オーナーのプロジェクトマネジメント【第4回】

 第3回に引き続き、プロジェクトの全般的な話について、さらに進めていく。
 

7. プロジェクトで使用することば
 オーナーのプロジェクトマネジメントに限るものではなく、どのプロジェクトでも言えることだが、プロジェクトに関わるメンバー(オーナー側、コントラクター、サブコントラクター、ベンダー、サプライヤー等)は、共通のことばを使用する必要がある。ことばといっても、日本語とか英語といった言語を意味しているのではない。用語のニュアンスに近いが、例えば*****書とか*****図といっても、その言葉からイメージする内容は千差万別である。あるいは、****設計とか*****工事といっても、やはり微妙な違いがある。どれが、正しいといった問題ではないが、そこに違いがあれば正確にコミュニケーションをできない。
 具体例としては、エンジニアリング会社系とゼネコンのエンジニアリング部門では、ことばが微妙に異なる。一般的に、プラントや建物の基礎は、エンジニアリング会社系では土木工事の範囲に入れているが、ゼネコンのエンジニアリング部門では建築工事の範囲に入れている。

 また、例えば基本設計とはどこまでの範囲をいうのか。以前、ISPE日本本部のEM COP(第1回の注参照)で、各社(製薬会社、エンジニアリング会社、ゼネコン、その他)における基本設計を含めた設計ステージの範囲を調査した。その結果の大多数をまとめたのが、第1回の第2項に記載した表1である。ところが、A製薬会社においては、基本設計とは自社で行った設計の範囲であり、外部にて設計した範囲を詳細設計と定義している。とすると、A製薬会社の設計能力、設計陣容により、基本設計(A製薬会社における定義の)のレベルや範囲が、その都度異なる可能性がある。ここで、何が問題かとなると、基本設計(A製薬会社における定義の)まではA製薬会社の所掌とし、詳細設計からコントラクター所掌として見積もられ、設計の体制がとられる。しかし、基本設計ということばがコントラクター側の常識とは異なるため、結果としてA製薬会社の自社設計の範囲が、いわゆる基本設計のレベルにまで至らないことになる。そこで、A製薬会社における定義の基本設計のレベルから、いわゆる基本設計のレベルにまで、ブラッシュアップする業務が宙に浮いていることになる。A製薬会社と常に取引をしているコントラクターなら、その状況を理解しているだろうが、仮に競争見積の中に初めての取引先が含まれている場合は、大きな問題となるのは明らかである。
 通常のプロジェクト関係者は、P&IDをPiping & Instrumentation Diagramと理解しているのが殆どであるが、P&IDをProcess & Instrumentation Diagramだと記載した書物を見たことがある。後者のことばは、建設プロジェクトのメンバーにとっては違和感がある。このように、特殊なケースで使用する場合は特に定義しておく必要がある。ただ、世間の情報を知らない人にとって、これが特殊なケースであるかどうかがわからないことが多く、それがまた問題である。プロジェクトを関係するような方々は、業界で使われていることばをよく理解していることが重要である。

 これは、ほんの一例で、プロジェクトで使用することばというのは、何らかの定義や説明で補足しておかなければ、共通した認識は得られないのである。また、世間一般の認識がどうであるかということも、よく熟知しておかなければならない。そういう点では、ISPE日本本部のEM COPで開催しているセミナーの資料に記載のことばは、比較的多数の会社で使用されている共通的な言葉と考えられるので、参考となる。また、会社固有のことばを使用しないで、できるだけ共通に認識されたことばを使用するように努力する必要がある。
 話はプロジェクトマネジメントとは無関係であるが、音楽の楽譜というのは、定義が明確であり、また世界共通語であるため翻訳も不要であるという、かなり素晴らしいことばである。ただ、この素晴らしいことばでも、微妙な感性等は楽譜だけで表現できるわけではない。

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