医薬原薬の製造【第27回】

NIRによる粉体分析
最近、NIR(近赤外線)による粉体や固体の分析が産業界でいろいろ応用されるようになってきています。NIRスペクトル解析にはどんな特徴があって、製薬業界でどんな応用がなされているのかについて述べてみたいと思います。

まずNIRの吸収の特徴について述べます。物質のNIR(近赤外線)の吸収は赤外線吸収の基準振動の2倍音、3倍音になります。基準振動ではないので、吸光係数は非常に小さくなります。通常のIRの3桁小さくなると言われています。つまりNIRはほとんど物質によって吸収されず透過してしまいます。IRスペクトルはサンプルをかなり希釈しないと測定することができません。溶液セルを使う場合もかなり希釈しますし、またKBrと混ぜてペレットを作成する場合もごく少量のサンプルしか使いません。入れすぎると吸収が強すぎて測定できないことになります。ところが、NIRの場合吸収が小さいのでサンプルが非常に厚い固体や粉体であっても吸収を測定することができます。固体や粉体を直接測定できるというのがNIR吸収スペクトルの大きな特徴になります。

一方NIR吸収は赤外の基準振動の倍音、3倍音で形成されますので、種々の吸収が重なって特性吸収を明らかにすることが難しくなっています。このため、定量を実施しようと思うと、検量線の作成が難しくなります。IR吸収の場合は、特定の吸収に注目することにより容易に検量線を引くことができますが、NIRの場合特定の吸収そのものが見つからないという状況になります。濃度の違うサンプルを測定して、濃度によって吸収が変化する領域を決めて検量線を作っていきます。この作業にはコンピューターが欠かせません。コンピューターによる多変量解析を行うことで多成分系の分離測定も可能になっています。(ケモメトリックス)検量線が複雑であることから、NIRスペクトルによる定量の精度は、IRやRaman等の分析に比べると落ちます。しかし、粉体を非破壊でインライン分析できるという特徴は、IRやRamanには見られないものです。

NIR吸収にはもう一つ別の特徴もあります。基準振動の倍音、3倍音で吸収が形成されるため、吸収波長が温度、分子間相互作用によって変化するのです。分子間相互作用の変化による吸収変化を使うと、錠剤の圧縮度の違いや、粉体の粒度の違いなど、IRやラマンなどのスペクトルでは検出できない物理量を検出することができます。一方、温度によって吸収波長が異なることが知られており、NIRの吸収を使って定量する場合これが一番厄介な問題となります。NIRの測定では温度を測定して補正することが必須となります。製剤製造工程などでは温度が制御されていることが多いので測定温度は問題になりません。しかし温度が制御されていない系では、常に温度補正が必要なことを意識せねばならないのが、IRやラマンスペクトルとの大きな違いになります。

さてこのような特徴を持ったNIRスペクトルは、産業界ではいろいろなところで応用されています。以下に紹介いたします。

リンゴ等のフルーツの糖度測定にNIR吸収が利用されています。フルーツにNIRを当て、透過光あるいは反射光で糖分のOH基の吸収を測定しています。OH基類を検出しますので、レモンに含まれるクエン酸にも反応し、レモンの糖度を測定すると、非常に高いというおかしな結果も得られます。酸味との分離はできていないようです。

血液中のO2飽和度を測定する機器(人差し指にハメて測定する)にも、NIR吸収が応用されています。血液中のO2濃度を測定するために、酸素と結合したヘモグロビンと結合していないヘモグロビンを665nm、880nmの波長の光吸収で測定しています。665nmは可視光領域で、酸素の結合していない還元ヘモグロビン吸収を示し、880nmの吸収は酸素結合ヘモグロビンの吸収を示しています。この二つの吸収の比を測定して血液飽和度を測定しているのです。人間の指を透過する近赤外線、赤色光で吸収を測定するのです。

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