医薬品,医療機器滅菌の新しいトレンド“放射線滅菌”【第5回】

2015/11/12 製剤

山口 透

 放射線の殺菌効果を利用し、放射線を製品に照射して製品の無菌化を行うことを放射線滅菌と呼んでいます。放射線による殺菌効果は1930年にWyscoffらが大腸菌に対する作用を報告しています。1)そして、約50年経過した1980年代に放射線滅菌設備の研究が進み、放射線滅菌の本格的な実用化が始まりました。現在は、世界中に多くのガンマ線照射設備、電子線照射設備が導入され稼働しています。特に中国ではガンマ線照射設備の普及がめざましく、日本では逆に電子線照射設備が増えています。また、製品のリスクが高い医療用品に対する放射線滅菌については、製品の効能、機能、安全性を担保する必要があり、メーカーはISO規格を始め各国の規制に従い製造しています。

1. 滅菌に使われる放射線
放射線は物質に対して電離作用(イオン化)を起こすことから電離放射線と呼ばれ、滅菌に利用されているのはガンマ線(電磁波)、エックス線(電磁波)と電子線(粒子線)です。これらの放射線は身近に存在しています。たとえば、ラドン鉱泉、レントゲン、CT、ブラウン管テレビ、自然放射線(自然界から発生している放射線)、宇宙線などで、人間はもちろんのこと、多くの生物は太古から放射線に少しずつ照射されて生きてきました。放射線ホルミシスといって、低度の放射線に照射されることで生体活動を活性化し、健康に関係するといった研究結果もあります。また最近は、がん治療に陽子線や中性子線を利用した治療法が開発されています。

2. ガンマ線源
ガンマ線は光と同じ電磁波で、透過力が大きいことが特徴です。滅菌に用いるガンマ線源はコバルト60、セシウム137といった放射線同位元素を利用しています。コバルト60の製造方法は、自然界に大量にあるコバルト59に原子炉内で中性子を照射して得ていますが、世界的に供給できる企業が少ないため、最近は価格高騰、供給量不足などの問題が起きています。また、放射線同位元素は半減期があるため、定期的に補充する必要があります。さらに放射線同位元素は24時間放射線を放出しているため照射する製品が少ない場合は効率が悪くなります。

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執筆者について

山口 透

経歴 コンサルタント(滅菌、微生物管理、放射線改質)
元日本電子照射サービス(株) つくばセンター 技術担当部長
1955年生、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社にて医薬品、医療機器、医薬部外品、化粧品の開発(微生物関連、試験開発及びEOG滅菌バリデーション)、品質保証、薬事業務に従事し、2001年より日本電子照射サービス株式会社にて、電子線による改質、滅菌技術の研究開発、及び医薬品、医療機器等の電子線滅菌導入に係る滅菌条件設定、微生物、理化学受託試験を担当、2015年退職後、コンサルタント業(滅菌、微生物管理、放射線改質)開始、現在に至る。
元ISO TC198 WG8国内検討委員、 元ISO TC85 WG3 国内検討委員、元各JIS化検討委員、日本防菌防黴学会、高分子学会会員。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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