医薬品開発における非臨床試験から一言【第72回】
信頼性基準についての取り組み
医薬品開発を考えると、科学的な創造性と共に日本固有の「信頼性基準」への規制対応が取り上げられます。今回は、この信頼性基準への取り組みについてまとめます。新薬の価値を適正に示す研究情報は、承認申請に求められる規制条件です。承認申請資料は、臨床と非臨床に分けられ、臨床はGCP基準に沿って収集が求められます。非臨床試験は、GLP試験と非GLP試験に分けられ、GLP基準に毒性試験と安全性薬理試験が含まれます。そして、非GLP試験は製剤関連と薬効薬理試験と薬物動態試験になり、『日本においては』承認申請時点で信頼性の基準が適用されます。
信頼性基準の適用は、GLP試験、GMP試験、GCP試験(総じてGXP試験)も含まれ、「薬効薬理試験」と「薬物動態試験」のみではありません。GXP試験は信頼性基準の上位の規定に当たり、GXPに準じておれば信頼性基準に準じているとみなされます。つまり、信頼性基準にのみ準じるのは、日本の法的規制範囲で承認申請される「製剤関連」、「薬効薬理試験」と「薬物動態試験」になります。
データの信頼性は新薬の価値を明確にする基準として重要です。新薬の価値を示すデータは、承認申請に求められる必要条件です。その規制要件として信頼性の基準が成立しています。あらゆる試験の「得られた結果」に、本質的な信頼性があるのは当然の事です。創薬研究では、実験機器と、実験操作の標準操作手順書(SOP)を整備します。機器では、標準的な使用手順を定め、定期的な点検を行い、使用前点検により正常な状態を確認し、使用後は正常に終了したことを記録に残します。このような手順を守ることで、研究機器の使用者、あるいは使用のタイミングによる分析結果の変動を最低限に保ちます。
試験の正確性のため、試験部門で資料の品質管理をします。これを「QC;Quality Control」と呼び、試験実施者と他の者で2度にわたって生データと集計結果を100%チェックし、報告書に正確に反映されていることを確認し、点検記録を残します。間違いが生じないように管理するのがQCの本質ではありません。試験の質をコントロールすることが重要と考えます。
私が担当してきた「薬効薬理試験」と「薬物動態試験」では、QCが終わると承認申請までに研究資料のQA(Quality Assurance)を行い、試験の正確性を確認して陳述書が作成されます。Assurance(保証)とはAudit(監査)ではなく、試験資料の質を保証するための再点検と捉えます。最終的に、試験資料は手順に従って保存され、承認申請時の資料確認まで正確性を科学的に保つことが重要です。
見読性は「データの見やすさ」といえば単純明快ですが、科学的根拠を示すことが求められています。研究文書は予め定められた「文書規定」に沿って作成します。担当者、部署、実施年度が異なっても、共通の表記形式を保ちます。根拠となる生データは、共通フォーマットを用いて見やすい記載を心掛け、作成者と日付を明記し、また修正は予め定めた手順に従って行い、修正者と修正日を明記します。解析値は計算過程を記載し、図は根拠となる数値を併記しておきます。
実験で使用する消耗品は全てを一元管理し、使用後共通の保管場所に返却する。在庫試薬の棚卸も定期的に行う。廃棄液・廃棄物は、ISO 14001のような環境マネジメントシステムを活用して一元管理する。これらのSOPを定めておく。そして、実験室は研究行為のみを目的とした空間に維持します。このように管理することで、効率的な研究が実施でき試験の質に繋がります。
動物実験は最少の動物数を用い、「動物の愛護及び管理に関する法律」に沿った創薬研究を心掛けます。試験計画、動物入手、試験実施、報告の手順を、順次進めるのを当然の行為として遵守することで、研究結果の再現性を高めます。In vitro試験でも、計画後に研究試料(肝臓ミクロゾーム画分等)を調整して試験を実施し、この時、調整試料の一部は研究の根拠試料として保管管理します。このように試験試料の保管も再現性のために必要です。
冒頭で信頼性基準は日本固有と述べましたが、GLP試験と異なり、信頼性基準の共通性は非常に難しい課題です。つまり、試験実施のベースラインは共通ですが、試験体制は施設毎に構築され、部門・部署でも異なります。信頼性について必要十分と考える認識にも相違があります。最低限か、最大限か、現状は、など信頼性基準の理解は大変に難しく、目的である信頼性が確保されておれば良いとの理解になりがちです。
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