<PIC/S GMP ANNEX1改訂版 発出と除染について>

記事投稿:ニッタ株式会社 【PR記事】

PIC/S GMP ANNEX1改訂版 発出と除染について

 PIC/S:Pharmaceutical Inspection Convention and Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme(医薬品査察協定および医薬品査察共同スキーム) GMP Annex I 「無菌医薬品の製造」のドラフト版が2017年に12月20日に発行されてから、数回のパブリックコメントの募集を経て、ようやく改定版が欧州EU GMPからは2022年8月25日、PIC/S GMPからは2022年9月19日に発行されました。完全施行は2024 年 8 月 25 日まで延期された8.123項 を除き2023 年 8 月 25 日に発効します。
 ここでは改定後のPIC/S GMP Annex1の無菌環境での「消毒」に関する次の4項目の概要と考察、ならびに日本薬局方で紹介されている薬剤の特長とポイントについて紹介いたします。

■(PIC/S Annex1. Disinfection 4.33)
 無菌医薬品製造において、微生物汚染は製品品質への深刻な問題となるため、クリーンルーム内の消毒は微生物汚染に対する重要な対策の1つとされています。文書化されたプログラムに従い選択された適切な消毒剤と使用方法で実施し、有効性評価のための定期的なモニタリングも行うべきとされています。
 消毒では、表面汚染を除去するためのクリーニングが事前に必要であり、消毒剤を複数種類使用することが望ましいとされています。これは、消毒剤の種類によって殺菌効果が異なるため、異なる作用機序を持つ消毒剤を組み合わせて使用することで、微生物に対して確実な消毒効果を実現するためです。
 特に、殺芽胞剤を使用することは重要です。殺芽胞剤は、細菌や真菌などの微生物が芽胞という耐久形態に変化した状態でも殺菌効果があるため、効果的な消毒に不可欠な成分です。しかし、殺芽胞剤は強力な成分であるため、使用量や使用頻度には注意が必要です。
 また、消毒プログラムの有効性を評価するための定期的なモニタリングの実施により、消毒剤の残留状況や微生物菌叢の種類の変化(例えば、現在使用されている消毒の枠組みに耐性を持つ微生物)を検出し、適切な対策を取ることができます。そのため、モニタリングの頻度や方法については慎重に検討する必要があります。

■(PIC/S Annex1. Disinfection 4.34)
 消毒プロセスが正しく行われるためには、その方法が有効であることを確認する必要があります。これを確認するために、消毒剤を使用する方法と表面材質の種類について、その消毒剤が有効かつ適合していることを証明するための調査を実施する必要があります。また、調製した消毒剤の溶液が使用できる有効期間の確認も必要です。このようなバリデーション調査を行うことで、代表的な材質について妥当性を証明することができます。

■(PIC/S Annex1. Disinfection 4.35)
 消毒剤や洗剤は、グレードAおよびグレードBで使用される場合には使用前に無菌にする必要があります。また、グレードCおよびグレードDで使用される場合も、CCS(汚染管理戦略)に定めていれば無菌であることが必要です。無菌な状態で使用するために、製造業者が消毒剤や洗剤を希釈または調製する場合には、微生物汚染を防止するために注意を払い、微生物汚染についてモニタリングを行う必要があります。希釈液は、クリーンな容器に入れ、決められた期間のみ保管することができます。もし消毒剤や洗剤が“readymade” (そのまま使える状態の製品)として供給される場合には、適切なベンダーの適格性確認が適切に完了することを条件として、分析証明書または適合性証明書の結果を受けいれることができます。

■(PIC/S Annex1. Disinfection 4.36)
 クリーンルームおよび関連する表面の燻蒸や蒸気による消毒を行う場合は、使用する燻蒸剤や分散システムの有効性を理解し、バリデーション(検証)する必要があります。つまり、使用する消毒方法が適切に微生物を除去し、クリーンルームや表面が適切なレベルの清浄度を保持できることの有効性を確認する必要があります。具体的には、使用する燻蒸剤や分散システムの種類や濃度、燻蒸の時間や温度、クリーンルーム内の湿度や温度など、多くの要因について検証を行う必要があります。

<第十八改正 日本薬局方 消毒法及び除染法>
 第十八改正日本薬局方の参考情報「消毒法及び除染法」には清浄度の管理が必要な清浄区域又は無菌操作区域において、化学薬剤を使用して生存する微生物の数をあらかじめ設定したレベルまで減少させる処置法が示されています。
 その中で除染法については、化学薬剤を気化又は噴霧させ、無菌医薬品の製造工程で用いるアイソレーター、RABS (Restricted Access Barrier System)や清浄区域又は無菌操作区域の空間や作業室を含む構造設備に生存する微生物をあらかじめ指定された菌数レベルまで減少させるのに用いられる手法として紹介されており、無菌医薬品の製造における構造設備に適用する場合は、除染剤及び除染条件の有効性に関するバリデーションを実施すると共に、作業者の安全性を確保することを求めています。
また、代表的な除染剤として”過酸化水素”、”過酢酸”、”ホルムアルデヒド”が挙げられていますが、これら以外でも、その有効性と安全性が確認された除染剤は使用することができるとされています。代表的な各除染剤の概要と特長は以下の通りです。

<ホルムアルデヒト>
 ホルムアルデヒドを36.0〜38.0%含むホルマリン水溶液を加熱して気化、またはパラホルムアルデヒドを加熱して昇華させ、それを作業室に拡散させる除染方法です。この方法は、作業室の清浄化に利用され、指標菌の芽胞を3Log以上減少させる条件で実施します。
 ただし、ホルムアルデヒドは人体に有害であり、劇物として指定されているため、強制排気装置を備えた作業空間で取り扱わなければなりません。また、薬剤の廃棄処理にも十分注意し、無害化を行う必要があります。
そのため、除染前には厳重な養生作業が必要で、除染後は表面の残留薬剤や廃棄処理の中和作業(無害化)に多くの時間と労力を費やします。
 ホルマリン燻蒸は金属やプラスチック、紙製品など使用できる対象物の幅が広く、強力な殺菌力と拡散性、安価で取扱いが比較的容易であったことから、古くから様々な場所で使用されてきました。
しかし、有効成分であるホルムアルデヒドは2004年6月に世界保健機関(WHO)に属する国際がん研究機関(IARC)の報告で「人に対して発がん性がある(Group 1)」と評価が変更されたことから、健康被害に繋がる有害成分として認識されるようになり、除染薬剤の選定においても過酢酸等の代替薬剤への移行が進んでいます。

<過酸化水素>
 濃度30%の過酸化水素を蒸発させて、微生物を死滅させる除染方法です。この方法では、過酸化水素をヒーターで気化させ、アイソレーター内部や作業室に拡散させ、過酸化水素が持つ酸化力によって微生物を死滅させることができます。
ただし、高度な微生物学的清浄度を必要とする場合は、指標菌の芽胞を6 Log以上、作業室を除染する場合は3Log以上減少させる必要があります。この方法は常温で実施できますが、材質によっては過酸化水素の強い酸化力の影響で変色、変形、腐食などの劣化を生じたりすることがあるため、事前に適合性を検討する必要があります。
一例として特定の床材においては火脹れ現象を生じ、施設にダメージを与えることが知られています
 注意点として、過酸化水素は「無色」および「無臭」であり、濃度と時間制御することで除染が可能ですが、濃度6%以上の過酸化水素は劇物扱いであり、除染中に対象エリアへ作業者が入室することはもちろんのこと、作業者の誤った取り扱いによる事故の危険性も高いため、使用の際は十分な注意が必要です。

<過酢酸>
 例えば、0.2%の過酢酸水溶液をミスト状にして噴霧し、空気中に拡散する除染方法です。この方法は、作業室の清浄化に利用され、指標菌の芽胞を3Log以上減少させる条件で実施します。微生物を酢酸の酸化力によって死滅させるこの方法は、常温で実行できますが、材質によっては過酢酸の強い酸化力により、変色、変形、腐食などの損傷を引き起こす場合があるため、予め適合性を確認する必要があります。
 薬剤の特性は、「無色」の酢酸臭のする薬剤ですが、有効成分の過酢酸が分解されると、人体に無害な「酢酸」になり、上記2種類の薬剤と比較して安全性が高いことが知られています。また、低濃度では食品消毒にも利用できる添加物としても知られています。

 当時は除染対象物に液剤を直接噴き付け、濡らすことで微生物を死滅させていたことから、その強い酸化力による金属腐食の発生や酢酸臭が原因で敬遠された背景もありました。
しかし、近年は新技術による微細ミスト化と結露(濡れ)回避の対策が講じられたことによって、金属腐食や臭い面での課題も克服されたことから、再生医療や無菌医薬品製造現場での需要が広がっています。

【まとめ】
 今もなお医薬品製造現場で使用されているホルムアルデヒド(ホルマリン)除染には、発がん性の問題があるため、多くの現場で代替法へ移行する検討が進んでいます。高い除染効果を維持しつつ、作業者の安全確保や作業時間の短縮を代替法に求める声もありますが、現在のところ設備稼働率、作業者や作業環境への安全性、その他の要件等、全てを満たせる万能な薬剤は存在しません。使用者は国内外の規格や法規を参考にし、各薬剤の特長を理解した上で、それぞれの現場に応じた最適な対応を図ることが求められています。

【最後に】
 ニッタ株式会社では、これら除染剤の中で、安全性が高く、作業性に優れる過酢酸系薬剤を活用した除染システムの開発と製品販売を長らく行い、ノウハウを蓄積してきました。
特に米国環境庁の認可を受けたSTERIS社(米)の過酢酸系薬剤を使ったCO2インキュベーター等の小型庫内や安全キャビネットの除染を簡便に行える除染システムFOGACT(フォグアクト)、大型の製造施設除染が可能なFOGWORKS(フォグワークス)は現場からも高い評価を受けております。

 また、過酢酸ミストでは困難であった安全キャビネットのHEPAフィルタ除染を新型除染装置にて実現しました。JIS K 3800:2021バイオハザード対策用クラスIIキャビネットに記載されている除染及び除染方法において、指標菌バイオロジカル・インジケーター(BI)で芽胞6 Log以上減少させる除染効果があることを確認し、過酢酸薬剤を用いてもワークスペースおよびフィルタ除染ができることを実証しました。今後のご案内をぜひご期待ください。

【事業内容紹介】
 ニッタ株式会社クリーンエンジニアリング事業部では、インダストリアルクリーンルーム(ICR)やバイオクリーンルーム(BCR)の環境を生み出す空調用フィルタの製造、浮遊微粒子・浮遊微生物等の環境モニタリングシステムの構築、過酢酸を用いたバイオ除染の要素を組み合わせることで、無菌環境構築・維持管理におけるトータルソリューションの提供を行っています。

せひ、本記事をきっかけに、現場の運用にお役立ていただければ幸いです。
詳しくはPDF データを参照してください。

 

 

<連絡先>
ニッタ株式会社
クリーンエンジニアリング事業部 ライフサイエンス推進チーム
過酢酸除染システム | ニッタ株式会社 (nitta.co.jp)

 

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