私が経験したあれやこれやの医薬品業界【第3回】


米国の特異な社会環境の一つが弁護士です。数からいっても弁護士資格を持つ人は130万人を超え、人口の100人に1人が弁護士という異常な社会です。訴訟費用は安く、成功報酬で弁護士が訴訟をけしかけるので、膨大な訴訟件数になります。医療訴訟も多く、米国の医師、医療機関はそのための保険(医療過誤賠償責任保険)に加入し、結構な保険料を払っています。その保険料も医療費に転嫁されているという特異な社会構造です。
大手製薬企業は多数の社内弁護士を抱える法務部を持っています。訴訟担当、知財担当、薬事担当、契約担当、会社法、独禁法、P/L法担当など、専門が細分化されており、それらを総括管理するGeneral Counselがいます。米国では訴訟を恐れていては、ビジネスはできないという感覚ですが、多大な費用が掛かかっています。 
米国第一三共は活動が小さいうちは外部の弁護士事務所を使っていましたが、自社開発、自社販販売体制構築の一環で社内に法務部を持つことを起案しました。外部の専門弁護士も使うのに、高い給料のGeneral Counselを雇う必要が本当にあるのか、と言う本社を説得するのに骨が折れましたが、直接、顧客との接点を持つ臨床開発、販売において、米国の法務環境を考えると、法的リスク管理を強化する必要がありました。採用面接には、大手製薬企業の企業弁護士、弁護士事務所の弁護士、多数の応募があり、採用面接をしながら米国の法務環境を学習しました。当時(1992年)、マクドナルドのコーヒーを零して火傷を負ったという老婦人の訴訟にマクドナルドが負けて数十万ドルの賠償金を払ったという有名な事件に対する見解を聞いたり、企業弁護士と法律事務所弁護士の考え方の違いなど、私にとって勉強になる採用面接でした。
弁護士事務所の弁護士は企業と契約して業務を行うので企業はクライアントですが、社内弁護士でも社内のある部署の案件を扱うとき、その部署をクライアントと呼びます。法務機能とは詰まるところ、リスクマネジメントですが、それぞれの案件に対しクライアントの要望に応じてリスク分析し、2つか3つの選択肢を示します。それぞれのメリット、デメリット(リスク)を分析し、法務担当としてはこの選択肢を推薦するが、意思決定はビジネス部門がすべきことである、という立場に徹しています。意思決定者は示されたリスクをとる、という認識で意思決定をします。その企業のビジネスに精通していれば、このメリット、デメリット(リスク)の分析が信頼できるので、多くの社内弁護士が活躍しています。

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