省令改正案検討の経験からみるGMP省令改正のポイント【第2回】

第1回でお伝えしたように改正省令の条文を順に説明する予定ですが、前回PQSを早々に整備する必要性を結論しましたので、今回は第3条の3を優先します。 

医薬品品質システム(第3条の3)
 第1項に「製造業者等が実効性のある医薬品品質システムを構築するとともに次に掲げる業務(第1号~第5号)を行うこと」となっています。PQSでいう上級経営陣は、課長通知によって製造業者等の代表者を含む責任役員と位置付けられました。規制に対応するために、これらの役員を上級経営陣に定義する必要がありますが、その上で上級経営陣の枠を広げる分には企業の裁量の範囲になります。
 第2条(定義)第9項に「医薬品品質システム」の定義があります。ここに「当該製品の品質に関して管理監督を行うためのシステム」とのみ記載されています。課長通知に、PIC/S GMPで用いられるPharmaceutical Quality SystemやICH Q10が実効性のある医薬品品質システムの構築で参考になると書かれていて、改正省令に定義する「医薬品品質システム」がそのままQ10であるとはしていません。Q10でも1.1章に「ICH Q10は、製品ライフサイクルの異なる段階にわたり実施し得る医薬品品質の一つのモデルである」と記載しています。製造所でPQSを導入するにあたって、その形式には自由度があり、例えば、Q10がモデルとしたISO 9000sをベースにすることも可能です。その場合、Q10に規定するPQSの要素が機能し、達成のための手法に相当するものが基盤にあるといったことがポイントになります。Q10によらない品質マネジメントシステムの場合、実効性を検証するために、当局側によってQ10との同等性を確認されることになるでしょう。
 第1項で定める上級経営陣の業務に話を戻します。改正省令で求める上級経営陣の業務は以下です。
 ✓品質方針
 ✓品質目標
 ✓全ての組織及び職員に対する品質方針及び品質目標の周知
 ✓資源の配分、定期的な照査及び所要の措置
 ✓記録の作成・保管
 Q10では、2章の経営陣の責任のところで、上級経営陣の他に経営陣を主語としてそれらがなすべきことを規定しています。その中で上級経営陣を主語としている業務は以下で、それ以外は経営陣となっています。
 ✓PQSの有効な機能、役割・責任等が規定され、会社全体に伝達・実施されていることを確実にする最終責任
 ✓品質方針
 ✓品質目標が規定・伝達されることを確実にすること
 ✓マネジメントレビューを通じてPQSの統括管理に責任をもつこと
 例えば、マネジメントレビューでは、製造プロセスの稼働性能及び製品品質並びに医薬品品質システムのレビュー結果を評価するのは経営陣で、レビューを通じてPQSを統括管理するのは上級経営陣です。大きな企業など、レビューの全ての作業を上級経営陣が行うことは非現実的なため下位の経営陣が代行し、上級経営陣は大きなところに責任をもつという建付けになっています。企業の規模や複雑さによって自由度はあるものの、経営陣が主語の部分も上級経営陣の責務から外れない整備がポイントです。すなわち、「経営陣」の責務は「上級経営陣」の責務に包含される関係にあるとQ10は言っています。この本質から、改正省令は経営陣の責任に規定する業務は全て上級経営陣の責任であると規定しています。下位の経営陣に対するオプションは、GMP事例集で解説されることになるでしょう。
 

品質方針(第1号)
 改正省令は製品品質を確保するための基本的な方針を品質方針と定義しています。課長通知では、品質方針は製品品質に関する取組み姿勢及び方向性を記述するものであり、その製造所における製造工程等に応じてGMP省令の要求事項等を満たす(法令遵守)とともに、その製造業者等における医薬品品質システムの継続的な改善を推進する内容であることが求められるとされています。一般的に短い文言となる品質方針には、これだけの内容を含む必要があります。
 第1号に規定される「文書により定め」るとは、課長通知のとおりQ10に規定するような品質マニュアルに定めることをいいます。品質マニュアルはまたPQSの手続き等の構成要素を示すこととしていますが,構成要素は具体的に解説されていません。Q10では、1.8章(品質マニュアル)に次の記述があります。
  (c) 医薬品品質システムのプロセス並びにそれらの順序、関連性及び相互依存性の特定。
     プロセスマップ及びフローチャートは、医薬品品質システムのプロセスの視覚的な
     説明を容易にする有効なツールとなり得る。
 手続き等の構成要素を示すということは、自社のPQSの手続きやその手続きの順序を明確に規定しておくということです。その手続きは、「医薬品品質システムのプロセス」ということから、例えば、単にマネジメントレビューの手続きだけではなく、少なくともPQSの4つの要素の関連がわかるものを求められるでしょう。第3条の3の第1号でいう文書は、第8条の手順書等に定めるものとはカテゴリーが違うことに留意ください。
 Q10は品質マニュアルの文書構成を具体的に説明していません。Q10がISO 9000sを参考にしていることから品質マニュアルは既に常識の範囲であり、あえて説明する必要がないためISOの品質マニュアルとのギャップのみ1.8章に記載しています。PQSの品質マニュアルの具体的な枠組みを知りたい場合、GMP調査要領1)の第3.品質マニュアルを参照ください。ただし、調査当局が調査業務のために設定しているので、製造所向けに改変する必要があります。

 

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