医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第13回】

 今回から免疫系に影響する毒性を考えたいと思います。

 免疫系とは、「生体内で病原体などの非自己物質やがん細胞などの異常な細胞や異物を認識して殺滅することにより、生体を病気から保護する多数の機構が集積した機構(Wikipediaより)」ということで、言ってみれば自衛隊のようなシステムだと考えるとわかりやすいかもしれません。
以下のようなフローで免疫系が機能します。
 ①    有害な病原体や異物(抗原)を認識する
 ②    防御に関与する細胞を増殖させ、局所の血管を拡張させるなどして準備する
 ③    抗原を攻撃して無毒化する(抗体や細胞)
 ④    攻撃をコントロールするとともに終息させる
 免疫系がうまく働かなくなると、上記のような一連の生体反応が阻害され、場合によっては、個体全体に悪影響を及ぼしたり、最悪の場合は死をむかえることになります。生体移植の場合の免疫阻害剤や、ある種の抗がん剤は直接的に免疫系の機能を抑制し、生体を免疫不全の状態にします。また、自分の身体の構成成分を抗原と見誤って攻撃すると、関節リューマチなどの自己免疫疾患を引き起こしてしまいます。

 医療機器の場合、もちろん上記のような免疫系を抑制するような物質が含まれている場合は、その影響について検討する必要がありますが、通常検討するのは、生体外異物に過剰な免疫反応を引き起こす恐れがないか確認することに主眼が置かれています。
 生体外異物に対する過剰な免疫反応とは、「アレルギー」のことを示します。
 アレルギーと聞いて思い浮かぶ疾患には、どのようなものがあるでしょうか。
 ・   喘息
 ・   アトピー性皮膚炎
 ・   花粉症
 ・   食物アレルギー
 ・   薬疹
 ・   蕁麻疹
 ・   ラテックスアレルギー
 ・   化粧品アレルギー
 ・   アナフィラキシー
 ・   ウルシアレルギー
 ちょっと考えただけでもいくつものアレルギーが出てきます。それだけ皆がなりやすいというものなのかもしれません。
 上述したとおり、過剰な免疫反応がアレルギーですが、本来であれば自己を守ってくれるはずの免疫系が、逆に攻撃してくるというのは、不思議だと以前から思っております。
 免疫を担当する細胞には、最も原始的なものとして、マクロファージという食細胞があります。これは異物を食べこんで分解したりする細胞です。ウニなどの無脊椎動物でも食細胞は存在するようです。そして、抗体を分泌して液性免疫を担うリンパ球の一種のB細胞と、様々なサイトカインを分泌するT細胞というリンパ球、好中球などの多核白血球という細胞が主たる攻撃する細胞として存在します。B細胞やT細胞は、サメなどの軟骨魚類でも認められるものの、ヤツメウナギなどの無顎類や無脊椎動物にはないそうです。だったらタコやイカには、私たちのような免疫システムがないのに、どうして生存できているのだろうという疑問が次に沸いてきます。その答えを知らないのですが、軟骨魚類以降が有する免疫システムは、生体防御のあるひとつの方法に過ぎないのかもしれません。しかも、アレルギーという問題のある反応が起きやすい脆弱なシステムという側面もあり、私達の免疫系はまだまだ進化の余地があるのかもしれないと思ったりします。

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