ラボにおけるERESとCSV【第55回】

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
II社 2017/11/17 483
施設:原薬工場

★解説:
本483に対し2018/7/17付けでウォーニングレターが発出され、データインテグリティの是正が求められた。

ウォーニングレターの要旨:
ラボにおけるテストの完全な記録を維持できておらず、原薬が規定の規格と標準に適合していることを保証できない。
貴社は以下のことを保証出来ていない。
•    原薬をテストした完全な記録がバッチ記録に含まれている
•    原薬のテストデータが品質部門によりレビューされている


Observation 1
QCラボの電子クロマトグラムを調査したところ、自動分析と手動分析が報告されておらず、規定に従った調査がなされていなかった。さらに、正式分析の前に試し分析がなされており、これも正式な記録に含まれていなかった。

★解説:
ここでは以下のことが指摘されている。

①   報告されていない自動分析がある。
これは、良い結果がでるまで繰り返し測定をしており、良い結果しかバッチ記録に記載されていない。つまり不都合な結果を隠蔽しており、良いとこ取りをしていると指摘している。

②   手動分析をしているが、そのことを記録しておらずまた手動分析の結果をレビューしていない。
手動分析つまり再解析を測定者の独断で実施しており、測定者が独断で実施した手動分析(再解析)を誰もレビューしていない。つまり、良い結果となるように測定者が都合のよい手動分析(再解析)をした可能性があると指摘している。
データインテグリティを保証するための手動分析(再解析)の要件は以下のとおりである。
  •    手動分析(再解析)の開始基準を規定する
  •    手動分析(再解析)を実施したときはその理由を記録する
  •    初回の分析データの削除厳禁
  •    データレビューにおいて手動分析(再解析)の正当性を電子記録により確認

③   試し分析のデータがバッチ記録に記載されていない
これは、HPLCの試験前調整分析いわゆるプレコンディショニングの試し打ちに関する指摘であると思われる。プレコンディショニングはHPLCに必要なものであるが、良いとこ取りの隠れ蓑として実施されることがあり得る。従って、正当な理由のあるプレコンディショニングを実施したことを証明できる必要がある。
しかし、プレコンディショニングの記録もなくプレコンディショニングの内容を正当化する記録もないとの指摘であると考えられる。HPLCプレコンディショニングにおける試し打ちを隠れ蓑にして、「合格するまでテスト」(Testing into Compliance)、すなわち良いとこ取りをしているのではないかと疑われている。良いとこ取りをしていることが判明すると、信頼のない試験結果に基づき出荷判定を継続してきたとみなされてしまう。良いとこ取りをしているとの疑いをかけられないよう、MHRA(英国医薬品庁)およびFDAは業界に対し以下の指針を示している。
  •    試し打ちの手順を規定すること
  •    試し打ちデータはすべて保存し報告すること
  •    試し打ちに製品サンプルは使用しないこと
HPLCプレコンディショニングにおける試し打ちに対するMHRAとFDAの指針を連載第15回第22回において解説したので参照されたい。
 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます