ラボにおけるERESとCSV【第69回】

 

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
■ EEE社 2018/12/21 483
施設:製剤工場


■Observation 5
記録の保存期間であるにも係わらず、製造に関する記録を査察において見ることができなかった。
特に、水関連のシステムのバリデーション資料を要求したが提示できなかった。

★解説:
PIC/Sのデータインテグリティガイダンス(Draft 3)に文書の保管管理について以下を確認するよう記載されている。記録の保管方法の参考とされたい。
 •    アーカイブした記録の取り出しが効果的でトレーサブルであること
 •    記録が整然と保管され容易に識別できること
 •    所定の場所に保管され安全が確保されていること
 •    アーカイブした文書にアクセスできるのは権限者に限定されていること
 •    記録が存在しており記録が返却されていること
 •    文書を効率的に取り出せる保管方法であること

2016年11月に開催された日本PDA製薬学会の年会において、FDAのAlicia M. Mozzachio氏が講演された。その講演において「査察において要求した記録がタイムリーに提供されなかった」とのウォーニングレター指摘を紹介された。「タイムリーとはどの程度か」という質問に対し、氏は以下の様に説明された。
 タイムリーにとは:
 •    そこにあるべきものはその場ですぐに
  (その時点の製造指図や製造記録など)
 •    運用中の資料は速やかに(教育記録など)
 •    保管資料は合理的時間内に(数年前の製造記録、試験記録、
   バリデーション記録など)
昔のバリデーション記録は外部施設に保管していることがある。そのような場合、記録の取り出しには時間を要するのは当然であるので、取り出しに要する合理的時間を査察官に説明することをお薦めする。

バリデーション記録の保存期間は以下の様に考えるとよい。
 •    機器・装置・システムのバリデーション記録は、その機器・装置・
   システムが関与した最後の試験記録・製造記録と同じ期間保存する
 •    分析法や洗浄等のバリデーション記録は、その分析法や洗浄等が関
   与した最後の試験記録・製造記録と同じ期間保存する


■ FFF社 2019/2/8 483
施設:原薬工場


■Observation 1

A:    HPLCソフトウェア(LabSolution DB)のシステム管理者権限が製造のオペレータに与えられている。このオペレータは工程内管理(IPC:In Process Control)のテストを行っている。システム管理者権限により、HPLCソフトウェアの設定にアクセスでき、権限設定を変更することができる。

★解説:
試験に係わる現場の職員がシステム管理者権限を持っていると、自らが関与した試験あるいはこれから関与する試験のデータ改ざんなどができるので指摘される。システム管理者権限は試験に係わらないIT職員などに与えるのがよい。QAはQCあるいは製造から独立した第三者的立場であるので、QAがシステム管理者権限を持つことは問題ないと思われる。しかし、査察官によってはQAがシステム管理者権限をもっていることを指摘することがある(483_2019/10/18、中国)。そのような査察官に対しては、QAの独立性を否定したらGMPは成り立たなくなることをディスカッションするとよい。

しかし、組織が小さい場合などには電子記録の生成・レビュー・承認に係わるQC職員にシステム管理者権限を与えざるを得ない場合がある。そのような場合の対応方法がMHRA(英国医薬品庁)から以下の様に提案されている。また、PIC/Sの査察官むけデータインテグリティガイダンス(Draft-3 §9.3)にも同様の記載がある。
•    GMP業務とシステム管理業務の両方を行う個人に、異なる権限の2つの
  アカウントを付与し、アカウントを使い分けることにより対応する
•    たとえば
  ◆ 測定時は測定者権限アカウント、システム管理を行う場合はシステム
    管理者権限アカウントでログインする
  ◆ システム管理者権限アカウントには測定権限を与えない
  ◆ 測定者権限アカウントにはシステム管理権限を与えない
  ◆ システム管理者権限アカウントにより行われたすべての変更は可視化
    しておき、品質システムにおいて承認する(システム管理者権限アカ
    ウントの監査証跡を参照し、不適切な操作がなされていないことを
    QA等が確認し承認する)
    ただし、この確認・承認は出荷判定までにすませておかないと指摘さ
    れる場合がある。
詳細は連載第13回を参照されたい。
 

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