理系人材のための美術館のススメ【最終回】

最終回「散歩に絶対に必要なもの」


 美術館にあまり足を運ばない方向け、「理系業界に美術館のご利用をプッシュしてみよう」という本コラム。

長らく続けてきましたが今回が最終回です。
 このコラムでは、特に構えず深入りせず人の説明も面倒ならスキップし、ただただ美術館という場をのんびりと、普段使わない回路で楽しむために、いろいろな要素を噛み砕いてきました。
 理系脳で考えると、考えれば考えるほど意味が不明瞭になりかねない「現代美術」も「価値」も「オリジナル問題」も、また市場価格や世の中の潮流、情勢、評価、そんなものも丸めつつ、高尚さに背を向けて「好きなもの見て嫌いなものを飛ばして楽しんでください、なにせ気分転換だから」といういい加減なスタンスでした。

 それでもなお、最後にお伝えしたいことがある。いや、これは美術館散歩に限らず、特にこのコロナ禍を乗り越えた行楽シーズン、映画ファンの方も舞台好きの方も音楽ファンの方も、とにかく現地に赴く必要がある方等しく足をすくわれかねない注意事項ではあるのですが、特に散歩目的、そして東京近郊にお住まいの方々に対し切実に言いたい。散歩でとっても大事なこと。
 それは、ほどほどでいきましょう、ということです。
 

【ハマるというのはひとつの娯楽】
 生まれてこの方美術館に足を運んだことがない(そして未だ美術館散歩を実行したことがない)という方は普通にいても、映画館に行ったことがないという方は少ないのではないかと思うので、ちょっと映画を題材にこの「ほどほど」についてご説明。
 映画館に行くと、お目当て本編より先に予告編が流れますよね。心のオアシス「映画泥棒」は横に置き、あの予告編を観ていると「わ、これ面白そう」と思うことはままあるのではないかと思います。えー観たい、いつ、なにレイトだけなの?…みたいな感じで、スケジュールとにらめっことか。
 どんな興行であれ、一度来た方に次のご案内をするのは必須です。特に映画は、今だってスクリーンで観たい作品が溜まってるにも関わらず、「観損ねたアレをモーニング(またはレイト)でもっかいやってくれるんだって!」「4DX限定上映だって!」「デジタルリマスター版記念上映だって!」…と、短いタイミングでしか観られないあれこれを次々にぶっこんできます。マイナー映画に至っては、上映が5日間とかもありますね。
 上映期間・開始時間・上映館すべてが限定、という三重苦のため、映画館は衰退の一途をたどったわけですが、それゆえに「見逃したくない」とばかり必死になったりもします。うん、「一週間限定一日一回のリバイバル限定上映」のチケットを押さえるためにこの夏は焦ったばっかりです。
 これが一度なら、わりと楽しいのです。でも、途切れなく次から次にこの手の話がくるとどうでしょう。諦めるのはなんとなく悔しい。観たかったなーと言いたくない。でも仕事を定時にあがって必死にたどり着くと、次の予告編あたりで「ふわあこれ観たい」…と思ってしまう、このエンドレス。息をつく間がないとはまさにこのこと。
 この監督すごい、昔のやつも観たい、などと配信サービスで漁ってしまうような部分も含め「ハマる」というのは確実に楽しい娯楽です。でも、ずっと続けていられる行為ではありません。これを続けていられるのは二〇代も前半までです、だって仕事だって山ってものがあるでしょう、家族サービスだってあるでしょう。ゆえにもし、延々と楽しく続けていく趣味の範囲に落とし込むのであればどうしても必要になる、それこそが「ほどほど」なのです。
 そう、観たいとき、観られるとき、観られる範囲で鑑賞して、ちゃんと満足できるのがほどほどです。(※なおこの例は、映画ファンガチ勢の皆様の話ではなく「趣味映画というほどではないけど、映画館に行くのはやっぱり楽しいよね」くらいのケースを想定しています。私はガチ勢ではないですが未だに去年見損ねた「遊星からの物体Xリバイバル限定上映」を後悔していますけどねちくしょう…)。
 

 

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