医薬品製造事業関連の知財戦略【第5回】

13.医薬品開発における特徴
 第2回でもお話ししましたように、他産業に比べ、医薬品産業では非常に多くの研究開発費が必要である(第2回・図3を参照)反面、研究開発投資の成果ともいえる特許数は少なく(第2回・図4を参照)、1製品に関わる特許の数が極めて少数である(第2回・図5を参照)ことが特徴となっています。1特許にかかる戦略上のウエートが大きいともいえますので、知財戦略を立てる上でもこの点を十分意識しておく必要があります。
 
 医薬品業界では、全く新しい効力を有し、大きな市場を形成して莫大な利益を生む医薬品をブロックバスターと呼びます。1989年に上市された高脂血症治療薬メバロチンもブロックバスターの代表の1つです。非常に大きな売上高をあげた(図9を参照)ばかりでなく、スタチン類と呼ばれる一群の同効薬市場を形成することになった先駆けでもあります。このメバロチンの開発が着手されたのは、1971~3年頃とされています。途中、開発候補化合物の切り替えはありましたが、開発に着手してから製品として上市されるまでに実に15年以上を要したことになります。このことは、開発された製品が上市された時点における技術環境、社会環境、事業方針などが開発着手当時とは異なってきている可能性が高いことにつながっており、また、法的権利の存続期間には限界があることから(特許期間以外の期間もあり、後述します)、開発を決定した当初の知的財産権の活用可能性に大きな影響を及ぼすものと考えられます。
 
 開発に要する期間が長いことは、人体に適用する医薬という性格から、有効性、安全性などを担保するための試験や手続きを多々要することとも関連するものと思われます(第3回・図6を参照)。例えば、前臨床試験はGLPと呼ばれる基準に従って行うことが規定され、臨床試験はGCPによるなど、研究開発段階の各試験手順、設備、データの取り扱いなど、開発中の医薬品が関係する様々な事物について厳格な管理と規制の下で行われることが必要です。開発ばかりでなく、その後の申請手続きはもとより、製造における設備や品質の管理、販売における情報管理や公正性の担保、市販後の学術情報や安全性の管理など、あらゆる過程が規定されており、それに則って医薬品の事業化と事業遂行がなされています。このような状況は、競合品の参入の制限要因になっているともいえますが、開発競争あるいは市場競合において他の産業とは異なる環境を形成する要因ともなっており、知財戦略のあり方にも影響しています。
 
 開発の成功確率が低いことも開発に長期間を要する理由の1つと考えられます。新薬開発の成功確率は、約30,000分の1とされています(製薬協ガイド2011*を参照)。つまり、3万個の化学物質から1つの医薬品が生まれるということです。医薬品として成功(製品化)に至らなかったもの中には、長い開発過程を経過したにもかかわらず、様々な段階で開発を断念せざるをえなくなったものも多く含まれています。他の産業製品と直接比較することはできませんが、成功確率の低いことが、時間的にも、コスト的にも新薬開発を困難にする原因となっており、結果として、製品あたり(事業あたり)のリスク負担が大きいということができ、このことが医薬品産業の特徴の1つとなっています。

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