いまさら人には聞けない!微生物のお話【第48回】

1.    抗生物質
抗生物質(antibiotics)は、「微生物が産生し、他の微生物の発育を阻害する物質」と定義されています。一般的には細菌類の生育を阻害する物質を意味しており、真菌やウイルスは対象としません。真菌に対する生育阻害剤は抗真菌剤、ウイルスに対するものは抗ウイルス剤と呼ばれます。「風邪に抗生物質は効かない」と言われますが、これは一般的な風邪の病原体はウイルスであるため、細菌にしか有効でない抗生物質では、風邪の治療は行えないということを意味しています。

世界初の抗生物質は、イギリスのアレクサンダー・フレミングが1928年にアオカビ(Penicillium notatum)から発見したペニシリンと言われています。この時フレミングはブドウ球菌(S.aureus)の研究をしており、その時にP.notatumにより汚染されたシャーレのカビが生えた場所の周囲だけにS.aureusが生育していなかったことが、ペニシリンという抗生物質の発見につながったといわれています。ペニシリンという名前は、お察しの通りアオカビの学名であるPenicilliumに由来しています。

ただしペニシリンは化学的に非常に不安定な物質で、精製や濃縮が難しかったため、フレミング自身は医薬品としてのペニシリン製造というところまで実現させることはできませんでした。それを成し遂げたのは、オックスフォード大学のフローリーとチェインでした。その後フレミングは、フローリー、チェインと共に1945年にノーベル生理学・医学賞を授与されました。

その後様々な抗生物質が発見され、感染症の治療に大きく貢献しています。現在多くの種類の抗生物質が発見され、医薬品として広く細菌感染症の治療に使われています。第一部でも紹介したように、1950年代から人間の平均寿命が劇的に伸びている要因の一つは、間違いなく抗生物質によるものでしょう。一方で抗生物質の多用により、多くの耐性菌が出現していることは、大きな問題になっています。

個々の抗生物質については、専門書に詳しい記述があります。またWebでも多くの情報が入手できますので、その解説は割愛します。ここでは抗生物質とはどんなものかということを理解していただければ十分です。

余談ですが、微生物試験において、細菌の生育は抑えて真菌だけを捕まえたいとき、培地にペニシリンやクロラムフェニコールなどの抗生物質を添加する場合があります。一般に細菌の生育は真菌より早いため、細菌と真菌の両方が存在する試料を培養すると、細菌が優先的に生育し、真菌の生育が阻害されてしまうことがあります。培地の組成やpHを真菌に合わせることで、ある程度細菌の生育を抑えることはできますが、細菌を完全に抑えることはできません。そこで培地に適当な抗生物質を添加することで、真菌だけが増殖するようにします。抗生物質にはそのような使い方もあります。

 

 

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