いまさら人には聞けない!微生物のお話【第22回】

14. 放射線滅菌 vs. 湿熱滅菌/エチレンオキサイド滅菌
前項で放射線滅菌は吸収線量というただ一つのパラメータに依存し、その線量は測定可能で、さらに物質を透過するということを説明しました。しかし湿熱滅菌やエチレンオキサイド滅菌では、次のように状況が一変します。

① 微生物の死滅には複数のパラメータが関与する。
湿熱滅菌では温度、湿度(残留空気)、圧力、時間、さらにEO滅菌ではこれらに加えEO濃度もコントロールしなければならない。
② 主要なパラメータ以外に、残留空気、初期減圧、包装形態、積載状態、製品構造など種々のファクターが滅菌の有効性に影響を与える。
③ 湿熱滅菌では水(H2O)、EO滅菌ではEO(C2H4O)という物質が、滅菌器内に投入され、そこから製品のパッケージを透過し、製品に存在する微生物まで到達する必要がある。
④ それぞれの要素を管理するに際して、どうしても避けられない管理幅内でのばらつきが存在する。
⑤ 微生物の死滅に最も大きく影響する製品温度やEO濃度は、直接コントロールすることができない。


このように湿熱滅菌やEO滅菌では、工程管理が非常に複雑で、しかも避けられないばらつきが伴います。そのためこれらの滅菌条件の設定においては、多くの場合次のようなアプローチがとられます。

(1)    時間以外の工程パラメータを決定し、その上で時間を変動させて微生物(指標菌)の死滅動態を調べ、最終的な滅菌時間を決定するという方法、すなわち微生物の死滅を時間の関数としてとらえ、10-6 に到達する時間を決定する。

(2)    ある程度のばらつきが避けられないため、微生物の死滅が理論通りに進まないことが多い。そこで製品へのネガティブな影響が出ない場合には、オーバーキル法で滅菌条件を設定する。

オーバーキル(Overkill)という言葉は、元々は核兵器などによって地球上のすべての人々を殺滅してもなお兵器が余る状態(過剰殺滅)を意味します。非常に物騒な用語ですが、滅菌では、「10-6の無菌性保証レベルを保証するために、10-6を超える過剰な滅菌処理を行うこと」の意味で使われます。通常は、図13のように106個の指標菌が10-6になる条件、すなわち “12 log reduction” を意味しています。

では湿熱滅菌やEO滅菌で実際に滅菌条件を決める場合、どのような手順で進めるのでしょうか?

もちろん使用する滅菌装置の仕様によっても変わりますので、決して一律ではありませんが、図14に一般的に用いられている条件設定のフロー例を紹介します。なおISO11135(EO滅菌)、ISO17665-1(湿熱滅菌)にはそれぞれの要求事項と共に事例が紹介されています。

図14 湿熱/EO滅菌における滅菌条件決定フロー(例)

フローだけを見ると、特段難しい点はないようですが、実際の産業規模の滅菌装置が相手ですと、いろいろと戸惑うことが多いと思います。たとえば先に述べたように湿熱滅菌において微生物の死滅に最も大きく影響する工程パラメータは温度、EO濃度においては温度とEO濃度ですが、それらは直接コントロールすることができません。

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