新技術最前線 新薬開発を目指す人へ【第6回】

NGSによる血清・血漿中のmiRNAバイオマーカーの探索について

はじめに
国立がん研究センターの統計データによると、2019年に国内でがんが原因で亡くなった人の数は約38万人1)に上ります。がんは日本の死因第1位であり、死因全体の約30%を占めています。がんの進行度はステージ0期からIV期まで5段階に分類され、発見が早期であれば生存率が高くなると期待できます。そのため、近年ではがんの早期発見を実現するために、各研究機関ががんのバイオマーカーの研究を進めています。特にmiRNAは、血液や尿などの体液中でも安定して存在しているので、がんのバイオマーカーとして注目を集めています。
本記事では、株式会社キアゲンより次世代シークエンサー(NGS)による血清・血漿由来のmiRNA解析について紹介をします。


1.    miRNAとは?
miRNAは全長22塩基程度の1本鎖RNAです。miRNAはまず、ゲノムから前駆体であるprimary miRNAとして転写されます。primary miRNAはヘアピン構造を持つ1,000塩基以上のRNAであり、Droshaと呼ばれる酵素によりヘアピン部分が切断されることで、中間体のprecursor miRNA が生成されます。さらに、precursor miRNAがDicerと呼ばれる酵素により切断されることでmature miRNAが生成されます。mature miRNAはRNA-induced silencing complex(RISC)に取り込まれた後、mRNAと結合をすることでmRNAを分解もしくは翻訳を阻害します。miRNAはExosomes & micro vesicles2)、3)、4)、Ago-2-miRNA Complexes5)、HDL mediated miRNA transport6)などの複合体を形成し、体液中でも安定して存在しています。
現在、miRbase7)に登録されたヒトのmiRNAは2,000種以上で、健常者とがん患者の間でmiRNAの発現プロファイルが変わることから、バイオマーカーとしての期待が高まっています。例えば、血清・血漿中のmiR-141は前立腺がんのバイオマーカーとして着目されています8)。また、国内でも株式会社PFDeNA9)のようにmiRNAの体液診断によりがんの早期発見を目指す企業が増えています。


2.    NGSによるmiRNAの探索
バイオマーカーになるmiRNAは、qPCRやマイクロアレイを用いた既存miRNAや発現プロファイルの解析による探索が主流でしたが、近年、NGSの発展により新規miRNAからの探索も同時に可能となりました。基本的にmiRNAのNGS用ライブラリーを構築する際は、mature miRNAが3’側にヒドロキシ基、5’側にリン酸基を持つという特徴を利用し、それらに特異的にアダプターをライゲーションさせます(図 1)。このようなライブラリー調製の原理により効率的にmiRNAの塩基配列解読が可能となり、NGSの利用が広がって来ています。

図1. QIAseq®︎miRNA Library Kitのワークフロー
QIAseq miRNA Library Kit, https://www.qiagen.com/jp/shop/new-products/qiaseq-mirna-ngs/, Accessed Jul 8, 2021

miRNAをバイオマーカーとして用いたがん診断では、リファレンスデータと比較して患者のmiRNA発現プロファイルがどのように変化しているか定量的に解析し診断を下すため、miRNAのバイオマーカーを探索する際もmiRNAの発現プロファイルが健常者とがん患者間でどの程度違うかを正確に求める必要があります。この課題は、NGS用ライブラリー構築時に分子バーコード(UMI)と呼ばれるランダムな塩基配列を付加する技術を利用すると、解決できます。弊社のQIAseq®︎ miRNA Library Kitは、12塩基のランダムな塩基配列のUMIを採用しています。また、UMIは逆転写時に付加し、PCRバイアスの影響を排除できるので、正確な定量に繋がっています(図 2)。

図2. UMIによる正確な定量解析(miRNAではなく、mRNAによる例になっています)
上の図はUMIを付加しないでライブラリーを構築した場合の図で、Sample 1のGene AとSample 2のGene Aの遺伝子発現比率は3:1であるが、ライブラリーを構築する際のPCRによりバイアスがかかってしまい、遺伝子発現比率が6:3と本来と違った結果になります。
下の図はUMIを付加してライブラリーを構築した場合の図で、上の図と同様に遺伝子発現比率は3:1となっています。PCRを行う前にUMIを付加することで、PCRバイアスが起こってもUMIをもとに遺伝子発現量を算出できるため、正確な定量が可能となります。


3.    NGSによる血清由来のmiRNA解析
血液や尿などの体液は、組織と比較して採取が簡単かつ患者への負担が小さいことから、がんの診断において今後の活用が期待されています。前述しましたが、miRNAは体液中で複合体を形成するので安定しており、がん診断における有効なバイオマーカーとなります。ただ、体液中のmiRNAは微量であり、それによってNGSによる解析に必要な体液量が多くなってしまい、臨床診断への応用は困難でした。弊社のQIAseq®︎ miRNA Library Kitでは、miRNAのライブラリー構築に特化したワークフローを採用しており、体液から調製した微量なmiRNAでも解析を可能としています。そして、実際にQIAseq®︎ miRNA Library Kitを用いた解析例においても、血清由来RNAから安定してmiRNAが検出され(図 3A)、良好なmiRNAへのマッピングが得られると確認されています(図 3B)。

 

 



図3. 血清由来RNAからの正確なmiRNAシークエンシング
Aはノーマライズされたリードで10本以上検出されたmiRNA数を示し、miRNAs in commonはSerum replicate 1 と2 で共通して検出されたmiRNAを示しています。BはmiRNAにマップされたリードとアダプターダイマーとして検出されたリード数を示しています。


4.    miRNAバイオマーカー探索の将来への期待
miRNAの解析は、発現プロファイルや新規miRNAの探索にとどまらず、遺伝子やタンパク質の相互作用を解析するパスウェイ解析や、mRNAとmiRNAの統合解析にも発展しています。このような解析はバイオマーカーのスクリーニングにとても有効となり、新規バイオマーカーの発見が期待できます。弊社では、オールインワンのウェブベースのソフトウェアアプリケーションであるQIAGEN Ingenuity Pathway Analysis (IPA)を有償で提供しており、遺伝子発現やmiRNA、SNPアレイデータなどが解析可能でメタボロミクスやプロテオミクス、トランスクリプトミクスのデータを解析、統合、理解することができます。さらに、弊社QIAseq製品ユーザーの皆様には、RNA-seqによるトランスクリプトミクスデータの一次解析、およびIPAデータベースを使用した解釈ツールを含むRNA-seq Analysis Portal(RAP)をクラウドベース上のGeneGlobe10)で無償にて提供しております。

 
図4. RNA-seq Analysis Portal(RAP)の解析イメージ
   RNA-seq Analysis Portal, https://geneglobe.qiagen.com/us/analyze/rnaseq-analysis-and-biomarker-discovery-portal?cmpid=__9676&elq_cid=4168772&elq_mid=9676&utm_source=&emhash=96ee0daff4ab38ce2cc7c7f5125e0028, Accessed Jul 8, 2021
近い将来、miRNAによるがん診断技術の向上により、がん疾患を少しでも早く発見できる世界が実現され、がんによりお亡くなりになる方が一人でも少なることを期待しています。


文献(Web サイトを含む)
1)    最新がん統計, https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html, Accessed Jul 8, 2021
2)    Valadi H., et al., Nat Cell Biol, 9(6), 654–659 (2007)
3)    Hunter M.P., et al., PLOS ONE, 3(11), e3694 (2008)
4)    Kosaka N., et al., J Biol Chem, 285(23), 17442–17452 (2010)
5)    Arroyo J.D., etal., Proc Natl Acad Sci USA, 108(12), 5003–5008 (2011)
6)    Vickers K.C., et al., Nat Cell Biol, 13(4), 423–433 (2011)
7)    Kozomara A., Griffiths-Jones S., Nucleic Acids Res, 42(10), D68–D73 (2014)
8)    Mitchell P.S., et al., Proc Natl Acad Sci USA, 105(30), 10513–10518 (2008)
9)    Faster cancer diagnoses using Artificial Intelligence, https://www.qiagen.com/jp/customer-stories/faster-cancer-diagnoses-using-artificial-intelligence?cmpid=CCOM_GEN_NGSR_ATLAS15_1020_SM_FacebookOrg, Accessed Jul 8, 2021
10)    Analyze, https://geneglobe.qiagen.com/jp/analyze, Accessed Jul 8, 2021
 

 


コーディネータープロフィール

 

小出 哲司
理科研株式会社 戦略営業本部 本部長

2002年に理研ベンチャー、株式会社インプランタイノベーションズ取締役を歴任。
2007年より理科研株式会社に入社。2013年より戦略営業部の部長に就任。新規事業開発及び、企業戦略を立案実行。2021年8月より取締役常務執行役員に就任し現職。顧客の企業価値を高めるための事業推進ドライバーの創出を一貫して推進している。
 

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URL:https://www.rikaken.co.jp/

 


著者プロフィール

中村 翔太
株式会社キアゲン 営業部ゲノミクス ゲノミクススペシャリスト

立命館大学を卒業後、バイオ系受託会社に勤務し、技術営業として製薬企業を中心に次世代シークエンサーのアプリケーション発展に従事。2020年12月から現職で、NGS製品の技術営業を担当。

 

伊知地 稔
株式会社キアゲン 営業部ゲノミクス ゲノミクススペシャリスト

東京大学 大学院農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻で博士(農学)を取得。7年間、東京大学 大気海洋研究所で特任研究員としてNGSによる海洋微生物の生態研究に従事。2019年4月から株式会社生物技研 解析部でNGSの分析や技術開発に従事しながら、首都大学東京(現、東京都立大学)や京都産業大学の客員研究員としても従事。2021年2月から現職で、NGS製品の技術営業を担当。

 

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株式会社キアゲン
設立年月:1997年11月
代表者  :ユストゥス・クラウゼ・ハーダー
所在地  :〒104-0054 東京都中央区勝どき3-13-1 Forefront Tower II
主な事業:生体試料からのDNA、RNA、タンパク質の抽出と解析に関連する研究用試薬、体外診断用医薬品および医療機器の製造販売

<お問い合わせ連絡先>
株式会社キアゲン
TEL: 03-6890-7300
E-mail:techservice-jp@qiagen.com
URL:https://www.qiagen.com/jp/

以上

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