製薬業界で実現の基盤が整う連続生産
製造時間短縮とコスト削減のベネフィットが知られる「連続生産方式」は、多種多様な業界ですでに広く導入されている。一方、医薬品という、ある意味特殊な製品を扱う製薬業界では従来のバッチ製造方式が今も主流だが、ここに来てそれが変わりつつある。
先陣を切ったバーテックス
米国で連続生産方式によって製造された初の薬剤は、2015年7月にFDA承認を受けたバーテックス・ファーマスーティカルズ(Vertex Pharmaceuticals)の嚢胞性線維症(CF)治療薬オルカンビ(Orkambi)だ。
バーテックスは医薬品製造を外部機関に委託していたが、2012年初めに連続生産方式の採用を決定。3,000万ドルを投じ、マサチューセッツ州ボストンに敷地面積4,000平方フィート(約370平方メートル)の工場を建設した。通常の医薬品製造工場と比べて格段に規模の小さなこの施設は、1時間にオルカンビ10万錠を生産する能力がある。複雑な機械を動かすソフトウェアの開発など、連続生産施設の建設には新たな課題も多く、バーテックスは施設のデザイン段階からFDAと協議して作業を進めたという。
2016年3月には医薬品のAPIや中間体の開発・製造を行うハビオン(Havione)が、バーテックスとの提携の一環として、ニュージャージー州に商業生産規模の連続生産施設を建設する計画を発表した。新施設は2017年中の完成が予定され、バーテックスの複数の承認済み医薬品を生産する。
オルカンビは最初から連続生産方式を念頭に承認申請が行われた例だが、2016年4月には、それまでバッチ製造方式がとられていた医薬品生産を連続生産方式に切り替えるための補足新薬承認申請(sNDA)が、初めて承認された。ヤンセン・セラピューティクス(Janssen Therapeutics、以下ヤンセン)が開発したHIV治療薬プレジスタ(Prezista)はこの承認を受け、プエルトリコのグラボにある施設の連続生産ラインにおいて製造されることとなった。
プレジスタのバッチ方式から連続生産方式への変更は、ヤンセンと構造化有機微粒子系工学研究センター(Engineering Research Center for Structured Organic Particulate Systems、以下C-SOPS)の5年間にわたる提携によって実現した。ラトガース大学、パーデュー大学、ニュージャージー工科大学、プエルトリコ大学が協力し、ラトガース大学構内に設立されたC-SOPSには、アカデミアと製薬企業、生産機器メーカーからエンジニアと科学者を含む各業界のリーダーが集結し、2006年以来、連続生産のコンセプト実証と、医薬品製造の基礎科学および商業化の進歩に取り組んできた。
C-SOPSは2012年、直接圧縮錠剤の製造を従来のバッチ方式から連続生産方式に移行することについて、ヤンセンと提携した。直接圧縮錠剤の連続生産方式への切り替えは、複数の医薬品原料を粉状に砕いた上で混合、打錠するという従来の作業を、“1つの工程”として行うということだ。連続生産方式を採用した生産ラインはラトガース大学でまず構築され、概念実証を経てヤンセンの工場に設置された。
ヤンセンと親会社のジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)は2015年、8年以内を目標に、大量生産される医薬品の70%に連続生産方式を採用し、医薬品廃棄量の33%削減、そして医薬品製造および品質評価サイクルにかかる時間の80%短縮を目指すと宣言した。ヤンセンは連続生産方式の採用によって、コストの最大50%削減を見込んでいる。
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