ドマさんの徒然なるままに【第45話】続・不可思議な質問/困った人たち!?


第45話:続・不可思議な質問/困った人たち!?
本話は、第36話「不可思議な質問・Part 1」および第37話「不可思議な質問・Part 2」の続編に相当します。第36話と第37話については、治験薬関係に絞った質問・相談でしたので、本話では治験薬に限定せず、一般的なGMPやGDPでの質問・相談に拡大しての話です。
筆者の師匠にあたる古田土真一先生からの受け売りとはなりますが、業者さんによるセミナー、地方の行政・薬業団体による勉強会、個別企業のインハウスセミナー、さらに委託先監査時などからの質問や相談、さらには知人・友人からの個別の質問や相談の中にあった、「ちょっと待ってよ。それって変じゃない!?」と思えるものをピックアップし、先生に成り代わって紹介します。
ちなみに、「バッカじゃない!」と笑って済まされるかどうかは、あなた次第です。筆者としては、「笑っていられたら、いいですねー。」とだけ言っておきます。
● (医薬品への新規参入企業で多いのが)うちはハイレベルなGMPを求めている訳ではなく、法的違反にならなければ良いと思ってやっていますので、ご理解ください。
GMP省令に限らず、PIC/S GMPであれcGMPであれ、そこに記載されている事項は、基本的にはMinimum Requirementsです。こういう質問や相談なされる会社、すべての事項を満たしていないことが大半と言わざるを得ません。むしろ、率直に申し上げますが、不十分さや手抜きの言い訳(言い方を変えれば、詭弁です)として、「うちは法的コンプライアンスに問題はない。」と言いたいだけかと思います*1。
ただ、逆質問をしますが、取り扱っている製品の品質リスクを考えたことありますか? もし真剣に考えたのであれば、実際の品質保証の運用に際しては、GMP省令等の記載事項云々を準備しただけ(要は、業許可取得のために製造管理者を筆頭に体制やSOPを準備しただけ)では済まないんですよ。その点をどれだけ認識し、穴を埋めているかが知りたいんですよ。一歩間違うと、「うちは(実のところ)要件を満たしておりません。」と言っているようにも聞こえますので、ご注意のほど。
ちなみに、本件については、第42話「お宅にはこんな人いませんか?/責任者・管理者編」の「うちはMinimum Requirementでいいからと言う奴」としても取り上げましたが、臆面もなく言う輩が結構多いんです。マジ、困ったちゃんです。
● (包装資材メーカーや物流関係の監査で多いのが)うちは医薬品を直接製造している訳じゃないので、GMPやGDPではなくISOによる品質保証ですから、その点をご理解ください。
以前にも同様の内容に触れたと記憶しているが、この手の会社に対しては、必ず「では、ひとつお尋ねします。ISOの品質保証とGMP(GDP)の品質保証と何が違うのですか? お教えいただけますか?」と逆質問をすることにしています。正直、今まで一度として納得のいく回答を得たことがありません。
筆者の捉え方は、まずは「(医薬品に限らず)品質の保証とは何か?」があり、そのための標準システムとしてISOやGMP(GDP)があるというものです。さらに、取り扱っている製品の物性・特性を鑑みての個別の対応・運用に如何に繋げるか(応用するか)というものです。そのために、会社や製品とは無関係の共通の運用部分と会社や製品ごとの個別運用部分とがあると思っています。少なくとも、筆者として興味があり、知りたい点は。システムとしてのISOやGMP(GDP)ではなく、実運用としての実態です。もしサイエンスベース・リスクベースと謳う、少なくとも運用の基本姿勢とするのであれば、同じコトやモノは二つとない(格好つけて言うならば、唯一無二)という意識で取り扱って貰いたいと願います。
率直に言います。体裁としてのISOやGMP(GQP・GDP)はウンザリです。行政は承認権者・許可権者として、それで良いかもしれませんが、委託者としての客としては、それでは納得しかねるのです。誤解無きよう言っておきますが、無理な高望みを要求するものではありません。あくまで、品質保証を担う者として、その業務を全うするためには、自分自身が納得することが必要なのだと言いたいだけです。それこそが、本来求められる(委託者への)監査なんじゃないかと考えるのです*2。
● (個別質問で最も多いのが)▲▲まで行う必要はないと思うのですが、する必要はあるのでしょうか?
このタイプの質問、もろ多いです。フロアで手を上げての質問は、さすがに気が引ける(ちょっとはマズイかな?という気持ちがある)のか、セミナー終了後の名刺交換といった個別での質問として多い。
ハッキリ言います。自分でも「こんな質問して大丈夫かな?」と少しでも思うのであれば、ダメに決まってるんじゃないですか? そもそも、GMP要件としての「▲▲すべきである(すること)」といったフレーズ、特段の理由がある場合や別の手段が無いのであれば、それを行うことを前提として規定しているはずです。それらを無視して「不要ですよね!?」と同意を求められたって、こっちが困るんです。始末が悪いのは、何か事が生じた場合に、「●●先生が、セミナーで不要だと言っていました。」と、(前後の話や状況を無視し、自分に都合の良い部分だけを切り取って)筆者のせいにすることです*3。
この手の会社、GMPの考え方に問題ありです。また、すべてを0/100で、都合の良いほうを採用するとして捉えることです。元のGMP要件の真意を考えてから質問して貰えませんか? 「弊社では、▲▲の対応として、コレコレで対応してますが、これでOKか?」とか、「▲▲については、コレコレで代替できると思うのですが、いかがでしょうか?」といった質問をしてくれません?
● (本気で本音の質問と思われるが)■■記録の保管は不要だと思うのですが、廃棄してはマズイでしょうか?
前項関連となるが、顕著な具体例を挙げる。以下、質問者との実際のヤリトリをそのまま記します。回答者は筆者です。
質問者「■■記録は不要だと思うのですが、それまで保管しておく必要がありますか?」
回答者「おたく、自分で答えを言っていることに気づきませんか?」
質問者「???」
回答者「自分で不要と思っているんでしょ。不要とする理由があるんでしょ。だったら捨てたらいいんじゃないですか。大事なことは、保管してあるか廃棄したかという、結果としての行為ではなく、コレコレの理由でそれを保証できるとか、別の記録から分かるとか、の根拠であり実証です。当該医薬品の品質の保証がこうやって出来る!と第三者に言い切れるなら、不要と判断し廃棄したでいいじゃないですか。」
品質リスクマネジメントとしての評価無く、行為の手間だけで判断してしまっている悪い例かと思います。この手の安易な発想、記録付けや文書の保管に拘らず、日常の作業行為の中で意外と身近にあったりしますので、ご注意のほど。
● (GDPについて)輸送のSOPを作るのは誰ですか?
質問者としては講師をいじめてやろうと思って、反論を用意しての質問と窺えますが、意に反して異なる回答であったため、逆に反論のしようが無くなってしまったという例です。
ここで言うSOPは「医薬品の輸送業務そのものの手順書」のことです。しかも、製造販売業者からの質問です。この場での質問者の意図としては、製造販売業者としての輸送の管理をチェックするというものではなく、製造販売業者が輸送業者のSOPまで作成しなきゃならないと思い込んでの「そんなことまでやってられるか!」といったニュアンスでの質問でした。
「輸送業者が自分たちで使うんですから、自分たちで作成しなければならない。その手順でOKかどうかということでの依頼主である貴社としての確認は必須でしょう。必要に応じては、あるいは貴社として要求するのであれば、当該SOPについては貴社承認も必要とQuality Agreementを結んでは?」と回答しましたが、質問者にとってはその表情から意表を突く回答だったようです。
筆者がここで言いたかったことは、「SOP作成ひとつであっても本来の目的を考えて行動しろ! 品質の保証は誰かが行うとか、やってもらう(and/or やってあげる)ことではなく、それぞれの立場の者が自分の行動(業務)に対して責任を持って対応することにすぎない。」ということです。
でも、この質問者、ハッキリ言って申し訳ありませんが、本来のSOPの意味である「自らの作業を標準化し、手違いなく行うためのもの」という意味そのものを知らないか、勘違いして認識(SOPが物理的に手元にあるかどうかが大事)しているんじゃないかと言わざるを得ません。まさか、質問者の会社のSOP、外部コンサルタントか誰かに作成して貰って用意したなんてことは無いよねー*4。無いと信じたい。
● (筆者としても信じられなかった質問として)QP監査って、行政査察じゃないので断ることができると聞いていますが、可能ですか?
ここでのQP(Qualified Person)、EU・英国・スイスにおけるQPのことです。まずは結論から言います。これら輸入国にあっては、当該国内へのバッチリリースに際してはQPの証明が要件であり、そのための(EU)GMP遵守の確認とバッチレビューは必須です(日本は第三国にあたり、日本からの輸入販売製品・輸入治験薬は、取りも直さず第三国からの輸入となります)。監査、ここでは実地監査の意味ですが、実地監査が必要か否かは、QPが決めることであって、受ける側が決めることではありません(決められない)。
筆者の知る限り、初めての製造所や製品であれば、ほぼ確実に実地監査を実施するはず。理由は、誰だって、どういう場所で、どのように製造されているのかも分からずに保証など出来ないからです*5。QPは資格制度であり、もし万が一、出荷承認した製品の品質により自国で問題が生じれば、自分の資格喪失に繋がります。QPは輸入販売会社・輸入開発会社の社員とは限らず、QPという資格での“雇われQP”も多い。QPとしての信頼を失うだけでなく、一歩間違えば、職を失う。当局査察官のような権限はありませんが、自身の進退には影響します。
先の話に戻りますが、もし実地監査を拒否すれば、それこそ疑義を抱かれるんじゃないでしょうか? 来られたら困るだとか、見せたくないとか、何かあるんじゃないかと勘繰られても仕方ないと思いますよ。監査で指摘を受けるのは嫌なことではありますが、自分たちでは気づかなかった点を気づかせてくれるという、良いことだってありますからね。しかも経験ほど、良い指導も勉強も無いですからね。もっと前向きに捉えて、改善に向けていくことを強くお勧めします。
当該質問者の会社、推測で言うのも何ですが、どこかのコンサルタントに入れ知恵されていませんか? 私もコンサルタントの一人ではありますが、コンサルタントがすべてを知っている訳じゃないですし、言っていることが正しいとも限りませんよ。同業者としてセミナーのような場であれば、その場で指摘し修正していただきますが*6、そうでなければ信じてしまいますよねー。ただ先述のように、どんなコンサルタントを雇うのかもリスクマネジメントの1つですよ。一歩間違うと、逆効果っていうことだって在り得ますからね。なお、コンサルタントの評価・選定については、次話にも取り上げます。
どうでしたか? 筆者の体験した質問や相談の一部を紹介しましたが、笑えるのであれば、結構なことです。ただ、本当に笑っていられますか? ほんの少しでも思い当たる節があるのであれば、要注意ですよ。チコちゃんに叱られるレベルでは済まないように思います。もう一度自己点検や教育訓練など見直しても良いかもしれませんよ。次話では、さらに続編として、「セミナー講師なんてしていると、こんなこともあるんですよ!」といった話を紹介しましょう。
では、また。See you next time on the WEB.
【徒然後記】
パイナップル
前話の徒然後記でバナナの話を書いたので、今回は続編としてパイナップルについて書く。
パイナップル、正直に告白するが、素のままと言うか、リアル果物とし見たのはかなり大きくなってからである。幼少時代は、缶詰としてのパイナップルしか知らなかった。そのため、「なんで、ドーナツ型をしてるんだろー?」とズーッと思っていた。当時の筆者、果物は木に実るもので、その種はほぼ中心に集まっていると思っていた。植物学的に草だとは思っていなかったし、まして芯の部分をくり抜いたものだとは思っていなかった。缶詰のパイナップルしか知らない当時の筆者にとっては甚だ疑問でしかないフルーツであった。
そんなこともあり、最初に(と言っても既に社会人になっていたが)生のリアルパイナップルの皮を剥き、芯をくり抜くという行為は「どうしたらいいんだ?」という悩みでしかなかった。ちなみに、カットパイナップルが店頭に並んだのは、青果店がスーパーに置き換わったあたりからなんじゃないかと思う。
今の若い人たちからすれば、「こいつ、バカなんじゃね!?」といったところであろうが、そんな時代だったのである。半世紀以上前の話であるが、現在では当たり前すぎることが、50年も過ぎると、「えーっ、そんな時代があったんですねー!」と言われてしまう。読者の皆さんに忠告しておく。時間の過ぎるのは自分が感じているよりも早いものなのである。
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