化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第5回】

毒と薬は紙一重???

 前回は「石けん、すばらしい!」というお話しでした。幾つか弱点もあるものの、(ちょっと大げさに言うと)石けんは人類の歴史の中で、その優れた泡立ちと洗浄力によって、われわれの生命を守り、人生に彩を加えてきたのです。

 これまでにご紹介してきた界面活性剤は、石けん、硫酸エステル型など、水となじみやすい親水基がマイナスの電荷を帯びた「アニオン界面活性剤」でした。世界中で使われている界面活性剤の多くはこのタイプです。一方、「マイナス」のキャラがあれば「プラス」のキャラも存在するのが世の常・・・。親水基がプラスの電荷を帯びた「カチオン界面活性剤」、アルキルトリメチルアンモニウムクロリド等のアンモニウム塩型の界面活性剤が古くから開発され、利用されてきました(図)。
 
 化粧品の専門家の間では、カチオン界面活性剤のイメージはちょっとグレーだったりします。実用化されている何百種類の界面活性剤の中では、カチオン界面活性剤は毒性が高く、刺激の原因となる場合があるからです。多量に摂取した時の急性毒性、皮膚に塗布した時の一次刺激、アレルギー反応の程度を示す感作性など、安全性関連の基本データを見ると、感作性こそ陰性であるものの、皮膚刺激については「Severe irritant」(深刻な刺激性)と評価されたり、ウサギを対象とした評価において眼刺激性が報告されている場合もあり、ちょっと無視することができない状況なのでした[1]。

 同じ界面活性剤でも、カチオン界面活性剤がこんなにも毒性が高いのはなぜでしょうか?実は、皮膚の表面はマイナスの電荷を帯びていることが報告されています[2]。この表面電位の存在は、昔から知られており、汗腺が電位を生成していると考えられていましたが、最近では、皮膚の表面の表皮におけるイオン濃度の勾配等の他の因子も関係していることが明らかにされています。ともあれ、プラスの電荷のカチオン界面活性剤が吸着し、皮膚の最表面の角層中の細胞間脂質の構造を乱すことで、水分の蒸散や有害物質から体を守るバリア機能を下げたり、たんぱく質を変性させているものと推察されます[3,4]。

 ところが、このプラスの電荷を帯びていることが、とんでもなくプラスに働く場合があるのです。そう、皮膚から毛髪に視線を移すと、カチオン界面活性剤のプラスの電荷はその状態を改善し、健やかなものとするためになくてはならないアイテムに変化するのでした。これまでの研究によって、皮膚と同じように毛髪の表面もマイナスの電荷を帯びていることが知られています。しかも、健やかな毛髪よりも傷んだ毛髪の方がマイナスの程度が大きいというのです!

 毛髪の表面はキューティクルと呼ばれる鱗状の鎧のような層で覆われています。その主成分はケラチンと呼ばれるタンパク質であることが知られているのですが、実はその最表面はさらに薄い18-メチルエイコサン酸(18-MEA)と呼ばれる脂質の膜で覆われているのでした[5]。この18-MEA、毛髪中で占める割合は0.1%未満と僅かなのですが、髪表面の摩擦を低減してまとまりや手触りを滑らかにしたり、ツヤを高める重要な働きをしているのです。しかし、この脂質膜は、紫外線やヘアカラー・ブリーチによって失われやすく、たやすく取れてしまい、そこがマイナスの電荷を帯びるようになる・・・。カチオン界面活性剤はそんな傷んだ場所にすかさず吸着、補修して滑らかにしてくれるのでした[6]。
 

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