医薬原薬の製造【第13回】

塩酸塩化の問題

まず、塩を形成する意味について説明します。医薬活性成分はほとんどの場合、アミン成分を含んでおります。アミンのローンペアが、生体のタンパクに配位して活性が生み出されるからです。このアミン部分ですが、遊離のままですと、空気中の酸素で酸化されてNオキシドを生成したり、このNオキシドがさらに分解していくことがあります。これを防ぐために通常アミン部分は塩酸等の酸で塩を形成させます。塩を形成させる理由のもう一つが、水への溶解性です。塩にしますと、水に対する溶解性が高くなります。経口薬を吸収させるためには、水に溶解させることと、腸管から吸収させることが必要です。水に溶解させるには、塩を形成して極性を上げることが必要ですし、また腸管から速やかに吸収させるためには、適度な脂溶性が必要になります。ということで、比較的脂溶性の高い活性成分を塩酸等の酸で塩として、水溶性と脂溶性のバランスを図っているのが、原薬です。

塩を形成する酸成分としては、塩酸が最もポピュラーです。メシル酸(メタンスルホン酸)、フマル酸、リン酸などが用いられることもあります。もっとも一般的に用いられる塩酸塩の場合について、塩形成の注意点について以下に述べます。塩酸塩の形成は、遊離の活性成分をアルコール系の溶媒に溶かしておいて、少量の12N濃塩酸を加えてpHを調整してから、アルコール系溶媒で結晶化するのが一般的です。この際問題になるのが、濃塩酸の水です。再結晶を実施することにこの水は問題ないのですが、再結晶溶媒を回収して再利用する場合、回収アルコール溶媒に水が含まれることになります。アルコールは、一般的な蒸留で水と分離するのが困難です。後述する特殊な装置が必要です。これを避けるために、ガス状の塩酸を吹き込む塩酸化の方法もあります。これができる設備を売りにしている原薬製造メーカーもあります。アルコールの純度が下がる問題を避けるために使われるのは、アルコール系と水の共沸混合物で再結晶することです。回収アルコールは徐々に水分が増えてきますが、純粋なアルコールを加えることで、アルコール純度を調整することができます。またアルコール系の溶媒を、高分子膜を通して蒸留精製するパーヴェーパレーション法が最近開発され、容易にアルコール系溶媒の脱水が可能となっています。この技術はバイオエタノールの精製法として利用が進んできています。

塩酸塩化での問題に、アルキル化の問題があります。塩酸は、アルコールと反応して、アルキルクロライドを生成します。このアルキルクロライドが、アミン成分と反応して、4級アミン塩を生じることがあります。特に塩酸塩化にアルコールに溶解した塩酸を用いる場合は、かなりの量のアルキルクロリドが生成していることを念頭に置いておく必要があります。筆者は、塩酸塩化ではありませんが、塩酸加水分解の工程で、MeOH/HClを使用したところ、系に含まれているMeClによってアミン部分がメチル化されて4級塩を生成した経験があります。アルキルクロリドによる4級化は、ピリジン類の芳香族窒素でも置きますので、注意をしておく必要があります。


 


結晶化溶媒の選択

経口剤用原薬は、塩酸塩化の項で述べたように、アミンの塩酸塩として提供される例が多いです。水に溶けないと経口吸収されないからです。一方塩酸塩としますと、極性が上がりますので、抽出工程で述べたLogPが高い溶媒は選択できなくなることが多いです。多くの場合、LogPが0以下の溶媒が選択されます。理由は、塩酸塩はLogPが0以上の溶媒(水と混ざらない溶媒)には溶けないからです。多くの場合、アルコール系が選択されます。中でもエタノールは最も好まれる溶媒です。経口剤の場合、原薬の残留溶媒は、人体に入りますので、できるだけ毒性の低い結晶化溶媒が好まれます。エタノールは、お酒類として我々が日常飲用しているもので、毒性が最も低いアルコールだからです。

原薬中の残留溶媒のガイドラインはICHのQ3Cに定められています。詳細はQ3Cのガイドライン(日本語訳もネットで提供されています)をご覧ください。このガイドラインは、溶媒の毒性を基準にして、毒性の強いものから、クラス1、クラス2、クラス3に分けています。アルコール系の溶媒はメタノールがクラス2ですが、エタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ペンタノールなどの汎用のアルコール系溶媒はほとんどクラス3に分類されています。Q3Cではクラス3の溶媒は、5000ppmまでは、妥当性についての理由を示さなくても良いとされています。

参考『ICH-Q3 不純物』:PMDA Webサイト
http://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0043.html

製造者として、結晶化溶媒がQ3Cのどのクラスに属しているかは常に意識している必要があります。そうしないと、原薬中の残留溶媒の規格を決定することができません。実績で残留溶媒の規格を決めたはいいが、Q3Cで示されている基準よりこの規格が上だったということは許されません。

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