GCP監査入門【第8回】

 今回は実施医療機関を対象とした監査について紹介する。実施医療機関といっても大学病院や公立病院もあれば街のクリニックや、さらに第1相試験を専門とする医療機関もある。その中にはSMOの支援を受けている医療機関もある。このような様々な医療機関の状況について触れてみたい。さらに最近のCOVID-19、いわゆるコロナ禍の医療機関監査の現状も紹介しよう。

医療機関監査の流れ
 医療機関監査はもちろん実施医療機関を訪問して実地で行う。GCP省令第23条で監査を行うことが義務付けられているので、コロナ禍を理由に医療機関監査を行わないというわけにはいかないが、そうは言っても日程調整がなかなか進まずに、実施医療機関とSMOの訪問日程が2-3か月も間が空くこともある。さらに、治験スタッフとの直接の面談ができずにWebミーティングやメールで行うこともある。検査室や治験薬保管室のツアー(視察)ができないこともあり、この場合は詳細を担当者からヒアリングすることになる。このあたりをどのような方法で行うかを含めた日程調整が必要である。

 冒頭にSMOと書いたが、治験施設支援機関(Site Management Organization)のことであり、実施医療機関の業務を支援する企業のことである。具体的には、治験協力者としての業務の他、治験事務局や治験審査委員会(IRB)事務局の業務を支援(受託)する。
 病院での監査はSMOの支援の有無にかかわらず、病院の会議室で実施医療機関とIRBの両者の記録文書の閲覧を行う。一方でクリニック(診療所)を対象とした監査は実施医療機関とIRBの両方を同一のSMOが支援しているのが通常であり、この場合は実施医療機関とIRBの資料はSMOのオフィスで保管されているのでSMOを訪問して閲覧し、原資料はクリニックで保管されているので症例報告書との照合(SDV, Source Data Verification)はクリニックを訪問して閲覧する。なお、クリニックでの閲覧とツアーは、診療時間外(昼休診、夜間)に監査を実施することもある。

医療機関監査の対象
 前述のようにGCP省令第23条では「監査を実施しなければならない」とされており、監査を実施することは義務である。ところがGCPガイダンスでは「監査担当者も必要に応じて実施医療機関を訪問し」と書かれており、必要が無ければ実施医療機関を訪問しなくても良いと読める。この解釈としては、多施設共同治験の場合にはすべての実施医療機関を監査対象とせずに、抽出した実施医療機関だけを監査対象とするということだろう。監査対象施設を抽出する際の基準としては、例えば、治験実施計画書の逸脱が多い、治験責任医師や担当モニターの治験の経験が浅い、監査を実施したことがない施設、等々が考えられる。

 前回までにシステム監査と個々の治験の監査を紹介した。医療機関監査は1度の監査でこの両方の監査を行う。さらに、実施医療機関とIRBの両者の監査を行う。基本的には実施医療機関を訪問して行うのだが、前述のようにSMOの支援を受けている場合はSMOのオフィスを訪問することもあり、実施医療機関とIRBが異なる場合はIRBを訪問することもある。
 実施医療機関のシステムとしては、治験組織(実施医療機関の長、治験薬管理者、記録保存責任者等)、治験の実施に関する院内規定(手順書、細則等)、治験に関わる施設設備(治験薬保管場所、記録保存場所、検査室等)が監査対象になる。そしてIRBのシステムとしては、IRB規程(手順書、細則等)と委員構成を監査対象とする。
 個々の治験の監査としては、実施医療機関が保管している文書記録を確認し、症例報告書と原資料とのSDVを行う。IRBに関しては、当該試験の会議の記録(議事録)や審査結果通知等を閲覧して審議状況の適切性を確認する。

医療機関監査の準備
 実施医療機関を訪問する前に、当該実施医療機関のいろいろなイベントについて、社内で保管している資料をもとに確認する。イベントとは例えば次のようなものをいう。実施医療機関や治験責任医師の選定、治験実施計画書の合意や同意説明文書の作成依頼、治験の依頼・審査・承認・契約、治験薬の交付、安全性情報への対応、症例報告書の回収と点検、治験実施計画書の遵守。これらに関わるモニタリング状況について、訪問に先立つ十分な確認が必要となる。
 実施医療機関に対する監査実施通知を監査担当者が自ら行うこともあるが、当該実施医療機関の担当モニターを介したほうがスムーズに行うことができるだろう。訪問する日時と監査担当者の人数、準備しておいていただきたい文書記録等を、監査実施通知書(アジェンダ)に記載して予め提出しておく。実施医療機関によっては、監査申込書や電子カルテ閲覧の許可申請の他、今はCOVID-19のPCR陰性証明書を求める施設もある。

実施医療機関への訪問
 実施医療機関の訪問は、2-3人で1-2日ということが多いようだ。IRBが当該医療機関の院外に設置されている場合は、実施医療機関とは別にIRBを半日程度訪問することもあるし、あるいはIRBを監査対象とはせずに、実施医療機関に保管されているIRB関連資料で確認することもある。もちろん、実施医療機関の訪問前に社内で十分な確認を行って監査対象を明確にすることによって所要時間を短く終了することができる。
 2-3人の監査担当者が1-2日訪問すると書いたが、治験依頼者が外資系企業の場合は1人で3-4日程度のこともある。つまり、日本の治験依頼者は複数人で短期間で行うが、外資系企業では1名で数日の監査を行うことがある。PMDAによる適合性調査では複数人で短期間であるが、FDAは1人で数日という、規制当局の調査のやり方と共通するところであろう。

 実施医療機関を訪問して最初にお会いするのは治験事務局兼治験協力者の方ということが多い。彼女たちに対して、監査の目的とスケジュールをお伝えし、用意いただいている監査対象資料の確認を行う。これを開始時会議とかOpening Meetingとか言ったりする。
 その後で監査対象資料の確認を始めるが、通常は監査担当者のみであり、時には担当モニターが同席する場合もある。新GCPが施行された当時は「監査とモニタリングは独立していなければならないのに、同席してもいいんですか?」という疑問(クレーム)を治験事務局から頂いたこともあったが、もちろん「いいんです!」。独立と同席、まったく関係ありません。監査対象資料に疑問点があった場合に、モニターが同席していれば聞くことが即可能になる。もちろんその場に治験協力者が同席していただけるのであればそれに越したことはないのだが。
 

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