顧客と事前に確認して工程表に表現しておくのがいいでしょう。また、用役設備の検査時には、使用方法や使用時の注意事項などの説明を求められることが多いので、あらかじめマニュアルで説明する準備をしておくか、メーカの担当者に建設現場に来訪してもらうような準備も必要です。
引き続いて行われる水運転は、バリデーションのOQデータを取ることとリンクしていますから、設備の不具合を解消した後で実施しなければ、改良工事の後では、IQ/OQのやり直しとなってしまいます。水運転の前に実施する配管内の水洗浄では、配管内にごみや異物がなくなるまで清掃しなければならないため、大変な手間がかかります。バリデーション・コーディネータと事前に作業工程を明確にしておく必要があります。この作業は、水とはいえ設備を扱うことになりことと、大変な作業量ですので、通常は顧客運転員の協力を得て実施されます。このプロジェクトでは、3週間を見ていますが、作業に動員できるコントラクタ側の要員及び顧客側の動員数により変動します。
 
10) バリデーション(工程表ID 166~172)
バリデーション・マスタープランの取りまとめが終了した後、適格性評価のプロトコルを作成しますが、詳細設計やメーカ図等の設計情報が十分に固まるのを待たなければ完成しません。IQが始まるまでに完成すればよいでしょう。IQでは、機器の製作工場での品質が、建設現場に据え付けられた後も同等な品質を有していることを、品番確認や、据え付け状況の確認を通して文書化されます。通常の据え付け検査記録も参照されます。
続く、OQでは、水運転によりプロセスの機械性能が確認されます。場合によっては、PQ段階では物理的に確認できないPQ確認項目を、OQで実施する場合もあります。コントラクタが主体となって行う適格性評価はOQまでで、PQ以降は顧客が主体となって実施します。この場合、コントラクタは支援を行います。適格性評価のこうした区切りから、引き渡しをOQ終了後とするケースが増えています。CSVは、工場での「システム検査」から始まっていて、建設現場では据え付け後、水運転時適格性評価(OQ)、実液運転時適格性評価(PQ)そして試製造へと進んできます。このように、適格性の確認段階では、設備のハードとソフトが不具合なく出来上がっていることが前提ですので、コミッショニングまでにこれらの心配をなくしておくことが、クヲリフィケーションを順調に進めるポイントです。
 
11) 試運転(工程表ID 174)PV
試運転からは、顧客により試製造がおこなわれ、3ロットの生産を通じて製品の品質と同時にプロセス性能の適格性が評価されます。
 
12) 完成図書(工程表ID 176)
コントラクタの仕事は、完成図書の納入で一応の終了を見ます。
通常、完成図書(AS-BULT drawing)は、工事中の変更箇所や不具合箇所の補修結果等を反映して作成されますが、既設の改造等の場合、新しく作成した図面の提出のみとする場合もあります。メーカの完成図書入手の手配も必要ですので、かなり(1か月程度)の時間が必要となります。膨大な図書を早く完成版にするためには、工事が終了した段階から、空いた時間を使用して準備を開始しておくといいでしょう。
 
13) 検収
プロジェクトの検収は、試運転又は試製造の結果、プロセス性能に問題がないことが確認されて実現します。長い道のりを経たプロジェクトで構築された製造設備から、プロジェクトの引き合い時点で意図された製品が出てくることは、感慨無量の出来事です。

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