医薬品開発における非臨床試験から一言【第43回】

代謝物評価の課題と対策

代謝物に関するレギュラトリーサイエンスでは曝露と安全性評価が重要です。医薬品開発は基本的にグローバルな環境を対象として、その中で、民族差的要因を取り上げて研究を重ねる場面が多くあります。この要因の中で、最も大きく関係しているのは遺伝的な民族差になり、ここに代謝物の曝露と安全性評価が含まれます。

遺伝子素因には、遺伝子多型の中で特に遺伝子欠損による有効性の民族差を評価する場面があります。このような創薬課題の中で、代謝酵素の遺伝子多型による代謝物の差異は、「遺伝的な民族差」に直結しており、安全性に対して代謝物生成量の変化などが問題となります。そこで、初めてヒトへの投与(FIH;First in Human)に向け、民族差的要因が重要な課題となる非臨床薬物動態試験での代謝物評価の課題と対策について示します。

薬物代謝酵素を取り巻く課題を考えると、経口投与された薬物の場合では、吸収過程を経て、標的臓器(組織)に分布して有効性を示すと共に、肝臓を中心とした薬物代謝酵素で代謝を受けて体外に排泄されます。医薬品は、いわゆるADMEの経路にのります。この過程において、薬物代謝酵素は、遺伝的要因により、人種差、個人差、性差等が存在します。

ADME(アドメ)とは、生体に投与された薬物が、吸収されて体循環血液中に入り、生体内に分布し、肝臓などで代謝され、尿中などに排泄されて生体内から消失する過程を表します。吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)の頭文字をつないでADMEと表記します。医薬品の開発においてADME研究は重要な位置を占めています。

一方において、医薬品の薬物動態は、病態をはじめ併用薬、年齢および喫煙や飲食物等の環境要因により影響を受けます。これらの影響の程度は個人により異なります。さらに、他の医薬品等の化合物や、生理的な内因性物質により、酵素誘導や酵素阻害により酵素量の変動が起きて影響を受ける場合や、逆に影響を与えることも明らかとなっています。つまり、遺伝的要因と環境要因は複合的な影響として、ヒトでの代謝物の安全性評価を行う上で大きく関与します。

具体的な研究方法をみると、臨床(ヒト)の代謝物予測に向けた非臨床試験段階で、代謝物試験にはさまざまな手法が用いられています。最も汎用されているのは、プールしたヒト肝試料によるin vitro試験で、初代培養肝細胞を用いた試験と、ミクロゾーム画分を用いた試験があります。ヒト初代培養肝細胞を用いた代謝酵素の誘導試験も実用化されています。

次に、非臨床PK/TK試験より得られた生体試料、例えば肝臓を用いた検討があります。また、動物におけるIVIVC(In vitro-In vivo Correlation)では、in vitro薬物放出プロファイルに基づいて薬物のin vivo性能を予測することが可能です。次に、肝以外のヒト試料を用いたin vitro試験、ヒト代謝酵素発現系を用いたin vitroでの代謝試験などになります。

やや試験頻度が下がりますが、複数ロットのヒト試料を用いたin vitro試験から、臨床でみられる代謝物を推定できます。また、「キメラマウス」で有名になったヒト化動物(ヒト肝細胞を移植したマウス)を用いたin vivo試験も行われています。さらにin silicoによる代謝物生成と安全性の推定などもソフトが市販され、実用化されています。もちろん、化学構造的に代謝物がほとんど生成せずに未変化体として排泄される場合は検討しない事例もあります。

 

 

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