GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第49回】

2021/10/01 品質システム

リスクマネジメントについて。

リスク

1.100年に一度
 地球温暖化、異常気象が叫ばれ、大きな災害が頻発している。以前、100年に一度発生する災害の対策が必要かなど、ある議員が言った言わないと騒がれたことがあった。製薬業界もコロナ禍で、ワクチンの副反応の問題や治療薬の開発等、リスクについてマスコミ等で取り上げられている。副反応や副作用がまれ(数十万〜100万分の1の確率)にしか発生しないとしても副反応や副作用が生じた患者にとっては100%である。医師は、効果効能であるメリットと副反応や副作用であるデメリットのバランスを取って、治療に用いることになる。医薬品は、副反応や副作用が100%ないものもないし、効能効果が100%あるものもない。人種、性別、食習慣、体格等の影響を受けるし、個人差にもより、薬の効き目と副作用の発現や程度は異なる。医師は、それを見極め、疾病の治癒にあたらなければならない。しかし、患者においては、数十万〜100万分の1の確率と言われても、不安になる。その副反応が重篤なもので、死亡に至ることや生涯後遺症に苦しむことになるかもしれなければ、なおさら許せないことだろう。まして、ワクチンのように健康時に摂取して、副反応が生じるかもしれないなら、不安になるのは当然ともいえる。医師や薬剤師は、確率だけでなく、その不安を取り除くことが必要である。
 GMPにリスクマネジメントの考えが取り入れられて久しいが、GMPに携わる多くの方々の中にも、GMPに関連するリスクは0(ゼロ)にしなければならないと思う方も少なくない。薬事規制は、薬害との闘いと言える。副作用の問題だけでなく、品質問題も含め、規制緩和が進む中でも、製薬関連業界に対して規制はますます厳しいものになっている。その事象が健康被害、まして、死亡に至るような事象を招くことは例え、100年に一度であっても許されないが、そのリスクにより、患者の生命を脅かすことがなければ、容認できるリスクもある。回収事例で、品質へ影響しないとされていることも多い中、しっかりとリスクアセスメントをする能力が製薬企業には必要である。
 ICH Q9品質リスクマネジメントに関するガイドラインの付属書Iに示されている欠陥モード影響解析(FMEA)では、

リスク優先数RPN(Risk Priority Number)=重大性×発生確率×検出率

の計算に基づき、対応すべき順位を定めることができる。しかし、重大性や発生確率、検出率を見誤るとその評価結果が想定外なものとなってしまう。GMP違反の事例であった水虫薬に睡眠導入剤混入事例を考えても、混同や取り違いの発生リスクを考えたとしても、睡眠導入剤が混入して、交通事故を招く事態まで想定することは困難であろう。高活性等の封じ込めが必要な医薬品の混入に対しては、重大性として高い点数としても、それ以外の医薬品が混入した場合の重大性の評価点数は低いかもしれない。発生確率が100年に一度と判断した場合、リスクの低減策の必要性は却下されるかもしれない。どのような医薬品が保管され、混同、取り違いが起こる可能性のある医薬品の最小有効濃度を把握し、交差汚染が発生した時に、事故が招く重大性や発生確率の可能性を解析しなければならない。ジェネリック製薬企業では取扱品目も多く、それぞれの品目について十分な解析がされているか不安である。各製薬企業は、自身の製品について、十分な解析に至急、取り組む必要がある。

 

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁。1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)締結の際のEU調査、2005年製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
 ・平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
 ・平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職後、医薬品原薬輸入商社、製薬企業、コンサルティング企業で品質保証やGxPコンサルタント業務に携わる。2025年6月よりGMPコンサルタントとして独立、現在に至る。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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