最後は人の感性が品質を死守する

 日本で初めてホスピスを創られた柏木哲夫先生の講演を聞く機会がありました。お話の中で、感性の3要素について紹介されました。
感性の3要素
1)気付く
2)感動する(⇒興味を持って調べる)
3)実行する(⇒CAPAを実施する)
 それを伺い、なるほどと思いました。まさに品質においても同じなのです。
 “感動”を”興味“(を持って調べる)に、”実行“をCAPAに置き換えるとまさに品質問題にも通じる内容です。
 現役の時に、他社の失敗事例を過去問として事前に同じ問題がないか確認し、もしあれば対策をしました。逸脱やOOSがあればCAPAを実践し、同じミスを繰り返さないようにしてきました。承認書との齟齬が見つかると、先送りせずに齟齬の解消をしました。品質問題を地雷と位置付け、地雷を見つけたらリスク(製品回収など)を覚悟して処理をしました。地雷処理で製品回収になり人事が私を処分してもかまわないとの覚悟で行いました。後輩に品質問題を残さないためでもあります。他社の品質トラブルを見ていると、品質問題処理を先送りし、その結果後輩が品質の地雷を踏んでいることがあまりにも多いように思います。中にはそれが地雷になるとは知らずに、地雷を埋めている人もいるようにさえ思います。
 でもなかなか品質問題をゼロにすることはできませんでした。最後は人に尽きるように思います。前の会社の社長が子会社に寄贈された石碑に刻まれた言葉「人が創る品質」、まさに品質は人が創っているのです。会社が品質問題を起こすのは、品責(当時)の私の質が悪いからだとの気持ちで行っていました。もちろん、一人ではすべてをカバーすることはできません。石碑の言葉を社内の仲間に伝えていきました。退職後もセミナーや講演は「人が創る品質」で閉めています。「先ずは、あなたの質を、今の仕事を通して高めていただきたい」と伝えています。
 現役の時に人の感性に助けられたことがたくさんありました。それが大きな品質問題を防いだり、損失を最小限にしてくれました。
1)金属フィルター上に残る量がいつもより多い⇒メトセルにエトセル混入
2)パッキンに手が触れるとざらざらしている。⇒パッキンが破損し原薬に混入
3)滅菌チャートを見ると滅菌時間が足らない⇒部品交換が昇温プログラムに影響
 普段と違うことに気付いて調べたら処方にないエトセルがコンタミしていました。パッキンは本来ツルツルしている、おかしい。年間1,000億円の製品をグローバルで製品回収のリスクを防いでくれました。SOPには滅菌チャートを見ることにはなってなかったが、重要だと意識して見ていた。損失が拡大するところでした。全て文書で逸脱報告を出してくれました。口頭だけでない点が良かったのです。気付いて、逸脱報告を出す。ここまでがまさに気付きなのです。
 他社の失敗事例をあげます。
1)微生物試験が規格を越えたので殺菌して適合させた
  ⇒毒素で食中毒(会社分割・吸収合併)
2)HPLCチャートに未知ピークがあったが問題ないと処理した
  ⇒その未知ピークは睡眠導入剤のピーク(多くの健康被害発生/会社は存続困難)
3)ルールを守らないけど指導/処罰しなかった
  ⇒大きなルール違反を犯し船の火災(300億円以上の損失)
 適切な対応ができなかったのです。品質問題をゼロにはできません。いかに早く気付いて適切な対応をするかもとても重要になります。もちろん起きないための取り組みも重要です。
 先ずは気付かないとどうすることもできません。気付きのためには知識と経験(過去問対策)を深めることです。食中毒では、微生物が毒素を出すということを試験者や責任者が充分理解していなかった可能性があります。微生物は大量発生すると毒素を出すものがあります。殺菌すると菌は死にますが毒素は不活化されません。もし、その知識を持っていて、興味を持って菌の同定(毒素を出す菌かどうか)、毒素の定量(外注)をすればすぐに問題点はわかり、そのロットの廃棄だけで終わりました。当時医薬品も取り組んでいた株価も高い素晴らしい会社でしたが、今は名前もなくなっています。
 HPLCチャートの未知ピークにおかしいと興味を持って調べればすぐに睡眠導入剤のコンタミに辿り着きました。残念なことは気付いたけれど文書で報告していなかったことです。文書で出していれば誰か興味を持って調べたかもしれません。そうすればそのロットの廃棄だけで終わりました。
 ルール違反を見逃すと、もっと大きなルール違反を本人は犯します。また周りの人はそれを見ていて、「SOPは守らなくてよいものだ。出来れば守るもの」と理解してルール違反が頻発し、そしていつか大きな問題を起こします。ルール違反には注意/処罰など適切な対応が必須です。ルールの重要性を理解してもらうためには『泣いて馬謖を斬る』ことが必要なのです。

 『右脳思考 ロジカルシンキングの限界を超える観・感・勘のススメ』内田和成著に
・観察、感じる、勘、この3つがカギを握る
1)観察する
  ものを見たり、聞いたり、読んだりすることである。 
2)感じ取る
  五感を働かせてさまざまなものを感じ取ることを言う。 
3)勘を働かせる
  見たり・聞いたり、あるいは感じたことが自分の会社、ビジネス、業界、社会にどんなインパクトが
  あるのか、想像力たくましく思い浮かべてもらうことだ。

 内田和成氏はボストン・コンサルティンググループ(BCG)の日本代表を務めた後、早稲田大学の教授に転出され、2022年3月に定年退職されました。この本では、右脳と左脳の両方を生かすことの重要性を説かれています。気付くとはまさに右脳です。あれおかしいなと五感で感じることです。
 5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)がよく言われます。躾を重要だとする新5Sもあります。筆者は“躾”の代わりに“精神”のSpiritual 5Sを提案しています。躾はSOPに従うことです。そうではなく、自らSOPを守りたいと思う精神/自らの考え方が大切になります。それについても、内田和成氏は述べています。

「人を動かすのはこの4つの要素
1)論理性
  聞いている者が、なるほど正しい、あるいは間違いないと思うこと。 
2)ストーリー
  単に論理的な整合性があるだけでなく、全体がひとつのストーリーになっていること。
  わかりやすさと考えてもらってもよい。
  聞いた人間が理解するだけでなく、それを他人に語れるようであれば最高である。
3)ワクワク・ドキドキ
  加えて、楽しそうだからやってみたいとか、よくわからないけれど面白そうという印象を与えられれば
  なおよし。
4)自信・安心を与える
  いままでと異なることをやるのであれば、それは難しい話ではないとか、御社あるいは自社にもできると
  思わせる。あるいは、仮に失敗したところで、取り返しがつくとか、たいしたことがないと思わせる。」

 納得して自らがやりたいと思うかです。自分のミスを逸脱として報告して処罰される。それでは安心して報告できません。意図しないミスは絶対処罰対象にしないことです。その品質文化が品質保証のベースになります。その風土に人の感性が機能し、人が不正をしなくなります。
 

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