化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第21回】

多相エマルション 複雑な構造が機能を生み出す?

 エマルションの液滴の中にさらに細かい液滴が分散しているのが多相エマルションです。普通の化粧品や医薬品で使われるO/WエマルションやW/Oエマルションよりも少し複雑なモルフォロジーなわけですが、このタイプのエマルション、最近改めて注目されているのです。

 多相エマルションの歴史はかなり古く、筆者の知る限りでも100年ほど前には論文が発表されています。ペンシルバニア大学のWilliam Seifrizは、鉱油やオリーブオイルと、牛乳やチーズに含まれるタンパク質であるカゼインの水分散液を混合したときのエマルションの状態に電解質の添加や輸送の密度がどのような影響を及ぼすかを検討する中で、W/OエマルションからO/Wエマルションに転相する過程で妙なエマルションができる場合があることを見つけました[1]。それがまさに多相エマルションだったのです。液滴の中にもっと細かい液滴が紛れ込んでいる・・・。彼もよほど不思議だったらしく、色々な条件で何枚もの写真を撮影し、論文の中で紹介しています。

 このようにたまたま発見された多相エマルションは、新しい剤型として化粧品研究者の期待を背負うようになりました。エマルションの最内相に有効成分を配合すれば、ゆっくりと持続的に放出されて、スキンケアの効果が長時間保たれるようになるのではないかとか、幾つかの成分をそれぞれ別々の液滴や相に封じ込めることができれば、相互作用による機能の変化を防ぐことができるのではないか、とかさまざまな機能が期待されていたようです[2]。

 しかしながら、実際には多相エマルションを利用した化粧品はそんなにたくさんあるわけではありません。それはずばり、作るのが難しいのです。これまでにも紹介してきた通り、普通のW/OやO/Wのエマルションでも数年間にわたって安定なモノを調製するのは簡単ではなく、研究員のみなさんがかなりの時間を割いて市場に出せるレベルのモノに仕上げているわけですが、多相エマルションの場合はさらに液滴内で最内相の液滴同志が合一してしまったり、時には外相に出てしまうことがあるため、せっかく素晴らしい機能が実現してもそれを長期間保証することができなくなってしまうのでした[3]。また、最内相の液滴の大きさや数をコントロールすることは実質的には不可能で、運任せとするしかありませんでした。そんなことで、多相エマルションを使いこなすためには、界面化学に関する多くの経験と高いレベルの技術力が必要なようです。そんななかで、資生堂ではO/W/O型の多相エマルションを利用して皮膚の角化をコントロールする機能を持ちながらも、熱・光・酸化によって分解するために配合が難しかったビタミンAの安定化したり、単純エマルションにはない「こく」や「リッチ感」と呼ばれる使用感を演出することに成功しており、さすが!です[4]。

 

 

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