ラボにおけるERESとCSV【第80回】

国内におけるデータインテグリティ観察所見を引き続き解説する。
FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(50)
7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
■ PPP社 2019/09/13 483 その1
施設:バイオ原薬工場
■Observation 1 A)
pH計のデータは誰によるものか判らず、検証されておらず維持もされていない。このpH計はデータを電子記録で維持できるが、電子記録を維持していない。電子記録はレビューされておらずバックアップもされていない。
- 分析者はpH計の電子記録を削除できる
- 分析者はpH計の日時を変更できる
- 下記項目を記録する使用記録(ログブック)がpH計に備え付けられていない
・使用者 ・使用日時 ・被検物質のロットナンバー
pH計にログブックがなく、pH計のプリントアウト、電子記録のいずれにも測定者の名前がないため、pH計の記録がだれによるものか判らない。このpH計は個人ごとに個別のアカウントを設定できるが、その機能を使用していなかった。誰もpH計の使用履歴を確認しておらず、pH計の全てのデータが報告され、なにも削除されていないことを確認していなかった。pH計の設定を確認しておらず、これらの設定変更が誰によってなされたか限定できず、pH計の読みがどの分析者の責任に帰するのか説明できていない。
★解説:
本指摘に関する用語を説明する。
スタティックレコード形式とダイナミックレコード形式の定義;
- スタティックレコード形式
紙やpdfの様に、データが固定されており再処理や拡大表示ができないような記録の形式 - ダイナミックレコード形式
データ処理、データ解析、データを拡大表示できるような記録の形式。例えば、電子的に維持されているクロマトグラフィのオリジナルレコードの形式
オリジナルデータと生データの定義;
- オリジナルデータ
- 紙であろうが、電子であろうが最初に捉えた情報(PIC/S DIガイダンス 第7.5節)
- 生データ
- PIC/S GMP第4章 文書化
- 品質判定に用いる全てのデータ
- GMP事例集(2013年版 GMP20-5 )
- 最終結果を得るために使用した元となるデータ
- 最終結果を得るに至った過程を含む記録
- 最終結果を検証することができるもの
- PIC/S GMP第4章 文書化
最初に捉えた情報を「生データ」と解釈している場合が多いかもしれないが、データインテグリティの世界では、それは「オリジナルデータ」もしくは「オリジナルレコード」とよばれる。また、「生データ」の現時点におけるGMP上の定義は上記のようになっている。
オリジナルデータがダイナミックレコード形式(動的記録形式)である場合
データレビューの対象は;
- プリントアウトではない
- 生データであるダイナミックレコード形式の電子記録である
- 監査証跡を含む
本指摘対象のpH計のオリジナルデータはスタティック形式と考えて良い。
オリジナルデータがスタティックデータ形式である分析機器の場合、プリントアウトを参照してデータレビューすればよいと思われるかもしれない。しかし、再測定や再分析などを含むすべてのプリントアウトを参照し、以下を保証する必要がある。
- 正当な理由なく測定や分析を棄却していない
(全ての測定や分析が記録され報告されている) - データの良いとこ取りをしていない
つまり、不都合なプリントアウトを破棄していないことを証明できねばならない。
この証明が出来ない場合には、以下の対応が必要となる。
- 監査証跡を含む電子生データをすべて維持する
- 監査証跡を含む電子生データによりデータレビューする
- 電子生データの維持のために;
- 適切なバックアップ
- 必要に応じアーカイブ
- アーカイブしたときには、そのバックアップ
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