医薬品品質保証こぼれ話【第49回】

2021/10/18 品質システム

今回は自己点検に関して様々な角度から考察を行う。

自己点検の実効性確保とその限界

承認書と製造実態の齟齬による回収や出荷調整が収まりを見せず、今後のさらなる医薬品の供給不安への影響が懸念される状況にありますが、こういった状況が続いている理由の一つとして、改めて行われている“自己点検”との関連が挙げられます。“承認書と製造実態の齟齬”(以下、「齟齬」)の確認については、化血研の違法製造事案を契機に当局の要請により大々的に実施され、その結果を当局に報告しそれぞれに適切な対応がとられたはずですが、その後も後発医薬品、漢方製剤など様々な領域においてこれを理由とする回収事案が相次ぎ、後発医薬品企業などを中心に改めて自己点検が進められているのが現状かと思います。

では、なぜ一度の自己点検で網羅的に問題点を洗い出し、当局に報告できなかったのでしょうか?その原因としては次のようなことが考えられます。①点検に漏れがあった。②解釈によっては“齟齬”に当たらないと判断し報告しなかった。③業務停止につながるような重大な事案と判断し報告から除外した。この3つのうち①の検出漏れは人間のやることなのであり得ることです。②については“齟齬”に当たるか当たらないかの解釈が企業により微妙に異なる場合もあり、これまでの点検の際に報告していなかった事項を今回の自己点検では報告対象としたことによる、といったことが考えられます。③は意図的な隠ぺいであり、悪質と判断され、後日、発覚すると罰則は重くなります。

この“齟齬”確認の対象は製造記録のみならず試験記録も対象であることは勿論ですが、これら医薬品製造の要となる記録類の作成に関しては、日常の業務を進める中でイレギュラーな問題が発生すれば、その時点で上司に相談するなどして適時に適正に対処し記録に反映させることが何より求められ、放置すればするほど後あと想像以上に重大な問題に発展し、場合によっては企業の存続すら危うくなるような事態を招くことになります。

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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