医薬品開発における非臨床試験から一言【第48回】

2023/12/08 非臨床(GLP)

薬物相互作用に関するICH M12(2022年ステップ3)の作成に向けての欧米での議論をまとめます。

 

欧米での薬物相互作用評価


薬物相互作用に関するICH M12(2022年ステップ3)の作成に向けての欧米での議論をまとめます。米国での規制要件の発出は、FDA(アメリカ食品医薬品局:U.S. Food and Drug Administration)が主体となって、CDER(医薬品評価研究センター:Center for Drug Evaluation and Research)、CBER(生物学的製剤評価研究センター:Center for Biologics Evaluation and Research)などの機関も加わっています。

さらに創薬企業団体であるPhRMA(米国研究製薬工業協会:Pharmaceutical Research and Manufacturers of America)が、FDAガイダンスを形成する規制要件を支える基礎資料を積極的にサポートしています。PhRMAは日本でも活発に活動し、薬物相互作用(DDI:Drug-Drug Interactions)に関してFDAとの共同研究も盛んで、多くの論文が引用されています。

FDAからのDDIガイダンスは、2020年1月に最終化されました。”In Vitro Drug Interaction Studies — Cytochrome P450 Enzyme- and Transporter-Mediated Drug Interactions Guidance for Industry”(In vitro薬物相互作用試験-チトクロームP450酵素(CYP)及びトランスポーター(TP)を介した薬物相互作用)作成においては、日米欧の3極の中で議論が進めれ、2018年発の日本の薬物相互作用に関するガイドラインとも積極的にハーモナイズされています。

FDA-DDIガイダンス(2020)の緒言において
このガイダンスは、治験薬のDDIを判断するための試験を計画し評価するのに役立つことを目的としており、CYPとTPを介するDDIを評価するためのin vitro試験によるアプローチ、ならびに in vitro試験の結果が臨床DDI試験にどのように情報を提供できるかに焦点を当てています。

また、P-gp(P-糖タンパク質:P-glycoprotein)等のTPの誘導を評価するin vitro試験系は確立されていないため、TP誘導薬のin vitro試験法は割愛されている。ガイダンスの参考資料には、In vitro試験系を選択する場合の考え方、In vitro試験条件に関する課題、解析モデルに基づくDDI予測の戦略が含まれています。

医薬品のDDIを評価する為には、3つの情報が必要と考えられます。
 (1) 薬剤の主要排泄経路を特定する
 (2) 薬剤の体内動態に関する代謝酵素及びTPの寄与を推定する
 (3) 代謝酵素及びTPに対する作用の特徴を明らかにする

DDIをin vitro試験で実施し、薬物動態に影響する因子を同定します。そしてDDIが生じるメカニズムを解明するために薬物動態パラメータを取得して、次の試験に繋げていく。このように、in vitro試験の結果は、臨床薬物動態データと併せて、将来の臨床試験計画に適切な情報を提供します。

DDI評価には実験結果を用いたモデリングアプローチが重要となり、in vitro試験での評価を、臨床でのDDI予測に役立てることができます。解析法として、EinolfらのBasic modelが挙げられます。また、カットオフ値、メカニズムに基づく静的モデル(MS-PKモデル:mechanistic static model)、生理学的薬物速度論モデル(PB-PKモデル:physiologically-based pharmacokinetic model)等も推奨されています。

ガイダンスではDDIに関係する薬物代謝についても示されています。体内からの消失機構または薬物の生体内活性化(例えばプロドラッグ)として、肝臓、腎臓、腸管壁及び肺などで代謝を受けます。特に肝臓及び腸には多様な薬物代謝酵素が発現し生体内代謝を担っています。肝臓では、主に小胞体に局在するCYPファミリーにより代謝され、第II相代謝酵素のグルクロノシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼなどの非CYP酵素でも代謝を受けます。

In vitro代謝試験のタイミングは、ICH-M3(R2)を意識した記載となっています。臨床薬物動態試験の前にDDIに関するin vitro試験を行い、代謝酵素と治験薬のDDIの可能性を検討すべきです。治験薬を決定する探索試験として、ヒト肝試料を用いた阻害・誘導のin vitro試験は有用です。

代謝酵素の発現系を用いた試験及びヒトPKデータを解析し、その代謝酵素による薬剤の消失が25%以上の場合は、薬物のクリアランスに対して特定の代謝酵素の寄与が大きいと考えられます。そこで、この代謝酵素に対して、強力な指標阻害薬 and/or 誘導薬を用いた臨床DDI試験を実施すべきです。
 

 

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執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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