再生医療等製品の品質保証についての雑感【第42回】

細胞加工製品の無菌製造法 (3) ~ 無菌性を保証できない原料組織での製造 その2

はじめに
 細胞加工製品の無菌製造法では、全工程で無菌操作を実施し、外因性の微生物混入リスクが制御できることを保証する必要があります。一方で、原料(インプット)として用いる、患者やドナーからの採取組織(体細胞)は必ずしも無菌性を保証できません。無菌操作では予め原料に内在する微生物を除去できないので、最終製品の無菌性を担保するには工程内に無菌化のためのプロセスが含まれることが不可欠です。具体的には、以前(第18回)にお話しした通り、抗生剤等を併用した無菌操作手法(無菌的操作)により無菌化を達成します。そこで本稿では、抗生剤について、今さらではありますが、あらためて雑感を述べます。


● 細胞加工製品の無菌化プロセス
 患者あるいはドナー由来の組織を原料とした製造では、最終滅菌法による無菌性の確保はできませんが、培地等に抗生剤(抗菌剤・抗真菌剤)を添加することで培養工程中に無菌化プロセスを達成し、最終製品の無菌性を確保することができます。ただし、この場合の無菌性は、ウイルス等のクリアランスはできませんので、正確には、「無菌試験に適合」で、増殖性の細菌・真菌に対してのみを意味します。細胞加工製品の無菌製造法では、実施する治療が自家移植なのか、他家(同種)移植なのかで、適切にウイルス等のスクリーニングを併用することで、最終製品を無菌製品として出荷することが可能となります。無菌試験での無菌性確保は、以前(第39回)にてお話した通り、下流工程(充てん作業)の開始前に達成しておく必要があります。
 無菌化プロセスでは、抗菌剤・抗真菌剤の有する、殺菌および静菌の機序を利用し、継続的に細菌・真菌を低減していくことで、最終的に無菌と呼べる状態を達成します。承認された細胞加工製品の実績では、抗真菌剤にはアムホテリシンBが、ほぼ一択で、採用されています。一方で、抗菌剤は、ペニシリン系(ペニシリンGなど)とアミノグリコシド系(ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシンなど)の2系類が挙げられ、これらを複数で用いることが多いです。例えば、ジェイス®、ネピック®では、「ペニシリン、カナマイシン、ストレプトマイシンを使用」していると添付文書に記載があり、アロフィセル®注では、「ペニシリン及びストレプトマイシン又はゲンタマイシンを使用」、ステミラック®注では、「ペニシリン、ストレプトマイシンを用いて」となっています。対して、ジャック®とハートシート®は「ゲンタマイシン」のみです。(上記は、アムホテリシンB等、抗真菌剤の記載は除外し、抗菌剤のみをピックアップしています。)
 余談ですが、添付文書における抗菌剤・抗真菌剤使用(過敏症状に対する留意)の記載は、ジェイス®では【禁忌・禁止】に、ジャック®とハートシート®は【警告】に、その他の製品では【使用上の注意】に記されています。

● 抗菌剤の選定と使用方法
 抗菌剤の選定では、採取部位における微生物の種類や量(特に組織中に内在し、細胞単離まで直接的な殺菌が困難な細菌等)を最大限に想定し、それに対して適切な抗菌剤を選択します。抗菌剤選択の基準は、一般的に、それぞれのスペクトラムと、殺菌の強さ(殺菌力)およびその継続性であると認識します。例えばペニシリン系は、グラム陽性菌を中心に非常に高い殺菌力を有しますが、37℃培養下での安定性が高くはありませんので、継続性において制限が生じます。これに対して、アミノグリコシド系は熱に対しての安定性が高く、継続的に殺菌力を維持して殺菌することが可能です。(一般論として、ペニシリン系は、一時的に有効濃度が達成できれば、暴露時間に比例して目標とされた細菌が殺菌される抗菌剤で、アミノグリコシド系は、濃度に比例して最終的に(時間に依存せず)目標とされた細菌に対する殺菌力を示す抗菌剤となります。)
 したがって、採取組織の汚染度が高い場合では、特に組織の搬送から細胞単離(培養初期)までにおいて、ペニシリン系を使用することで高い殺菌効果が得られると考えます。これに対し、培養を継続する間は、培地交換の頻度が1~2日おき程度であることを考慮すると、アミノグリコシド系を使用することで、残存する細菌に対して、継続的かつ安定した殺菌が期待できると考えます。ここで残存する細菌の種類が多い場合は、スペクトラム拡大のため、複数のアミノグリコシド系抗菌剤を適用することが視野に入ります。他方、採取組織の汚染度が低い場合、例えば軟骨や骨格筋組織などは、必ずしもペニシリン系を使用する必要性は生じず、単一のアミノグリコシド系抗菌剤のみで十分対応できると想定できます。いずれにせよ、原料として使用する組織の採取部位や形状、採取方法などから、微生物学的リスクアセスメントを実施し、妥当性ある抗生剤の使用手順を決定する必要があります。
 抗生剤の使用では、投与部位により、それぞれアレルギーやアナフィラキシーなどの過敏性症状が生じた場合おける患者への影響が異なると考えますので、考えられ得る最小限の使用手順を構築し、最終製品への残留を評価した後、リスクベースで、適切な注意を促すこと(添付文書等の記載に対する配慮)が要求されます。

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