ドマさんの徒然なるままに【第86話】 お宅はどうですか?/Part 3(曖昧編)

第86話:お宅はどうですか?/Part 3(曖昧編)

Part 3(曖昧編)のはじめに
先の第84話のPart 1(情報編)および第85話のPart 2(治験薬編)の続編です。このシリーズは、GMP違反とはならないものの実運用においては盲点になっている可能性のある、自身(自製造所、自社)では気づきにくい点についてフォーカスし、筆者の師匠で市販製品と治験薬の二刀流QAをやってきた古田土真一先生と共著で書いています。

Part 3の本話では、市販製品GMP(GQP)組織、治験薬GMP組織に関わらず、“詰めの甘さ”が生じ易い点についてピックアップして書いてみました。思い当たる節があるのであれば、改善に繋げましょう。他にも類似事項があるかもしれませんが、自身(自製造所、自社)での気づきの切っ掛けになれば幸いです。
 

● 技術移管におけるQA部門間のSOPが無い会社さん
【素朴な疑問】
第81話「開発品GMPの基礎と基本・後編」の中の「第12章:QAの技術移管を考えたことはありますか?」にも記したが、貴GMP組織の技術移管に関する手順書(移管元と移管先の両者)の中に、QA部門間の技術移管についての手順は記述されていますか?

【懸念事項】
社内工場への技術移管であれば、かなり具体的に書けますし、外部委託であれば、別途委託先との協議の上での別添SOPでも良いと思います。大事なことは、技術移管のSOPだからと言って、技術部門間(原薬・製剤・分析)だけで済むことではないという認識です。あくまでGMPにおける品質の管理(品質保証を含む広義のQuality Controlの意味)としてどうなのか、ということを認識しておかなければならないと思います。

【個人的提案】
言わずもがなですが、必要事項はSOP内にキチンと書いておきましょう。技術移管の完了の承認は両QAですよね。そうだとしたら、何をもって承認とするかの両QA間の合意が必要なんじゃないですかね。

【お節介な本気コメント】
治験薬に限らず市販製品にも言える一般論ですが、両QAの承認で完了という報告書、それはそれとして、現実にはその後の数ロットまで安定したかどうか様子見したほうが宜しいかと思います。その目的は、ある意味で米国FDAの唱えるプロセスバリデーションの“Ongoing/Continued Process Verification”と同じです。気合を入れてやっている時とその後とでは微妙に違っていくなんてことは“ありがち”です。過去に在籍した会社においては、該当するSOP内に「技術移管後の技術移管先単独での製造または生産における結果を技術移管元として評価すること」と明記しました。


● QA部門の逸脱に関する項目がSOPに記述されていない会社さん
【素朴な疑問】
貴社の「逸脱処理に関する手順書」の中に、QA部門の逸脱に関する項目は記述されていますか? 

【懸念事項】
どれだけ具体的に記述されているか、事例も挙げられているか、といったことはありますが、項目自体が欠如していたとしたら問題ありと言わざるを得ません。ちなみに。「本GMP組織においては、」といった漠然とした言い回しではアウトと言わざるを得ません。この手の表現の会社さん、現実には「QAは別扱い」としていることが多いと感じます。

【個人的提案】
製造部門、試験検査部門(狭義のQC部門)、品質保証部門(QA部門)を問わず、全ての業務にヒトが関わっており、ヒトはミスを犯しやすいものです。まさに“Human Error”そのものであり、GMPの根幹を成す性悪説の根源とも言えます。「QAだから」とか「QAなのに」といったことは在り得ませんし、許されることではないでしょう。他の部門と同様に具体的事例も挙げて、どのように処理対応すべきか規定しておくべきでしょう。

【お節介な本気コメント】
QAの逸脱処理対策も品質リスクマネジメントの一環と言えます。出荷承認のためのレビュー不備といった大事(おおごと)の事態は少ないかと思います(少ないことを祈りたい)が、ゼロとは言い切れないとも思います。たとえそれが程度の低いミスであったとしても、それを事例研究としてQA担当者に対する教育訓練に繋げることは有益と考えます。他部門に厳しく、自部門には甘い、では組織として納得されないでしょう。品質に直接影響しない書類上の些細なミスだからとしてネグってしまうようであれば、QAの役割としての意識・認識が不十分と言わざるを得ません。その程度に関わらず、すべてを隠すことなく、反省の上で改善に繋げることが、組織向上のための一番の“おクスリ”になると思います。また、そのような正直な姿勢を組織全体に示すことが、俗に言う“Quality Cultureの醸成”に繋がると信じています。


● QAに対する自己点検が曖昧な会社さん
【素朴な疑問】
自己点検、それが市販製品であれ治験薬であれ、通常はQAが実施しますよね? では、そのQA部門に対しては、誰が行うのでしょうか?

【懸念事項】
貴社の自己点検に関する手順書の中に、「QA部門に対して自己点検を行う場合」の事項が明記されていますか? 

【個人的提案】
個人的には、製造部門の者や試験検査部門の者が実施しても良いのではないかと思っています。市販製品と治験薬のそれぞれのQA部門の仲が悪くないのであれば、クロスして実施するという手もあるかと思います。特に「こうじゃないとダメ」とするものは無いと思います。「うちではこうしている」としてSOPに明記しておき、その年ごとに担当を決めて「計画書」に記載の上で実施し、その指摘に対しては真摯に対応し改善できているのであれば、本来の自己点検を十分に行っていると胸を張って言えるんじゃないでしょうか。また、別の観点では、製造部門の者や試験検査部門の者から選抜してQA部門を含む他部門の自己点検をしてもらうことは、「オーディター養成としての教育訓練」の一環にも成りうると思います。筆者としては、カタチに拘らず、実質的に役に立つ方法で実施することが最も大事だと思っています。

【お節介な本気コメント】
上記の個人的提案に記した内容について、「それは自己点検とは言わない」と異論を唱える者がいるかもしれません。そういう方に対して、率直に申し上げます。どこの部署の者が点検するかが問題ではなく、客観的な視点でチェックし、もし不備・不足な点があれば、改善に繋げることが本来の目的ですよね? そうだとしたら、同じ社内であれば、誰が行っても良いと思っています。そもそも、自己点検(self-inspection)って、ISOでは内部監査(internal audit)って言っていたと思います。古くは、PDAでもそんな質疑応答の記事が掲載されていたと記憶しています。筆者としては、自己点検でも内部監査でも何でも良いから、「そもそもの目的を遂行したら」と思っています。
ついでに言うと、自己点検がてらチェックし改善していくことで、市販製品・治験薬を問わず、関係他部署との連携強化も図れるんじゃないかと思う次第です。


● Quality Agreementに遵守GMPを明記していない会社さん
【素朴な疑問】
委受託の際には、ビジネスにおける基本契約(ビジネス契約)に加え、品質にフォーカスした「Quality Agreement」を締結しますよね。大方のQuality Agreementには、冒頭に「GMPに基づいて・・・」といった内容のことが記述されていると思いますが、この記述において、GMP省令なのか、PIC/S GMPなのか、といったことは明記されていますか? 

【懸念事項】
後日に問題にならないようにするため、どのGMPなのかを具体的に明記しておくことをお勧めします。三極すべてに対応としたいのであれば、その旨が両者に分かるように記述しておくべきでしょう*1

【個人的提案】
現実には、委受託契約の前に、監査等で確認しておくことが望ましい。基本(原則)は同じですが、細部については微妙な違いがあるのも事実です。そのため、受託側の遵守GMPに合せての監査が求められ、指摘もそれに合致しない事項として発するのが筋と考えます。そして、契約前監査において、どのGMPに対応しているか(できるか)を確認し、その合意としての文書がQuality Agreementだと理解しておくべきです。

【お節介な本気コメント】
委受託におけるQuality Agreementは、ベースとなる(している)GMP遵守に基づいての合意です。それは形式ではなく、何か事が生じた際の誓約(証拠物件)でもあるのです。委受託の両者(両社)、根底には信頼に基づくビジネスがあります。市販製品、治験薬を問わず、“後出しじゃんけん”は無いと理解しておくべきでしょう。
市販製品の委託製造であれば、(販売最終形態とは限らず)委託製品が海外輸出用か否かによっては、GMP省令に準拠では済まされず輸出できない(相手が受け入れない)可能性があります。PIC/S GMPも準拠していると言っても、米国であればあくまでcGMP準拠かどうかが問われるでしょう*2
治験薬の委託製造であれば、(治験用包装前の状態であっても)治験実施国がどこの国なのかで準拠GMPが変わります。さらに、日本ではGCP管轄であるデポ*3であっても、グローバル治験という意図であれば、GCPに加えてGMPもかかると認識しておかないと治験を実施できない可能性があります。海外との提携・共同開発品の日本国内治験の場合のデポであっても同様で、相手の会社さんによっては、日本国内デポに対してGCPとGMP両者による監査が実施されるかもしれません*4


● 監査で自社ポリシーを理由に指摘とする会社さん
【素朴な疑問】
監査において、「これは弊社のポリシーだ!」なんて言いぐさで指摘する会社さんがありませんか? 特に、力関係で差のある委受託の際に多いように思います。監査を受けることも実施することも多かった筆者として思うことがあります。それって、本当に指摘として取り扱って良いのか? ということです。

【懸念事項】
前項にも関連しますが、契約前の監査であれば、そのポリシーをあらかじめ伝え、了解して貰い、Quality Agreementにも記述することを伝えるべきでしょう。契約後であれば、Quality Agreementに基づいての指摘だと伝えるべきでしょう。少なくとも、受託側として初耳のポリシー云々は、いかがなものかと思います。もし一歩引いて、指摘にしたいと思っても、マトモなオーディターであれば、当該事項が品質に対する悪影響を説明して推奨事項レベルにするんじゃないかと思います。

【個人的提案】
一般的に、それが重い指摘であれば、ほぼ必ず何らかの要件の違反になるはずです。それにも関わらずにポリシー云々を言い出す場合、オーディターの資質にも問題があると言わざるを得ません。品質ポリシーは各社で異なるので、それが委託側にとって重要な事項なのであれば、当然委託前に伝え合意がなされていなければなりません。それが本来のQuality Agreementのはずです。

【お節介な本気コメント】
ポリシー云々を“脅し”のように使用する会社さん、申し訳ないですが、それはパワハラと同じですよ。そういった脅しとも言える対応が委託側のみならず受託側についてもBlind Complianceを増長させてしまうんですよ。ご注意ください。


● 物流センターに対して監査を実施していない会社さん
【素朴な疑問】
物流センター、所謂、製造販売業者さんが自社もしくは委託して管理している物流倉庫のことです。販売前の状態か販売済みの状態かによって、製造業者としての管理か卸売販売業者としての管理かどうかも変わりますが、GMP and/or GDPとしての監査を実施していますか? 会計監査ではなく、あくまで品質の管理としてのGMP and/or GDPとしての監査です。

【懸念事項】
販売前の状態であればGMPとしての管理となるはずですし、販売後の状態であればGDPとしての管理となるはずです。いずれの場合であれ、製品の品質の管理は求められることに変わりありません。その頻度等については、当該物流センターの取扱量や稼働状況に依存すると思われますが、立ち上げ時の一回ポッキリで以降はマトモにやっていないとしたら問題だと思います。

【個人的提案】
本邦におけるGDPガイドラインは、発出されてはいるものの法的拘束力が無いといった考えは止めるべきでしょう。あくまで製造販売業者としての品質の責任はあります。それが証拠には、苦情があれば、パッケージに連絡先として記載されている製造販売業者に届きますよね。

【お節介な本気コメント】
法規制を罰則や拘束力の有無で決めることは、いかがなものかと思います。それこそBlind Complianceの根源であり、貴社の品質に対する意識に疑問を感じさせるんじゃないでしょうかね。


● もったいないということが分かっていない会社さん
【素朴な疑問】
組織・会社としては、GMPを精一杯やっている。少なくとも、そう思っている。が、それに見合った結果や成果が出ていない。といったことを感じていませんか?

【懸念事項】
自組織・自社での問題点とやっていることが嚙み合っていないんじゃないですか? 

【個人的提案】
自己点検って、何のためにあるんですか? まずは、そこから見直しては? 自己点検のコツは、オーディター役が第三者の視点で如何に客観的にチェックできるかにかかっています。やり方次第では、オーディター養成のOJTにもなります。実施する側も受ける側も時間と人員の浪費は、基本的に外部者による監査や規制当局による査察と同じです。“もったいない”ことは避けましょう。

【お節介な本気コメント】
自己点検をやっていても分からないと言うのであれば、費用をケチらずにコンサルタントでも雇ったら? 早めのチェック、早めの改善は、結果としてコスパを上げることに繋がります。ただ、あくまで自組織・自社のレベルアップのためとして実施することをお勧めします。近い将来に発生する米国FDAの査察対応といった限定的なコンサルテーションでは、テクニックばかりを教えたがるコンサルタントも中にはいるようですから・・・*5


おわりに
いかがでしたでしょうか? Part 1~Part 3の3話に亘り、筆者の体験した質問や相談の一部を紹介しました。笑えるのであれば、結構なことです。ただ、本当に笑っていられますか? ほんの少しでも思い当たる節があるのであれば、要注意です。また、「甘いなー!」と思えたのであれば、市販製品・治験薬の組織を問わず、お互いのレベルアップに協力してあげてください。

本話が掲載されるのは12月12日(金)の予定です。年の瀬までには少し時間がありますが、「2025年ももう終わりかー!」と思ってしまいます。マジに時間の過ぎるのが早い。ということで、読者の皆さんには、この1年間のご愛読に感謝いたします。と同時に、来年も宜しくお願いします。良いお年をお迎えください、
 


では、また。See you next time on the WEB.




【徒然後記】
孫の必殺技
競争や勝負をしている訳ではないが、どうしても孫には勝てない。孫には必殺技がある。単なる言葉技なのであるが、完璧とも言える。「じいじ好き!」たったそれだけのことなのだが、言われた者としてはイチコロである。男の子、女の子、そんなの関係ない。ただ言われた時はメロメロである。まして、クリスマス・お正月の時期、プレゼントやお年玉を渡すたびにこのイチコロの言葉を受けられる。そんな孫も年々大きくなり、言ってくれることも少なくなる。その分成長している証しでもあるが、一方で悲しい。孫とは恐ろしい存在である。

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*1:本件について、Quality Agreementに“current GMP”と表記した会社さんがありました。ドラフトのレビュー時に「これは、単純に“現行の”という意味なのか、それとも米国FDAの“cGMP”を指すのか、明記してください。」と指摘しました。結果としては、前者の“現行の”の意味だということで、注釈を付けてくれました。ちなみに、相手はEU圏の国の製薬会社さんです。

*2:「遵守(順守)」と「準拠」の違い
意味解説辞典によると、「遵守」は法律やルールなど公の決まりごとを守ることを意味し、「準拠」は標準となるものにならい従うことを意味するとのことです。
本文内では、筆者の何となくの感覚で使い分けしていますが、本質的には同義としてご理解していただいて結構です。

*3:治験で言う「デポ(depo)」とは、治験薬の保管・配送の物流倉庫のことです。グローバル治験であれば、日本から海外治験実施国への配送(or 海外治験実施国からの輸入)を行うハブデポと日本国内の治験施設への配送を行うサテライトデポ(治験施設のロケーションにより複数の場合あり)とに分けられる場合もあります。

*4:経験談とはなりますが、デポに対するGCPとGMPの合同監査に関する話は、第47話「The Longest Days」として書いています。

*5:某大手の会社さんでしたが、委託先監査としてお伺いした際、至る所に「(FDAによる査察対応?)コンサルテーションを受けた」と思われる点が散見されました。ただ、本質部分の改善(対応)ではなく、見てくれ(見せかけ)のパッチワークでしかなく、査察官への“騙しのテクニック”を教わってしまったようで、逆に当該社の考え方に疑問を感じさせる状態でした。監査後、最寄り駅から契約担当者に「アレはダメだ。」とTELしましたが、なんと既に契約してしまっているとの返答でした。ちなみに、当該社、案の定、その後に大問題を引き起こし、結果的に契約破棄となりました。
余計なお世話のコメントを申し添えれば、テクニックは要件の本質を理解した上でないと逆効果でしかありませんので、ご注意ください。

 

 

 

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