いまさら人には聞けない!微生物のお話【第42回】

18. 微生物菌株の入手、保管、継代培養

微生物の菌株は、世界中の様々な機関が保管、分譲しています。

もっとも有名な機関はアメリカのATCC(American Type Culture Collection)です。この菌株は、住商ファーマインターナショナル株式会社を通じて入手することができます。
https://www.summitpharma.co.jp/japanese/service/s_ATCC_products.html

日本国内の機関では、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NBRC)が保存分譲を行っています。
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/order/gene.html

なお前項でStaphylococcus aureus ATCC 6538(NBRC 13276)のように記載しているのは、NBRCがATCCから6538という株を譲り受け、それをNBRCが13276という番号で保存、分譲しているもので、同じ由来の菌株です。

これら以外にも多くの機関から入手可能ですが、特に問題がない限り、上記のいずれかから入手するのがいいと思います。

これらの機関から入手した菌株は、通常、凍結乾燥した微生物がガラスアンプルに入った状態で送られてきます。新たに入手した場合は、それを蘇生させなければなりません。蘇生方法は、アンプルに添付されていますので、それに従って蘇生します。

なお蘇生した微生物は、変異しやすいため、培地性能試験などに使用できるのは、蘇生した後5世代目までと規定されています。従いまして、自社でその菌株を使い続けるのであれば、適切な方法で保存しなければなりません。保存の方法につきましては新GMP微生物試験法 第3版(じほう社)に詳しい解説がありますので、それを参照してください。

19. 染色、顕微鏡観察

微生物は、そのコロニーの色、形状、臭いなども重要な情報源ですが、1個の細胞を肉眼で見ることができませんので、詳しい性状を確認するためには顕微鏡での観察が必要になります。

顕微鏡には、生物顕微鏡、実体顕微鏡、位相差顕微鏡、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡(透過型、走査型)、レーザー走査顕微鏡など様々なタイプがありますが、通常の微生物ラボで最も広く使われているのは、生物顕微鏡と呼ばれる顕微鏡です。ここでは生物顕微鏡を中心に説明します。

生物顕微鏡は、光学顕微鏡の一つで、私たちの目に見える可視光線を使って対象物を観察するものです。しかし多くの細菌や真菌は、それ自体コントラストが良くないため、単にスライドグラスに塗布して観察してもよく見えません。そのため染色剤(色素)を使って微生物を染めて観察するということが行われます。

なお位相差顕微鏡というのも光学顕微鏡の一種ですが、これは屈折率の差を光の濃淡に変換するため、染色することなしに微生物を生きた状態で観察することが可能です。

微生物学において最も有名な染色法に、グラム染色があります。これは微生物の基礎でも説明しましたが、細菌の分類上の指標としても極めて重要なものです。このように染色は単に微生物を観察するのみならず、その生物的な特性を把握するためにも必要な操作ですので、適切なトレーニングにより習熟するようにしてください。

一般的な細菌類の顕微鏡観察は、次の手順で行います。

① スライドグラスに水を一滴置く
② そこに観察したい微生物をごく少量加える
③ クリーンベンチで風乾させた後、スライドグラスの下方よりバーナーの炎で軽く熱して微生物をスライドグラスに固定する
④ スライドグラス冷却後、染色液を滴下し、適当な時間放置する
⑤ スライドグラスの裏面から水道水を軽くかけ、余剰な染色液を洗い流す
⑥ 水分を除去、乾燥し、顕微鏡で観察する
 
グラム染色は、④の染色プロセスで計3種類の染色液を使います。しかもその間にアルコールによる脱色という操作が入りますので、慣れないと陽性菌と陰性菌をうまく染め分けることができない場合があります。そのためグラム染色では調べたい微生物をスライドグラスの中心に置き、左右にグラム陽性菌(S.aureusなど)と陰性菌(E.coliなど)をそれぞれ置き、一緒に染色して操作の適切性を確認する場合もあります。


医療機器の製造業者における顕微鏡観察の機会は、主としてバイオバーデンや環境微生物の確認です。そこで使われる染色法はグラム染色、芽胞染色、単染色など様々ですが、もっとも頻度が高いのはグラム染色です。そのためグラム染色はしっかりトレーニングを行うことが必要です。

図18 グラム染色法(ハッカー変法)
神奈川県衛生研究所ホームページより引用

 

 

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