医薬品工場フォーラム2020 パネルディスカッションを終えて


■はじめに
With コロナ時代の医薬品工場の今を考える

 2020年10月23日に医薬品工場フォーラム2020が開催された。本会は、環境変化に対応した強い医薬品工場を目指し、工場マネジメントを中心に幅広い討論を重ねてきたフォーラムで今回が3回目の開催となる。本来であれば、「第3回医薬品工場フォーラム」として参加者が一堂に会して討論を重ねる予定であったが、COVID-19の影響からパネルディスカッション形式のWebライブ配信という新たな形での開催となった。且つ、テーマについても「Withコロナ時代の医薬品工場の今を考える」とし、医薬品企業のみならず、社会全体が抱える共通課題に対し、有意義な情報交流が図られる場とした。

■テーマの背景とプログラム
 COVID-19は、経済への影響のみならず、生活スタイルや働き方に対しても大きな変化をもたらした。医薬品工場においても、安定供給という社会的使命を果たすために、様々な感染対策を施しながら操業を継続している。治療薬やワクチンの開発が進んでいるものの、終息までは相当の期間が必要で、パンデミック対策が各社・各工場共通の課題となっていると言える。
 このような環境下を踏まえ、今回の医薬品工場フォーラムは、新型コロナウイルスというパンデミックに対してどのようにリスク対応し事業継続していくか、第一線で活躍するトップマネジャーの皆様から各社の実情を提供していただきながら討議を行い、今後の工場マネジメントの一助とする機会とした。
 

プログラム
◇テーマ:Withコロナ時代の医薬品工場の今を考える。
     ~医薬品の供給責任を果たすための新型コロナウイルス感染対策を考える~
◇日 程:2020年10月23日(金)
◇場 所:Webライブ配信
◇パネリスト(五十音順)
・中外製薬工業株式会社 浮間工場
 浮間工場長 上野 誠二 氏
・シミックCMO西根株式会社
 代表取締役社長 片野 元義 氏
・シオノギファーマ株式会社
 代表取締役社長 久米 龍一 氏
・第一三共バイオテック株式会社 
 取締役 北本工場長 長井 正昭 氏
・アステラスファーマテック株式会社
 代表取締役社長 中手 利臣 氏
◇モデレーター
・サノフィ株式会社
 川越工場長 黒米 正憲 氏
 

 

パネルディスカッション1
  
<新型コロナ感染対策の現在の状況紹介>

 繰り返しになるが、医薬品産業は生命に密接に関連した産業で、コロナ禍であっても医薬品の安定供給を継続することが最大の使命であり、各社・各工場とも様々な対策を行い、その役割を果たしてきている。パネルディスカッション1では、各パネリストから自社における感染対策について報告が行われた。

表1 各社が実施している主な新型コロナ対策

 従業員の感染対策 業務中、通勤中のマスク着用の徹底及び通勤用マスクの配布
車両通勤の許可や時差通勤など、通勤の柔軟化
在宅勤務の奨励
出勤前の検温や家族を含む体調報告など、健康チェックの強化
出張や社内イベント、懇親会の自粛など、行動の制限
居室分散、パーテーション設置、時差昼食など、
工場内の三密回避
Web会議の利用促進や定例会議の中止など、会議制限
来場者に対する検温や体調及び行動確認
 操業継続のための施策 原材料やディスポーザブル資材の確保
(前倒し購入・代替品の検討)
サイト間での消耗品・備品類の融通
製品在庫の確保
(優先順位付けやリスク評価による備蓄生産)
感染者発生時の対応プロトコール作成
製造スキル人材の配備と製造代替チームの設置
ウイルス汚染リスクの評価
(品質保証整備)
リモート監査やWebによる技術移転の実施

 


パネルディスカッション2
  <Withコロナ時代の医薬品工場の対応の考え方>

 パネル2では、パネル1で紹介のあった感染対策に加え、今、医薬品工場に必要な対応をテーマに討議が行われた。
 まず、パネリストが共通して挙げた内容が「サプライチェーンの担保」であり、今後、在庫の持ち方や原材料のセカンドソース・代替品の検討など、生産管理の考え方を変えていく必要があるとの意見があった。その中でも原料においては、出発原料や中間体の製造を含め海外(特に中国・インド)への依存度が高く、原料に応じた調査・対策が必要となる。国策としてもサプライチェーン改革が進められており、製造業の国内回帰や調達経路の分散が加速すると思われる。また、生産用フィルターのようなシングルユースの消耗品やマスクのようなディスポーザブル資材においても同様の対策が必須となる。これらの改革とあわせて、フレキシブルな変更が可能となるよう、行政と連携し現在のレギュレーションをサイエンティフィックな手法で見直していく必要があるとの意見も挙がった。
 次に、感染者発生時の品質保証についてパネリストの意見を求めたところ、医薬品の製造ではハード、ソフト両面において厳密な衛生管理が取られており、実際に感染者が発生した場合であっても製品に汚染することはないとの考え方が大半であった。ウイルス特性などサイエンティフィックにみてもナーバスになる必要はないが、厳密な衛生管理水準を証明する意味でもマスクや手袋のフィッティングテストなど、細部での改善は進められている。


パネルディスカッション3
  <Afterコロナ時代の医薬品工場の姿>

 最後のパネルは、今後も新型コロナウイルスの感染が継続すると予測されるなか、ここまでの紹介や討議を踏まえ、今後の医薬品工場のあるべき姿を焦点にした。
 「品質保証」という観点では、パネル2でも挙がったように製造所や製造方法に関する承認プロセスの見直し・簡素化が必要ということが確認された。この課題は、国との連携のうえ業界全体で対応すべき課題といえる。「生産性」という側面では、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI、ロボット化というキーワードが挙がった。今回のパンデミックをきっかけに生産性向上策が加速すると予想され、連続生産やRTRT(リアルタイムリリース試験)や未来戦略としての無人化という意見も挙がった。人財という点では、「コミュニケーション」の重要性について議論が行われ、コロナ禍における様々な制限・自粛により、従業員のストレス・モチベーション低下が懸念されている。新たなコミュニケーションツールや福利厚生の在り方など、人財に対するケアもあるべき姿を見つけていく必要があるとの意見があった。
 最後に、パネリストの皆様からAfterコロナについてコメントをいただいた。
 

 

(中手氏)
 今回定めたルールを継続、リバイスしながら、在庫を含めた
 生産管理の見直しを進めていく。
 今後、ウイルスの危険度を注視しながら、どう対応すべきか
 社内で検討を継続していく。

 
 


 

(長井氏)
 COVID‐19をワクチンで完全に抑え込むのは難しい。
 今後、感染経路が明らかになり、ワクチン・診断薬・治療薬の
 開発が進めば、どこかでこのウイルスを受入れる時期が来る。
 今はそういった時期を見据えながら対策を進め、
 経済活動との両立を図っていく必要がある。

 
 


 

(久米氏)
 充分な感染対策をしても新型コロナに感染することはあるが、
 感染した人が悪いのではなく、
 大切なのはその後に拡散させないこと。
 こういった正しい考えを製薬会社が率先して
 実行していく必要があり、自社でも推進していく。

 


 

(片野氏)
 コロナ禍が続くなかで、今まで持っていた技術や
 新たな技術の発展が加速していく。
 今回のフォーラムを通じ、各社同じ課題を抱えていること
 が実感でき、大変有意義な機会であった。
  

 


 

(上野氏)
 コロナ禍が続くなか、情報や技術が外部と断絶すると
 成長の妨げになる。Webによるコミュニケーションは
 発達したものの、新たな気付きやイノベーティブな発想
 はFace to Faceで生まれる。そういった観点では
 フォーラムや学会は重要であり、医薬品工場フォーラム
 についてもさらに広げていって欲しい。

 


 


最後に
今回のフォーラムは、新型コロナ対策という共通テーマで且つ感染対策の観点からWeb配信という新たなスタイルでの開催となった。参加者は100名を超え、各社共通の悩みを共有し解決していく場として、大変有意義なフォーラムであったと感じる。
次回は、新型コロナの状況次第ではあるが、2021年4月若しくは5月を予定している。このタイミングでの開催が難しいようであれば、オリンピック開催後の秋ごろに従来通りのフォーラムを開催したい。今回議論を尽くせなかったパンデミック対策についても継続してテーマに取り上げ議論したく、次回は、是非皆様とFace to Faceで討議できることを強く望む。

 

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