治験用医薬品原薬の製造【第5回】-治験薬のバリデーション-

2015/02/23 品質システム

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治験薬のバリデーション
 1987年、「予め設定した規格や品質特性に適合した製品を、恒常的に生産できることを高度に保証する証拠を確立すること」という定義とともに、プロセスバリデーションの概念が、FDAによって、医薬品の品質保証の手段として導入された。
 以来、前臨床・臨床を通じて蓄積したプロセスに関する知識の集大成として、商業生産の前にプロセスバリデーションを実施するというプロセス開発の構図が定着した。しかし、一旦、プロセスバリデーションが成立すると、変更管理の煩わしさから、企業は製造プロセスの改善に消極的になり、バリデートされたはずの製造プロセスに逸脱や異常が発生し、市場からのクレームもなくならないことを反省し、人間が作るプロセスに完全はないという前提に立って、より良い品質保証手段を導入するために、2011年に、FDAは、新たたなプロセスバリデーションのガイダンス(Guidance for Industry : Process Validation General Principles and Practices)を提案した。
 新たな定義は「プロセスの設計ステージから実生産を通じて、そのプロセスにより一貫して目的とする品質の製品を造り出すことができることを示す科学的根拠となるデータを取集し評価すること」であり、プロセスバリデーションは一過的なものではなく、製品のライフサイクルを通じて、プロセスを改善するために継続的に実施すべき活動と位置付けているのが特徴である。

 一般的に、バリデーションの手法は、二つのパートに分けて考えることができる。すなわち、バリデーションの対象となるプロセスやシステムを構成する個々の要素の適格性を予め評価確認する段階(Stage 1)と、実際にそのプロセスやシステムを実施あるいは稼動し、期待される結果が得られたことを評価確認する段階(Stage 2)であるが、新しい定義には、これらに商業生産時の検証(Stage 3)が加わったことになる。
 商業生産に入る前の、Stage 2では、連続3回の検証によりプロセスの恒常性を証明する必要があるとされているが、治験薬の場合は、Stage 1であり、恒常性の証明は必須ではなく当該ロットの品質及びその再現性が保証出来ればよい。すなわち、Stage 1では、プロセスを構成する個々の要素の適格性を予め充分に評価確認し、再現性を考慮してプロトコルを作成し、プロトコルにしたがって検証を実施し、予め定めた品質の製品ができたことが確認できれば、連続3ロットの検証が完了していなくとも、そのロットを治験薬として用いても問題はない。すなわち、プロセスの恒常性は保証できないけれども、当該ロットの品質と再現性はこれによって充分に保証できる。

 プロセスバリデーション(正確には、Stage 2)の成否はこの事前の検証の精度にかかっていると言ってもよい。具体的に、プロセスの個々の構成要素を事前に検証するとは、以下に示すことを確実に行うことである。
 

原料  :受入規格が適切であることを科学的根拠に基づいて証明すること
設備  :DQ,IQ,OQが実施されていること
作業者 :製造方法について充分に教育訓練すること
製法  :工程管理パラメータの管理幅を科学的根拠に基づいて証明すること
 

 これら事前の評価確認(クオリフィケーション)、すなわち、Stage 1の完成度が高いほど、より精度の高いプロトコル(実施計画書)が作成でき、異常や逸脱が少なくなるため品質保証レベルは高くなる。

 原料や製法の事前の検証は、開発研究やスケールアップ研究等のいわゆる工業化検討の結果に基づいてなされることになるが、これらの検討結果は、開発レポートとして要領よくまとめておくべきである。将来の製法改良や異常処理のための貴重な資料となる。
 恒常性を保証するためには、通常連続3回の事後検証が必要とされ、この部分だけがプロセスバリデーションであると勘違いされることが多いが、プロセスバリデーションの心臓部は前半のプロセスやシステムを構成する要素の適格性を評価する事前検証の段階、すなわち、Stage 1、にあることを忘れてはならない。
 恒常性を保証するために「Stage 2」を実施することの意義は、日常生産における工程管理を簡略化することにもある。すなわち、一旦プロセスがバリデートされれば、日常的な工程管理として重要なパラメータだけをモニターすることにより確実に品質を保証することができる。効率的な工程管理のためには、「Stage 2」によりプロセスの適格性を保証することが必須の要件であるが、治験薬や極端に製造ロットの少ない医薬品の場合は、非効率的な工程管理であっても問題はなく、むしろできるだけ広範なパラメータをモニターする方が好ましい。

 製品や工程の開発から得られた情報や経験、すなわちStage 1のプロセス設計が、本稿で述べるプロセスの三要素のクオリフィケーションであり、製品のライフサイクルを通じて、製造プロセスを適切に管理するための基礎となる。Stage 2は、狭い意味での従来のプロセスバリデーションに相当するが、現在でも、プロセスバリデーションをStage 2の意味で用いることが多いので注意が必要である。たとえば、Stage 2が完了すれば、プロセスがバリデートされた、「Stage 3をプロセスがバリデートされた状態にあることを検証すること」と表現することは慣習的に認められている。

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執筆者について

中尾 明夫

経歴

株式会社シーエムプラス フェロー。
GMP Platform責任者。
1976年田辺製薬(株)入社。有機合成化学研究、プロセス化学(工業化)研究に従事後、品質保証部長、取締役生産本部長、常務取締役経営企画部長を歴任、合併後、田辺三菱製薬(株)常務執行役員製薬本部長。
FDA査察対応やPDA活動を通じ、「GMPはサイエンス」と確信。GMP教育の洗練化を目指す(株)シーエムプラスの企業理念に共感し、2011年(株)シーエムプラスに入社、2012年5月取締役副社長就任。2018年4月より現職。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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